質問に対するお答え

世間では帰省ラッシュのようですね。
いすみ鉄道にも観光でいらっしゃるお客様が多くなりました。
今日から1月3日まで、1枚の1日フリー乗車券で最大6日間乗り放題の期間が始まりました。
どれだけ乗れるかチャレンジしてみる人はいませんでしょうか。
さて、以前から何度もお話しさせていただいておりますが、私のところにはたくさんの方々からお手紙やメールが来ます。
そのほとんどはローカル線をこうしたらよい、こうするべきだというビジネスプランらしきお話しです。
考えている人にとっては「最高によいプラン」なのだと思いますが、ビジネスプランとしてはそのまま使えるものはほとんどなく、一部分のみ参考にさせていただいております。
したがって、すべてのメールなどには目を通してはおりますが、お返事は一切お出ししておりません。
先日も、「お返事をください。」「社長は私の企画をどう思われますか。」などと何度もお電話をいただく方がいらっしゃいましたが、ちょうど出張続きだったこともあり、ご挨拶もお返事も差し上げておりませんが、どうぞご了承ください。
そんな中、先週いただいた1通のメール。
大学生が卒論を書いているということで、私に質問をいただきました。
【質問の内容】
1. 今、日本の地方空港の国際線から日本の航空会社が消えていて、韓国企業が独占していますね。なぜでしょう?
地方空港の国際線のコストが合わないと思いますが、明確な文献は無くどう説明していいか迷っています。
2.日本の新興航空会社も地方発の国際線進出もしませんね。(Airdo,ソラシドエア等 )
やはりリスクが大きく羽田に乗り入れているだけで収益が上がるから、国際線進出の気にはならないでしょうか?
航空業界のことではありますが、大学生ということもあり、このブログでお返事をさせていただきたいと思います。
韓国の航空会社といえば大韓航空やアシアナ航空の名前が上がりますが、大韓航空は私が20年以上前に勤務していた会社です。大韓航空はその当時、1980年代から地方空港への便を飛ばしていました。
この起源は、日本人には理解できないこと(というか知らない人がほとんど)ですが、実は第2次世界大戦の最中に朝鮮半島から労働力として強制連行してきた韓国人(当時は朝鮮人)たちが、鉱山や炭鉱等で過酷な労働を課され、多くの方々が亡くなった事実が日本にはあります。そういう方々のお墓が日本には多くあって、その家族の方々が当時はまだご健在で、日本の親せきに会いに来たり、墓参に来られるためのチャーター便。これが大韓航空の場合の地方空港便のルーツです。
だから、九州を始め、秋田や女満別といった、昔、鉱山や炭鉱などがあったような地方都市に大韓航空は就航していたのですが、1990年代に入り、日本国内でも航空需要が増えてきたこと。成田空港へのアクセスが地方空港からでは不便なこと。人件費などの運航経費が日本より安いため、安価な運賃が提供できること。金浦(キンポ)空港、仁川(インチョン)空港共にハブ空港として機能を充実させたこと等により、日本の地方都市から直接出国できるルートとして定着しました。
現在、韓国の航空会社の場合、ハブ空港が仁川(インチョン)ですから、日本の各地方都市からのお客様も一旦ハブである仁川に運び、そこからアメリカやヨーロッパへの便に乗り換える形になっています。
この方法であれば、地方空港からB737程度の小型機であれば、そのうち20~30%程度の乗り継ぎ客がいれば(残りのお客はソウルが目的地)仁川からの接続便として運行することができます。
日本の航空会社が地方空港から国際線を飛ばす場合は、その地方空港から直接外国の目的地に飛ぶことになるため、飛行機1機丸ごとを国際線のお客様で埋めなければなりません。
定期便として考えた場合、たとえ週に1~2便程度であっても、おそらくその需要がないか、数少ないお客様であれば、羽田や関空へ運んで乗り換えてもらう方が効率が良いわけです。
つまり、150人乗りの飛行機を日本の航空会社が地方都市から直接外国へ飛ばす場合、その外国の目的地に行かれるお客様を150人集めなければならないのですが、大韓航空の場合、100人ソウルへ行くお客様がいて、あとの50人がソウルからほかの国への便に乗り継ぐお客様なわけです。そしてさらに大韓航空にとって有利なことは、韓国での知名度が高く営業がしやすいために、ソウル行の100人のお客様の多くを韓国で切符を買った韓国人で座席を埋めることができるのに対し、日本の航空会社の場合は、外国での営業が弱く、日本人を運ぶための会社になっているので、日本の景気が悪く地方が地盤沈下している状況ではマーケットとして成り立たないわけです。
新興航空会社の場合はJALやANAよりもはるかに営業力が弱く、地方都市から国際線を飛ばすだけの集客ができません。
新興航空会社は通常は首都圏などの大都市のお客様をマーケットとして、大都市を結ぶ2地点間のシャトルをたくさんすることで収益を上げる構造になっているのです。
JALでもANAでも、地方空港から一旦羽田、成田、関空、中部などへ出て、そこから国際線に乗ってもらう営業形態となっていると思います。
地方都市から直接海外の目的地へ行かれれば、確かに便利ではありますし、以前はホノルルや台北、香港など、地方空港からの便も頻繁に出ていましたが、需要が減った現在ではほとんど廃止になったようです。
地方のお客さまにしてみれば、1回の乗り換えで目的地へ行くという点では日本の航空会社で羽田、成田などを経由するのと、仁川を経由するのと利便性では同じか、仁川の方が便利だということになり、さらに運賃が安いのであれば、そちらに軍配が上がるものと思います。
このアジアのハブを経由して外国へ行くという方法は何も韓国ばかりではなく、九州の人たちには一般的になっていますが、キャセイ航空で一旦香港へ出てからヨーロッパやオセアニア方面へ行くルートや、台北経由というのも多く利用されています。
最近ではLCCが進出してきていますが、例えばエア・アジアの場合、日本から一旦マレーシアに飛んで、乗り継いでいく方法なども今後は利用者が多くなると思います。
いずれにしても、どこかで乗り換える場合、原則として同じ航空会社で乗り継いでいくことが、利便性も価格の上でも有利なわけですが、このところ、そういう原則が当てはまらないケースも見られるようになってきました。
どういうことかというと、先日青森に住んでいる私の友人が、できるだけ安く沖縄に行こうと、急行「はまなす」で千歳に出て、エアアジアとジェットスターを関空で乗り継いで那覇へ飛びました。
一見遠回りに見えるようなこういうルートも、1つの航空会社しか乗り入れてなく、競争原理が働かないような空港周辺に住んでいらっしゃる方には、研究の余地があると思います。
これからの世の中、運賃の根拠となるのは、距離ではなくて、需要がどれだけあるかによるわけで、東京から札幌へ行く方が、距離的には遠くても、東京から東北の地方都市へ行くよりもはるかに安くて便利な時代を迎えるわけです。
さて、少しややこしい話になってしまいましたが、ご質問をいただきました大学生君。少しは参考になりましたでしょうか。
あとはご自分で研究してくださいね。