鉄道の価値 通勤編 その3

今日で1月が終わり、明日から2月です。

今年はあちらこちらで寒波による大雪に見舞われて大変なことになっているようですね。

 

今のところ、東京には大雪が降っていませんが、まだこの季節ですから油断はできません。

1月に気温が20度になった日があるということは、それだけいつもの年に比べてお天気が出鱈目だということですから、2月から3月にかけて、大雪の一つや二つ来てもおかしくないということだということです。

 

さて、東京の電車は雪に弱い。10センチも降ろうものなら大騒ぎで、あちらこちらで運転ができなくなるのは毎度のことでありますが、北海道に代表される北国では、雪が降ったって、よほどのことがない限りは鉄道はちゃんと走ります。

私はこれが実に不思議でして、交通というものはいったいなんだろうと考えるのであります。

 

何が不思議かというと、それは北海道の電車がどうして雪の中で走ることができるのか、ということではなくて、雪に弱いのがわかっているのに、どうして東京の電車は「大雪」でも走らせようとするのかということです。

 

 

経営危機に陥って、その責任を地域住民に押し付けようとしてるのが今のJR北海道で、国鉄の借金を全部国民に押し付けて30年前に誕生した会社が、30年経って体質というか本質は全く変わっていないのが、ここ数か月の「騒動」で露呈した形になっているのが現状ですが、そういう、「だったらどうしたらよいのでしょうか?」とか、「どこからお客様を連れてきたら経営がうまく行くのでしょうか。」などという潜在的な需要を開拓することが、TOPを含めて全然できない人間の集まりになっているということを私は何度も口を酸っぱくして言っているわけでありますが、つまりは、手探りの中で真っ白なキャンバスに将来図を描いていくことがビジネスであるにもかかわらず、そういうことが全然できていないありさまは批判されるべきであり、糾弾されるべきであり、今後、こういう人たちにこの鉄道を任せていたら、全部ダメにされてしまうわけですから、TOPを含め、過去の経緯を云々する人たちには、できるだけ速やかに消えていただかなければならない、ということが国民としてJRに求めることなのであります。

でも、その反面では、厳しい気象条件の中、交通機関として「ちゃんと列車を走らせる。」ということに関しては、全国どこの鉄道に比べたって、一番ちゃんとやっているのがJR北海道でありますから、そこのところはきちんと評価されるべきであって、何かあったら、お客様がどんなにたくさんいようが、困っていようが、自分には関係ないとばかりに駅のシャッターを閉めてしまうような会社とは本質的に違うのであります。

 

だから、今日はあえて、JR北海道の「すごさ」を申し上げたいと思うのですが、とにかく大雪が降っても列車がちゃんと走っているのです。

 

 

ではどうしてJR北海道の列車は雪に強いのかというと、一言で申し上げれば設備投資をちゃんと行っているということです。

上の写真は札幌駅構内の線路ですが、こんなに線路が見えなくなるほど雪があっても電車は走ります。定期的に雪かき列車で除雪をしているのはもちろんですが、線路のポイントの部分だけ雪がないでしょう。実はこの部分には電気的な融雪装置が付いていて、24時間稼働していますから雪が積もらないし凍結もしない。

雪で電車が走らなくなる一番の理由は「ポイントの不転換」ですから、この部分にきちんと設備投資をしているし、維持管理コストもかけているのです。

 

こちらの写真は札幌駅ですが、この部分には屋根があるにもかかわらず、線路が雪だらけ。

駅に到着した列車の床下や足回りから、ゴソッと雪の塊が落ちるのです。

ということは、走行中の列車に猛烈な勢いで雪が付着したり、その付着した雪が走行中に落ちて、床下の機械類や台車に傷をつける可能性もあるのですが、車両そのものにもきちんと雪害対策がしてありますから、雪が降ろうが降るまいが、列車はいつも通りにちゃんと走るのです。

 

 

この写真は走行中の車内からのカットですが、当然ですがワイパーが寒冷地仕様です。だから多少の雪でもびくともしません。

 

 

札幌駅のホームの屋根です。

見ると50センチぐらい雪が積もっています。

でも、その積もった雪がやたらに落ちてこないように、屋根の先端に金網があって雪の落下に備えています。

 

東京の電車が雪で動かなくなる問題の一つに、屋根への積雪があります。

ホームの屋根ではなくて、電車そのものの屋根への積雪ですが、パンタグラフに雪が積もると、重さでパンタグラフが下がってしまいます。

すると、架線とパンタグラフの間に隙間ができて、そこがスパークし、その火花で架線が切断されてしまいます。

そういう時はどうするかというと、そうなる前にパンタグラフを下してしまえばスパークしませんから、架線の切断も発生しません。でも、それと同時に電車は走れなくなります。

走れなくなるばかりではありません。電源が供給されませんから、空調も暖房も停止してしまいます。

へたをすれば寒い中でお客様が凍えてしまう事態にも発展しかねません。

でも、JR北海道では、雪の重みでパンタグラフが下がってしまうようなことはありません。

なぜなら、雪に強いパンタグラフを装備しているからです。

 

つまり、JR北海道は、多少の雪が降ってもきちんと列車の運転ができるように、車両も線路も駅構内も、それなりの設備を準備しているわけで、その分の費用負担が営業経費として東京の電車とは比べ物にならないほど大きいのです。

それが高コストになる原因の一つでもありますが、東京の電車は、その高コスト化を防ぐために、雪が降っても困らないような線路や駅の設備は基本的にはほとんどしていませんし、車両にもお金をかけていないんです。

冬だけではありません。電車そのものが、空調がきちんと稼働する前提で設計されていますから、電気の供給が停止したら冷房も利かない。かといって十分に窓を開けて換気することもできない。だから夏だって乗客は悲惨な目に合います。こういうことが東京の電車なのであります。

 

もし何かあっても、きちんと仕事を継続することができるようにすること。

これをBCP(Business Continuity Plan)というのですが、東京の電車に関してはBCPという観点が全く考慮されていないのです。

このBCPに対して、EP(Emergency Plannning)というのがあります。つまり、緊急時対応ですが、例えば電車のドアが手動で開けられるような装置が車内にあるとか、貫通扉から外部に出られるように梯子を積んであるとか、こういう設備はすべての電車に備え付けられていますが、それはあくまでも緊急時の脱出のための避難用であって、例えば急に電気が停止したり、駅間で動かなくなった時のための一時的な対応ができていないのが現実です。

 

でも、今の時代、東京に大雪が降ることは想定外ではありません。

大地震が来る回数よりもはるかに多く発生します。

何らかの事情で電気が供給されなくなって、電車が途中で立ち往生することだってかなりの確率で発生することが考えられます。

だとしたら、雪が降ってもきちんと電車が走れるような準備を設備の側でしておくべきであって、パンタグラフが雪の重みで下がってしまうのであれば、下がらないパンタグラフを取り付ければよいわけで、電気が来なくなって空調が効かなくなるのであれば、きちんと空調の運転ができるようなバッテリーでも搭載してあれば済むことなんです。

ではなぜそういうことをやらないのかというと、その理由はただ一つ。コストです。

そんなめったに使わないようなもののために設備投資などできない、というただ一つの理由です。

EPのための緊急避難用設備は法律で義務付けられているから、仕方なく装備していますが、BCPの観点から見た設備が線路にも車両にも設備投資されていない。

会社も従業員も、二言目には「もし何かあったらどうするんだ。」と言って余計な事をしたがらない社風の割には、その「もし何かあった時のための」準備というか設備がされていない。

お客様の避難誘導訓練などは、EPの話であって、私が申し上げているのはBCPの話でありますが、だから、大地震の際に、本来であれば道行く人をHELPするべき公共機関が、自分たちだけの都合でシャッターを閉めてしまうようなことが発生するわけであり、近くのビルやホテルが、持てる設備を困った人々のために開放するのとは全く違う光景が見られるのであって、これは、「民間会社」ということをはき違えている証拠なわけです。

 

飛行機の扉には脱出用のシューターが取り付けられているのはご存知だと思います。

あれは緊急時に使用するためのものです。

全ての飛行機の全てのドアに取り付けられていますが、そのうちのほとんどの脱出用シューターは、飛行機が新造されてから引退するまでの間、一度も使われることはありません。

車のエアバッグも同じですね。

新車で買ってから、廃車にするまで、1度も使われないのがほとんどです。

それは、緊急時用としての使命です。一度も使われないことが、正解だからです。

 

でも、BCPとしての考えは、もう少し頻度が高く発生する事態に対しての備えです。

1年に数回あるかもしれないこと。台風や大雪などがそうですね。

そして、東京の電車がBCPとしてそういうことに対応できていないというのであれば、私は、そのことを国民に正直に申し上げて、「明日は大雪ですから電車は動かしません。」と宣言すればよいと思うのです。

年に1度か2度あるかどうかの事態に備えていないということは、そういう事態にはサービスを提供できないということですから、そういう時に、従業員に無理を言って、できもしないのに、列車を動かそうとすることはある意味お客様に対して不親切だと思います。

その会社にやる気があるかないかは別として、「弊社では電車に大雪対策を施しておりませんので、本日は電車は走りません。」と宣言する方が、よほど親切というものです。

 

そして国民は自分自身でBCPを考える。

大雪が予想されるときは、会社をお休みにするとか、休めないなら会社に泊まるとか、自分自身で対策を取ること。

雪で動かない電車の駅で、駅員に詰め寄って、「なんで遅れてるんだ!」と叫んでいる人間は、自分で自分のことを「僕は馬鹿です。事前対策取りませんでした。」とあざ笑うような時代にしていくことが、都会人のライフスタイルだと思うのであります。

 

私などは、空港に勤務していましたから、台風や大雪が予想される場合は、毎度毎度泊まり込みが当たり前でしたからね。

そういう時に、会社が宿泊のためのホテルを用意してくれない人間は、「別に無理してこなくても良い」人間ということで、それはその会社がBCPとして判断することなのではないでしょうか。

 

でもって、そういう時代になってくると、早々と電車を止める宣言をしてしまう鉄道会社と、きちんと設備投資をして対策を取る会社に分かれると思いますから、国民の皆様方は、どの鉄道会社の沿線に住んだ方が安心できるかということも徐々に判断できるようになるでしょう。

 

もうすでに始まっていますよ。

何かトラブルがあると相互乗り入れや直通運転をすぐに停止して、自社線内だけは何とか運転を確保できる路線と、それができない路線などというのは、そういうことなのです。

はるか遠くの路線で何かトラブルが発生すると、100km以上も離れたところの電車が動かなくなる。

いくら相互乗り入れで乗り換えが無くなって便利になったといったところで、こんなことではどうしょうもないのですからね。

 

そうすれば、悪天候に強い路線と弱い路線の明暗が分かれるというものであり、沿線の不動産価値にも差が出てくると思います。

 

そういうことも通勤路線としての鉄道の価値ではないでしょうか。

 

東京の鉄道会社が一番遅れていることは、この「BCP」に関してなんですが、それでも、各社それぞれ、違いが出始めていると私は考えています。(今日のところは、あえてどこがどうとは言いませんが。)

 

明日から2月。

一難去って、また一難。

来ますよ。すごいのが。

 

鉄道通勤の皆様方は、自分の路線の特徴や、会社のやる気をよく把握して、それぞれのBCPを自分で考えて事前準備しておきましょう。

通勤距離も長くなっている今の世の中は、「明日は大雪だからいつもより早めに家を出るか」的な対応では追いつかないのですから。

 

そして、これからどこに住もうかを考えていらっしゃる若い人たちは、そういうことをきちんと把握して準備していきましょう。

決して、路線のイメージや地域のイメージに左右されてはいけませんよ。

そういうことに左右されるのは、皆様方のお父さんお母さんの時代で終わりにしておきましょうね。

 

(おわり)