現代版航空旅行用心集 「飛行機の重量計算」

時々は飛行機の話。

 

飛行機は空を飛びます。

だから、あまり重いと空に浮きあがれません。

 

こんなことは小学生でもわかりますね。

飛行機には性能というものがあって、大きな飛行機には大きなエンジンが付いていて、性能が良いですから、たくさんの人や物を搭載して離陸することができます。ただし、それには長い滑走路が必要です。

小さな飛行機には小さなエンジンが付いていて、あまり性能がよくありませんから、人や物をあまり積むことができませんが、短い滑走路から離陸することができます。

簡単に言うと、これが運航の条件です。

つまり、羽田空港から札幌の新千歳空港に行くような路線は、どちらの飛行場にも長い滑走路がありますから、大きな飛行機が飛ぶことができます。でも、羽田空港は大丈夫でも、目的地の空港が小さくて滑走路が短いところでは、大きな飛行機を飛ばすことができませんから、飛行機は小さくなります。ところがよくしたことに、そういう小さい空港へ行く路線は需要自体も少ないですから、小さい飛行機で十分だということになります。

 

これが航空輸送の現実だと言われてきましたが、最近では少し事情が違ってきているようで、航空レーダーや管制技術の発達で空港の発着枠が拡大されると、それまでは少ない発着枠のためにできるだけ1回の離着陸でたくさんの人や物を運ぼうと、大きな飛行機が重宝がられていましたが、発着枠に余裕ができると、できるだけ小さな飛行機を使って、常に満席で運航する方が、経営的には効率が良いという話になって、今では東京から札幌や大阪へ行く便でも小さな飛行機が飛ぶようになってきました。大きな飛行機ならば到着してから折り返し便が出発するまでに1時間かかっていたものが、小さな飛行機なら30分で可能になるわけで、そうすることによってさらに運用効率を上げることができますから、飛行機の回転率が多くなる。これがつまりLCCの考え方ですね。

 

さて、ここで最初に戻りましょう。

小さい飛行機は大きい飛行機に比べると、人や貨物を搭載できる重量が少ないばかりではなく、燃料の搭載量も限られます。だから、小さい飛行機は大きい飛行機に比べて、遠くへ飛ぶことができません。遠くへ飛ぶにはそのための燃料をたくさん積まなければなりませんが、そうすると搭載できる人や物の重量を制限しなければならなくなるからで、逆に言うと、人や物を積まなければその分燃料を多く積むことができますから、遠くへ飛ぶことができるということになります。

つまり、経営が成り立つかどうか、ぎりぎりの駆け引きが必要になる。それが飛行機の重量計算です。

今は飛行機の性能がよくなりましたし、空港の滑走路も長くなりましたから、お客さん数名で満席となる離島便など以外ではあまりこういう駆け引きをしなくても済むようになりましたが、私が飛行機の勉強をしていたころは、こういう便が各地にありました。

 

その一つが羽田空港と北海道の女満別空港を結ぶ路線で、女満別空港の滑走路が短かったために、昭和の時代にはYS11というプロペラ機が飛んでいました。YS11は64人乗りの国産旅客機で、日本各地のローカル空港に就航していましたが、その中で当時一番長距離だったのが羽田ー女満別路線で、片道3時間以上かかる路線でした。

この羽田ー女満別、片道3時間というのは、YS11という小型機にとってみたらかなりの長距離路線で、簡単に言うとお客様を満席にして貨物を積んで必要な燃料を搭載すると重量オーバーで飛行機が離陸できなくなる状態でした。

今は女満別空港はジェット化されましたので、A320やB737がすいすい飛行していますが、滑走路の長さが1200mしかなかった当時はジェット機が飛べませんから、YS11じゃないとだめだったのですが、そのYS11だと羽田からの距離が遠すぎて、運用制限をかけないと飛んで行かれなかったのです。

 

こういう場合は、航空会社はどうしていたかというと、実は64人乗りの飛行機ですが、予約センターのコンピューターに入っている座席数は40席程度で、実際には40席予約が入った段階で「満席です。」と言われて予約が取れないように操作していました。鉄道でいうとマルスに席が入っていないという状態です。

ですから、満席だと案内されていたにもかかわらず、飛行機に入るとガラガラで、「おかしいなあ?」と思うこともしばしばでした。この構造を知っている人は、予約が取れなくても空港へ行ってカウンターでスタンバイしていれば、最後の最後に、「はい、どうぞ」と搭乗券をくれたものです。

予約を受けておいて、当日、「実は重量制限でお乗りいただけません。」と空港でお客様に断るのはトラブルの元ですから、あらかじめ予約が取れないように座席数を制限していたのです。

つまり当初からビジネスチャンスを失っていたようなものだったのです。

 

では、予約を持った人が空港へ来てチェックインをします。搭乗券をもらい、カバンを預ける人は預けて、セキュリティー検査に向かうのですが、女満別便の場合は、その前にやることがあります。それは「体重測定」です。

機内に持ち込む手荷物を持って、お客様一人一人が体重計の上に乗ります。そして体重測定を受けるのです。

預ける手荷物が10kgとして、体重測定で75kgだとすれば、その人が機内に入ると85kgになります。一人一人のお客様の体重を測定することで、より正確な搭載重量を算出するのです。

 

これ以外にバランスも必要です。飛行機は前後のバランスを取りながら飛行しています。前が重すぎたり、後ろが重すぎたりすると、トリムという補助翼を作動させて、飛行中のバランスを取りながら飛行しますが、この補助翼を作動させるということはつまりは抵抗が増えるわけですから燃料消費が大きくなります。だから、お客様を機内のどこに座らせるかが重要になります。満席であれば気になりませんが、64席中40席しかお客様がいないわけですから、そういう飛行機では重量バランスをよくするために、主翼付近に座ってもらうように、後部客席を塞いでいたりします。機内に入って、小さな飛行機なのに、後ろの方がガラガラで、通路に通せんぼするようにロープが渡してあって、「ここから先は行けません。」と塞がれているのを見た人もいるかもしれませんが、これがまさしく重量計算とバランス計算によるもので、かなりシビアな飛行計画だということが理解できると思います。

 

こうして、実際に飛行機に搭載する重量を正確に割り出して飛行していたのが昭和の飛行機ですが、今は飛行機の性能がよくなっているのでよほどのことがない限りはこういうことはやらないと思いますが、この重量計算を逆に考えると、機体に搭載する人や荷物を少なくすれば、同じ飛行機、同じ路線でも、搭載する燃料が少なくて済むということになります。

これを巧みに行っているのがLCCで、通常国内線の飛行機に持ち込める機内持ち込み手荷物は10kgとされているところ、LCCのある会社では7kg。つまり3kg少ないのですが、この3kgが、お客様150名となると450kgになるわけで、あらかじめ計算するフォーマット上で1人当たり3kg減らしておけば、同じ満席の飛行機でも450kg重量を軽くすることができますから、その分、搭載燃料も少なくできるということです。

 

燃料というのは不思議なもので、例えば、目的地の天候がよくないから、念のために5トン余分に燃料を搭載していくと、目的地に着いたときに5トン余分に搭載したはずの燃料が4.5トンに目減りしていたりします。どうしてかというと、その5トンの燃料を余分に搭載して飛行したことにより、さらに500kg余計に燃料を消費するためで、だから出発地で飛行機に搭載する燃料は、できるだけ少ない方が良いとされているのです。

人や荷物も同じで、貨物でしたら1kgあたりいくらと輸送料金を頂戴できますが、航空運賃に含まれている機内持ち込み手荷物は無料の部分ですから、その無料の部分をできるだけ低くして条件設定することで、計算上の運航効率をよくして、少しでもオペレーションコストを下げるというのが、LCCに求められているということなのです。

 

もっとも、これはあくまでも計算上の問題で、手荷物が多少多かったからといって事故につながるものではありません。

飛行機にはかなり多くの安全マージンというのが見込まれていて、たいていは大丈夫ですから。

その証拠に、いくら重量超過に厳しいLCCとはいっても、体重測定はやってません。

あくまでも男性1人何キロ、女性1人何キロと平均値で計算しています。

もしLCCがかつての女満別便のように1人1人の体重測定をやっていたら、私などは超過料金対象者ですから、「お客さん、ちょっと待ってください。」とゲートで止められること間違いないですが、今まで一度も言われたことはありませんので、皆様もどうぞご安心ください。

 

(つづく)