すべてシナリオ通りのブルートレイン全廃

「あけぼの」の廃止の次は「北斗星」をはじめとする「機関車牽引夜行列車の全廃」が数年後らしいということで、世の鉄道ファンは落胆というか嘆きというか、一部では大騒ぎのようですね。
でも、私としては「いまさら何を」と思います。
昨夜、「あけぼの」の項でもお話ししましたが、夜行列車の場合、乗車率がどうとか、鉄道旅行の象徴的存在であるとか、そういうことは全く関係なく、廃止するのはただただ「面倒くさいから」という理由だけなんです。
第一、始発駅の上野駅の構造を見てください。行き止まり式のホームでは機関車を反対側へ付け替えることができない。車庫から何キロもゆっくりゆっくり押してくるわけで、そんなものが朝夕の忙しいターミナル駅にいてもらっては困るというのが本音。東京駅から発着していた九州ブルトレの時から機関車は困ると言われていました。
また、夜中に何百キロも走るわけですから、誰も乗り降りしないにもかかわらず、途中の駅に人を配置しなければなりませんし、機関車の付け替えのための要員の確保もネックです。つまり、機関車が引く夜行列車は手間がかかるわけですからお仕舞にしたいということで、これを日本語では「面倒くさい」と言うのです。
実は、鉄道会社がこのように機関車列車を毛嫌いするのは何も昨今始まったことではなくて、もう40年以上も前、「動力近代化」が叫ばれていたころからの話です。
当時はご存知のように蒸気機関車が活躍していましたが、整備に手間はかかるし、ばい煙はまき散らすし、運転にも人手が必要だから、できるだけ早く蒸気機関車を何とかしなければということで、当時の動力近代化というのは蒸気機関車を廃止してディーゼルや電気機関車に置き換えましょうと、電気機関車やディーゼル機関車をどんどん新製して、まるで親の仇のように蒸気機関車を淘汰していきました。
それが一段落すると、今度は動力集中方式の(先頭の機関車にだけ動力が付いている)列車よりも、電車やディーゼルカーのように、各車両に動力を持たせる動力分散方式の方が、終端駅での運転取り扱いも楽だし、分割併合などもやりやすい。そして何よりスピードアップができるなどと、誰が言ったか知らないけれど、そういうことがまことしやかに定説となって、せっかく新製して蒸気機関車を置き換えた電気機関車やディーゼル機関車が、何年もたたないのにお役御免になり始めました。
それと同時に当時、機関車の乗組員を抱える職場が組合闘争の拠点となっていたことから、国鉄の経営陣は「機関車なんかやめてしまえ。」ということで機関車列車を淘汰する方針が決定したわけです。
ただ、鉄道輸送の現状を世界的に見ても、アメリカでもヨーロッパでも、近くは韓国でも台湾でも機関車が引く列車は、特に中長距離輸送においては今でも主力であり、例えば、終端駅での機関車の付け替えをしないで済むような運転方式はすでに確立していますし、機関車で発電してモーターを動かす方式で、スピードアップや高速運転にもきちんと対応しています。
なぜか知らないけれど日本だけが機関車を悪者扱いにして、機関車牽引による列車の可能性を追求することなく放棄してしまった状態にあるわけです。
そして皮肉なことに、機関車列車を維持しているこれらの国では、経済成長がひと段落した今でも列車は長編成でお客様がたくさん乗っている。
日本では都会を離れると特急列車と言えども2~3両編成が当たり前というのとはわけが違う状況にあるのです。
また、機関車列車のメリットとして、動力のない客車を安価に製造し、需要に合わせて編成を増減できることが挙げられます。
例えば朝夕の一時的な輸送を終えた車両たちは車庫に帰って眠っているわけですが、昔は昼間の車庫には動力を持たない安価な客車がたくさん並んでいましたが、今の車庫を見るとすべて高価な電車や気動車ばかりが仕事からあぶれて休んでいるわけですから、もったいないことしきりなわけです。おそらくこういうことが高速バスに対抗できる運賃を打ち出せない原因なんでしょうね。
まあ、そういう意味で、機関車列車の廃止は40年前にすでに決定していたことで、それがたまたまこの時期に終焉を迎えるというだけのことなのであります。
私が、ここ20年、鉄道映像として、東北本線に残っていた客車列車、久大本線、筑豊本線、そして「さくら」「はやぶさ」「出雲」「彗星」などの機関車列車を夢中になって記録してきたのはそのためで、何を今更、というのが率直な感想なわけですが、若い人たちにとってはいまどき貴重な機関車牽引の寝台特急が消えるわけですから、さぞかしビッグニュースなんだろうなあ、と思わないでもありません。
お金と置く所さえあれば、いすみ鉄道でお役御免になった寝台車を購入して夜行列車を走らせてもいいんですけどね。
なぜなら、夜行列車で目的地へ行くという需要はもうなくなっていると思いますが、「夜行列車に乗ってみたい」という需要は確実に存在する。
これが私の考え方だからです。
とりあえずJRの皆様。念願の、というか40年来の悲願であった機関車牽引の定期列車の全廃の目処が立ちましたこと、おめでとうございます。と申し上げておきましょう。
でも、CSRの観点でいえばまったくでたらめなスーパードメスティックカンパニーであるということぐらい、早く気づいてほしいと思うのですが。
JR幹部からまた怒られそうな考え方と言われそうですが、これは事実ですからね。
列車の原点ともいえる私の大好きな機関車牽引列車はこうして時刻表から消えて行くことになったのです。
七ツ星は乗れそうにないしね。