Knock-on Effect

英語に「Knock-on Effect」という言葉があります。
物事が連続して起こることを意味します。
航空会社では、例えば天候不良で飛行機が飛べないようなことがあると、その影響で関係ないところの便まで運休になったり遅れたりすることを言います。
例えば、沖縄に台風が来ていて、東京まで飛行機が飛んでくることができないとします。
すると、沖縄から東京に到着する飛行機を使用する次の東京発札幌行が欠航になったりします。
台風が来ているのは沖縄であって、東京はいい天気だし、札幌も問題ない。
だけど、飛んでくるはずの飛行機が来ないのだから、東京発札幌行も欠航になる。
こういうのを「Knock-on Effect」と言うのです。
航空会社のホームページを見ると、「機材繰りのため欠航」「使用する飛行機の到着遅れのため遅延」などと書かれていたりしますが、本来飛ぶべき飛行機が飛ばなければ、予約していたお客様は途方に暮れてしまいます。
輸送の責任を負えない場合は、契約不履行として航空会社は宿泊費などを負担しなければならないのが常ですが、最初の欠航の理由が沖縄の天候である以上、Knock-on Effectで発生した東京発札幌行の便の欠航も不可抗力とみなされ、お客様への宿泊費用の提供などが発生しても、航空会社は費用負担に応じないことができるとされています。
このKnock-on Effectが認められているのは、通常、国内線では翌日まで。国際線では3日間とされています。
例えば、明日台風が来そうだというときに、国際線の飛行機は10時間以上かけて飛んでくる場合がほとんどですから、明日の午前10時に到着する予定の飛行機を、飛ばそうかどうか検討するとしたら、前の日の夕方には決定しなければなりません。
ロンドンから飛んでくる飛行機は、日本時間の夜10時に出発するわけですから、チェックイン開始はその4時間前とすれば日本時間で午後6時。だとすれば午後4時には飛ばすか飛ばさないかの結論を出さなければなりません。
飛んできた飛行機が成田に到着する時刻に台風がちょうど接近していたらどうなるでしょうか。
当然成田に降りられない。台風のようなときは羽田もほぼ同じ天候ですから、飛行機は札幌へ行くか大阪へ行ってしまいます。
そうなると下手すればその飛行機が成田に戻ってくるのが早くても夕方になります。
折り返し便は夜の出発となり、6時間以上遅れてしまいます。
その飛行機は成田からロンドンへ行って、その後アフリカへ行く運用が待っているかもしれませんが、だとするとそのアフリカ便も遅れます。すると、アフリカから折り返したり、さらに先へ行ったりする便にも影響を受けます。
国際線の場合は、Knock-on Effectが数日間続くというのはこのためで、だから、「最初から成田便を欠航させよう。」という判断も時として必要になるわけです。
そうすると、前の日の夕方には、「明日の便は飛びません。」となるわけです。
そうなると今度は地上職員が大変です。
予約課のスタッフが手分けして旅行会社に連絡してお客様へご案内する必要があります。
成田から出発する人なら連絡がつくかもしれませんが、どこかほかのところからやってきて、成田でロンドン行きに乗り継ぐお客様もいるかもしれません。
あらゆる手を打って、お客様にご迷惑をおかけしないようにするのが職員の仕事です。
中には、当日飛行機の欠航を知らずにチェックインカウンターに現れるお客様もいらっしゃいます。
東京や千葉の人なら、「今日は飛びません。明日に予約を取り直しましたから、今日は家に帰ってください。」と言えば済むかもしれませんが、新幹線で福島からやってきたとか、いろいろな方がいらっしゃいますから、そういうお客様へ「明日出直してください。」と言ったところで、お客様は途方に暮れてしまいます。
だからと言って、天候が理由ですから、航空会社がホテルを手配して宿泊場所や食事を確保して差し上げることはできません。
本当に台風が直撃していれば、まだお客様も納得しますが、予定のコースをそれて、成田はいい天気になってしまったなどと言うこともよくある話ですから、「天候による欠航」はなかなかご納得いただけない場合もあるのです。
そういう時、私たちはお客様に事情を説明した後、ホテルを取って差し上げます。
こちらで契約しているホテルなどの中から、もちろん航空会社で費用負担はできませんが、目の前にいらっしゃるお客様が、途方に暮れているわけですから、何とかお手伝いをして、お客様に安心していただくこともサービス業としての基本的な仕事ですから。
理由が天候だから、お客様が困っていても、職員は何もできない、する必要はないということではないのです。
天候が理由であれば、航空会社は宿泊の費用を負担することはできませんが、お客様のお世話をしたり、お手伝いをすることもできないというのではありませんから。
自分たちの知っているホテルの中から、できるだけお客様のご希望に合うようなホテルを選んであげて、航空会社から連絡をすれば、向こうのホテルだって邪険にはできません。まして、悪天候で欠航便が出ていれば、急にホテルが必要になるお客様がいる反面、飛行機が来ないのですから、予約していた部屋がキャンセルになることもたくさんあります。
そんなサービスを一生懸命してあげると、たいていのお客様は「あなたの会社の責任じゃないのに、よくやってくれた。ありがとう。」と感謝してくれますし、そういう言葉をいただくことは、サービス業に勤める人間として、一番うれしい瞬間でもあるのです。
さて、本日は強風のため千葉県の鉄道は大きく乱れました。
一部の列車が動かなかったからなんですが、実は、航空会社のやり方を真似たのかどうかは知りませんが、昨日の夕方の段階からマスコミに対して、「明日は風が強いことが予想されるから、千葉県の特急列車の運転は行いません。」とJRは宣言したのです。

どうして明日風が強いことが予測されると、前日の夕方の段階で千葉県の特急列車の運休が発表されるか、私は理解に苦しみます。
例えば、長距離を走るブルートレインのような列車ならば、「日本海で悪天候が予想されるため、運休です。」などと言うことは理解できますし、実際に何度もありました。出て行った列車が途中で立ち往生してしまうと、Knock-on Effectとして、翌日の列車も運転できなくなる可能性がありますから、それならば大阪発も青森発も同時に運休にしてしまえば、少なくとも翌日には影響しません。そういう判断基準があると思うのですが、千葉県の特急列車は100km程度の距離を走るだけですから2時間ちょっとで終点に到着します。なにも前日の段階で運休を決める必要性はないわけで、当日風が強くなって規定値を超えた段階か、超えることがはっきりした段階で「運休」にすればすむんです。
そういう地域にあるのに、なぜ前日から運休を決めるのか。
JRはおそらく「お客様へのご迷惑を最小限にするため云々」と理由を並べるかもしれませんが、だったら同じことを新幹線だって他の路線だったやればよいのに、千葉県の特急列車だけ早々と「明日は走らせません。」という理由にはならんのです。
これは私の印象ですが、「儲からない路線に手間をかけるのはいやだから、さっさと止めちまおう」的な面倒くさげな感じがするのですが、皆様はいかがお感じになられますか?
そして、たぶん止めても大した影響は出ない程度の利用率なんだと思いますよ。
そういう路線や列車は運休の対象にノミネートされるということも、私は航空会社時代にいやというほど経験しているからわかるのです。
本当は別の理由があるかもしれませんが、お客様にそのように思われていること自体、サービス業としてはスタンダードが低いという証明になるのです。
さて、私が本当に心配しているのは、沿線の人たちがこういうJRのやり方に対して何も声を出さなくなるということ。
実は計画運休は今年に入ってから今日だけじゃなくて数回あるのです。
そういうことを平気でやられているのに、皆さん黙っている。
そうなると、人間は「な~んだ、それでいいんだ。」となりますから、やる側だって慣れっこになってしまいます。
そういうことを繰り返しているうちに、その先にはどういうことが待ち構えているのでしょうか。
そのKnock-on Effectを考えると、私はとても恐ろしい気がするのであります。
その証拠に、鉄道会社は運休になった列車のお客様に何かお世話をしてくれましたか?
せいぜい特急料金の払い戻しと、各駅停車のご案内ぐらいでしょう。
「すみません、御宿にはどうやって行ったらよいのでしょうか?」
そう聞いたとしても、「お前の泊まるところなんか知らないよ。」と言われるのが関の山じゃないでしょうか。
あの、すみません。「御宿」は泊まるところではなくて、「おんじゅく」という外房線の駅なんですが。
そういうことも知らない職員が現場にはたくさんいらっしゃるようですので、皆さん、鉄道で旅行するときには、自己責任で行動できるような覚悟を持ってご乗車ください。
あたしが社長なら、「ふざけるな!」と現場を恫喝しますよ。
何のためのサービス業なのか。
鉄道会社の職員は基本がわかっていない人が多く見られます。
うちの会社も例外ではありませんから、自らを正す再教育が必要なのであります。
人のふり見てわがふり直せ。
これもまたKnock-on Effectと言えそうですね。
いすみ鉄道でも現業部門の職員へサービスの基本を再認識させる取り組みをスタートしています。
弊社職員のサービス姿勢にお気づきの点がございましたら、何なりとご意見をお寄せください。
ただし、今までのことではなくて、今後のことのみでお願いいたします。