暑くなってくると食欲がなくなります。
食欲がなくなるということは、私のような体形をしている人間にとってみれば好都合で、できるだけ食べなくて済むのであればそれに越したことはないと考えてしまうのですが、そうも言ってられない。
だから、こういう時はツルツルと麺類を食べようと思うのですが、かん水アレルギーの私には中華麺はオプションに入っていませんから、麺といえばうどんかソバ。
でも、前に書いたことがあるかもしれませんが、関東育ちの私にとって、うどんは一般的でなく、やっぱりソバ。
と、思いたいのですが、ソバというのはこだわりがあるところが多くて、ちょっとおいしいソバを食べようと思うと、ソバ屋のおやじの薀蓄(うんちく)を聞いて納得をしなければならない雰囲気があります。
私はそういうのが嫌いで、だいたい食欲がないからソバを食べようと思うだけであって、何もそば粉の挽き方や配合などを聞く気はさらさらないわけですから、そういう格好をつけたソバ屋には足が向きません。
ということで何となく思い出した話。
本日の表題「もりかけ3銭」と聞いて、ピンとくる方は相当の文学青年、文学少女とお見受けします。
これは文学青年、文学少女には有名な話で、四国から出てきた菊池寛が、東京で初めてソバ屋に入ってメニューを見ると「もりかけ3銭」と書いてある。
一番安い献立だから、菊池寛はそのまま、「おい、もりかけをくれ。」と言ったそうだ。
「もり」「かけ」、つまり冷たいソバか温かいソバ、どちらも「3銭」という意味なのは明白ですが、四国から出てきて東京のソバ屋に入った菊池寛としては、そんなことは知らないから、それからしばらく「もりかけ」と言って注文していたそうな。
この話は私は中学生の時に田山花袋にそっくりな特攻隊の生き残りの国語の先生から聞いたのですが、なぜ40年以上も覚えているかというと、田山花袋が菊池寛の話をしていたからではなくて、当時私は13~14歳。SLを追いかけて生まれて初めて西日本を旅していて、お金がないから食事は毎日立ち食いうどん。
そのメニューの中に「かやくうどん」「おかめうどん」というのがあって、初めて見るメニューを全く理解できないという衝撃を受けたばかりだったからですが、そういう中学生の私の前にうどん屋のおばさんが出してくれた「かやくうどん」「おかめうどん」の何とおいしかったこと。
その時以来私は西日本の味付けのファンになってしまい、今でも味噌や醤油は彼方から取り寄せているわけですが、それに対して関東のソバ屋というのはどうも。
だいたい関東のソバ屋のほとんどは銚子にあるしょうゆメーカーの醤油だしね。
いや、これは何も銚子のそのメーカーを嫌っているわけではありませんよ。
そこで出している「本膳」という醤油は、これは最高の醤油だと思って30年前からファンでありますから、味という意味ではなくて、「ソバにそこまでこだわるんだったら、汁だってどこも同じものを使わないでもっと工夫しようよ。」という意味で、いただけないわけです。
(ということで、実は我が家には醤油が数種類常備されていて、その時によって使い分けているのですが、家族からしてみたらなんとまあ面倒くさいおやじ、ということなのであります。)
だから私は薀蓄を垂れるソバ屋には絶対入らないし、そういうところは薀蓄を聞かされるにもかかわらず、ソバの値段が高い。
そして量が少ない。
そういうソバ屋のおやじの薀蓄を「ほう、ほう」とありがたがって聞く趣味は私にはないし、もったいぶって出されるほんのちょっとの盛りのそばには特段の付加価値は感じないから、地方都市へ行ってもソバ屋に入ることはないのであります。
つまり、薀蓄ファンから見たら味がわからないかわいそうな人間だということでありますが、まあ、暑いからソバが食べたいだけですから、当初の目的通り、ツルツルと喉を通って行けばそれでよいのであります。
ところで、関東だけかもしれませんが、「もり」と「ざる」というメニューが二つ並んでいて、出てくるソバは一緒。
ただし値段は「ざる」の方が高いということがあります。
私の子供の頃、昭和40年代ですが、記憶によれば「もり」が40円だとすると「ざる」は50円か60円。
何が違うかというと、「ざる」にはソバの上に海苔がかかっていて、そばつゆの脇にウズラの卵が付いている。
「もり」は何もなくてただ薬味とつゆだけ。
これが私の認識するところの「もり」と「ざる」の違いですが、本当は「ざる」の方が特別の出汁でとったそばつゆを使うと言われる方もいらっしゃいますが、私の子供の頃といえば、海苔も卵も高級品でしたから、いつかは「ざる」を食べたいなあと思いつつ、たいていは「もり」で、「ざる」よりも「もり」2枚を食べる方がうれしかったことを思い出します。
つまり、合理的だったわけですが、そういう点では、気取って食べることを良しとするソバ屋よりも、うどん屋の方が合理的であり、東京育ちの私としては、SLを追いかけていた当時から西日本の文化にあこがれる日々が続いているということなのであります。
耳元で京ことばをささやかれるシーンを想像すると、カミさんも西日本の人だったらなあ、と思わないでもない今日この頃でございます。

一番簡単なざるそば。500円。
どこかのパーキングエリア。
丸いざるに盛ってあるし、海苔がかかっているからざる。
もりそばはたいてい四角。
でもウズラの卵がない。
ちなみに、最近ざるともりを両方そろえているお店は少ないかな。

こういうのは最近では「せいろ」と呼ばれるよう。
1500円。
地鶏のつけ汁がついているけど、海苔はなし。
どちらかというと気取った店の部類。
でもパーキングエリア。

このところ何となく蕎麦ばかり。
やっぱりこれかなあ。
大多喜駅前の番所のざるそば。
値段は忘れたけどたぶん800円ちょっと。
社長サービスでたけのこご飯付き。
蕎麦ってこのぐらいじゃないとね。
何も気どりがない。
だいたい、乾麺を茹でたものだし。
でも、これでいいのです。
私の一番のお気に入りは、実は群馬の親せきから送ってくるとろろつなぎの乾麺。
暑い夏は、やっぱりそばですね。
って、今日は担々麺と生姜焼きセットで頭のてっぺんから湯気が出ましたけどね。

東京四ツ谷で生姜焼きセットにミニ担々麺付き。790円。
夏バテしないように頑張ったけど、担々麺全部は無理だった。
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