私の自慢

私は物事にこだわったり、自慢したりしないようにしています。
昔、人生を導いてくれた先生から、こだわりを持つとか、自慢に思うとか言う気持ちは、人間の気質の中ではあまりレベルが高い位置にはありませんから、ある程度の年齢になったら、できるだけそういう気持ちは持たないようにして、もっと上を目指しなさい。
そう言われたことがあるからです。
そのある程度の年齢とは40歳。
だから、そういう気持ちは持たないようにここ10数年やっているわけです。
なぜなら、自慢するということの反対側にはうらやましがるという気持ちがありますし、こだわりの気持ちと言うのは、ジンクスにもつながる、自分自身の可能性を閉ざしてしまうような性向で、あまりそういうものに振り回されることは良くないと思うからです。
でも、そんな私でも、1つだけ自慢に思うことがあります。
それは、いすみ鉄道沿線の高校生のマナーの良さなんです。
私は、日本全国の鉄道を乗り歩いていますが、今の時代、全国的に見て高校生は阿呆です。
公共のマナーも知らないようなのが多い。
これは、高校全入時代だから仕方がないのかもしれません。
100年前だったら読み書きそろばんだけ覚えたら商家へ丁稚にいったり、田圃で草を取っていたような人間が、皆、高校や大学へ行く時代ですから、高校そのものが、「高等教育」を行う場所じゃなくなっているから、阿呆が集まっているとしか言いようがないところもあるのは当然です。
でも、それは勉強ができないだけであって、生活態度が悪いということとは本来何の関係もないようだけれど、一般的に見ておバカな高校生ほど車内での態度も悪い。
ところが、いすみ鉄道沿線の大多喜高校、大原高校、岬高校などの高校生は、頭の中身は知らないけれど、皆さん列車の中や駅でのマナーがとても良いんです。



例えばこの写真のように、いすみ鉄道の列車の中にはムーミンのステッカーがたくさん貼ってあります。
この車両はいすみ300形ですが、導入から1年半が経過する今も、車内のステッカーが1枚もはがされていません。
ふつうだったら、こんなのが貼ってあればひと月も持たないと思うのですが、はがそうとした跡さえない状態です。
このいすみ300形にはトイレが付いています。
そのトイレを付けるにあたって、会社内の会議でいろいろな意見が出されました。
例えば、「トイレなど付いていると学生がたばこを吸ったり不良行為を行う隠れ場所になりかねない。」という意見で、「せめて通学時間帯だけでもトイレを鎖錠しましょう。」と言う人もいました。
でも、私は就任以来、いすみ鉄道の沿線の高校の生徒たちの乗車マナーの良さは誇りに思っていましたから、まずは彼らを信頼してみようと思いましたので、私はこう言いました。
「まず、彼らの自主性に任せましょうよ。列車の中にトイレがあるということは、利用者にとってはありがたいことだから、鎖錠するのはよくないですから。その代り、たばこを吸うなどの不良行為が1件でも見つかったら、その時は鎖錠しましょう。」
でも、あれから1年半が経過しても、今でも通学時間帯にトイレは使用できる状態になっています。
私は、いすみ鉄道沿線の高校生は、今どき珍しいぐらいちゃんとしていて、それが学校別に差があるのではなくて、学校が違っても皆さんとてもマナーが良いのが本当に自慢なんです。
最近ではいろいろなところで講演をさせていただいておりますが、どこへ行ってもこの話をさせていただいております。
全国的に見ても、通学時間帯に駅に先生が見張りに立つとか、先生が列車に乗り込んで指導に立つ地域もたくさんある中で、いすみ鉄道沿線では、皆素晴らしい生徒たちなんです。
もっとも、どんな社会、集団でも、中にはハグレがいますから、いすみ鉄道沿線の高校生の中には、喫煙する者もいるかもしれませんし、列車の中に唾を吐くような人間もいるかもしれません。
でも、いすみ鉄道沿線では、住民の皆様方が駅を掃除したり、花壇を整備したり、草刈りをして菜の花の種を植えるなどの活動を20年以上も続けてくれている地域ですから、そういうおじいさんおばあさん、お父さんお母さんの家庭で育った子ども達は、社会に参加する気持ちを自然に身に付けている。
そんな家庭で育った子供たちが、これから大人になって将来の日本を作って行くわけですから、私は将来の日本がとても楽しみだし、ローカル線が走っているということは、そういう意味でも大事なことなんじゃないかなあと思います。


来年、いすみ鉄道応援団の掛須団長が小学校の道徳の教科書になるんです。
ローカル線には無限の可能性があるってことがお解りいただけますか?