愛しのT字尾翼

男というものはどうも忘れられない思い出があるらしい。
昔の思い出を大切にするという方が当たっているかもしれないけれど、だから、昭和のキハを走らせたりすると、みんな懐かしがって来てくれる。
私はそう思います。
中には昔のガールフレンドが忘れられないと、30年も40年も思い続けている人もいるかもしれないけれど、そういう人の気持ちは解る。
だから、こうアドバイスをすることにしている。
「思い出だけにしておきな。もうおばさんを通り越しておばあさんになっているから。」
きれいな思い出は、きれいなままのほうが良い。
そんな私が忘れられないのはボーイング727という飛行機。
私が子供だったころは、まだ国内線にジェット機が飛び始めたばかりで、その代表格がボーイング727。
主翼にエンジンがなく、機体の後ろに3発エンジン。
そしてT字尾翼。
子供ながらにこの飛行機は格好イイと思ったものです。

ANAのB727-200。私が最後に乗ったのは山形-東京でした。
(川田さん」、写真借りたよ。)
大人になって、航空会社に勤めるようになってもボーイング727が一番素敵だった。
セクシーボディと言うと、うるさ方からは怒られるかもしれないけれど、この飛行機こそキュートでセクシーで可愛いと思ったのです。
前に勤めていた会社では国内線の主力機としてB727が使われていて、わざわざソウル-プサン間に乗りに行ったりしたし、最後はマイアミ-グランドケイマンまで乗りにでかけたほどこの飛行機が好きで、模型も全部727。
ハセガワの200分の一モデルは、いつか造ろうと思って買って箱のまま今でもそのまま取ってある。
私にとっての727はそれほど愛しいセクシーガールなわけです。
ところが、この727という飛行機は3発エンジンが致命傷で、パイロットのほかにもう1名エンジニアを乗せなければならない。
だから、世界中で1000機以上が飛んでいたけれど、人件費が高騰する時代に入ると、あっという間に消えてしまったのです。
それ以来、私のお気に入りは同じT字尾翼のMD90。
私の世代ではDC9といったほうがしっくりきますが、この飛行機も727と同じT字尾翼。
すらりと伸びたボディーが美しく、乗客として乗っていても、前の方に座っていればエンジン音がまったく聞こえず、するすると離陸滑走していく不思議な乗り心地の飛行機。
ところが、機体後方へ行くにつれてだんだんと音がうるさくなってきて、DC9-41の時代など、一番後ろの座席は割引料金があったほどうるさい飛行機。
という二重人格のような、そこがまた魅力でもあるわけです。
MD90はエンジンが2発だから、パイロットの他にエンジニアを乗務させることもなく、コストが低く運航できたから727よりも20年も長生きしたのですが、それもついにこの年度末でおしまいの時がやってきたのです。
日本の空からMD90が消える。
ということは、ダグラスDC3から始まったダグラスの飛行機の歴史が終わるということ。
また一つ、大好きな機体が消えていくということは、また一つ思い出が増えていくことになるわけです。
さてさて、次はどの子にしましょうか。
お尻がツンと張りあがったT字尾翼が好みなのですが。

T字尾翼が特徴のMD90。釧路空港にて。
3月は鉄道だけでなく、飛行機もさよならの時期なんですね。