オレンジ食堂っという名前のレストランをご存知ですか?
熊本県と鹿児島県を結んで走る肥薩おれんじ鉄道という鉄道会社が始めた食堂列車です。
50歳を過ぎている方なら、昔は長距離列車には必ずと言ってよいほど食堂車が連結されていたのをご記憶の方もいらっしゃると思いますが、食堂車というのは、列車のお客様にお食事を提供するために、編成の中に1両、食事をとるために連結されていた車両です。
事故や従業員の確保の困難さ、列車の運転区間の短縮などの理由から、昭和40年代をピークに食堂車は減少を始め、今残っているのは北海道へ行くカシオペアやトワイライトエクスプレスなど、ごく一部の列車だけになってしまいました。
そんな中で、肥薩おれんじ鉄道は「オレンジ食堂」という名の食堂車を始めたわけですが、このオレンジ食堂は単なる食堂車ではなく「食堂列車」。
つまり、食堂車というのは編成の一部に連結されている車両のことを指しますが、オレンジ食堂は列車そのものが「食堂車」。
ご飯を食べるために乗る車両なんです。
ここがおれんじ鉄道の社長さんの発想力の凄さ。
つまり、目的地への輸送では新幹線とは競争できないとはじめから考えて、「列車を楽しんでもらおう」ということを目的にしたわけです。
ところが、皆様ご存じのように九州は観光列車の宝庫と言われていて、JR九州が乗って楽しい観光列車をたくさん走らせている。
そういう競争が激しい観光列車銀座の九州で、JR九州にはできない「食堂列車」を走らせることで、マーケットの開拓をしているわけです。
肥薩おれんじ鉄道はいすみ鉄道と同じ第3セクターです。
JRのような大きな会社じゃなくて、地元が支えるローカル線です。
その第3セクターがここまでやるわけですから、これは必見、というわけで、視察に行ってまいりました。
新幹線と接続する新八代駅が「オレンジ食堂」の始発駅。ここから約3時間の旅が始まります。
列車は2両編成。完全予約制の食堂列車です。
車内はいろいろなタイプのテーブルが並びます。乗りたくなるような演出が各所に見られる楽しいデザインです。
最初にテーブルに座ると、八代の郷土のお菓子「雪もち」と鹿児島県のこしき島の海洋深層水、それにご乗車記念証が配られます。
次の停車駅、日奈久(ひなぐ)温泉からは名産のちくわがテーブルへ。練り物に目がない私にはうれしいサービス。夕暮れの海岸線をゆっくりと走りながら、地元の柑橘系スパークリングワインがおいしい。
さて、出発から1時間ほどが経過し、そろそろお腹が減ってきたなあと感じるころに水俣駅に到着。オレンジ食堂にお料理が積み込まれます。
お料理を担当するのは水俣の鶴の屋さん。
皆さん、水俣って聞くと水俣病のイメージがあるかと思いますが、それは50年前の話で、本当の水俣は風光明媚で海岸が美しい静かな町。海の幸や山の幸も豊富なんです。
私は鹿児島本線時代から何度も来ていますが、おれんじ鉄道沿線で泊まるとしたら、やっぱり水俣でしょう。というぐらい温泉もある素敵な所なんです。
その水俣からお食事がスタート
[:up:]オードブル6種
八代産茄子の揚げ浸し、完熟トマトのムース・バジルマヨネーズ添え、鹿児島産初夏ジャガイモとベーコンのバター煮、季節野菜と海老の茗荷ドレッシング、出水元気鶏の香草焼き、長島夢一水産の魚ベーコン
[:down:]水俣産グリーンレタスとルビーケイコのサラダ、生ハム添え、晩白柚のドレッシング
[:up:]茶美豚のロースト 甘夏ポン酢のジュレ 夏野菜のカボナータ添え
[:down:]季節のスープ(ジャガイモ)
[:up:] パエリア 水俣産レモンをしぼって
海老、芦北産あさり、飯蛸、天草産烏賊、天草産ムール貝、出水元気鶏、赤・黄パプリカ、サフラン、オリーブ、水俣産米(おどんがまち)、水俣産アスパラ
[:down:]デザート でこぽんのシフォンケーキ、ベリーソース。 コーヒー。
列車には地元で活躍するアーティストが乗車して生演奏。夕刻の列車が盛り上がります。
[:up:]車内に設けられたバーカウンター。ここが配膳台になります。
列車の中でいただいたお土産。地元のカレーパンも含め、こんなにたくさんになりました。
これが、オレンジ食堂です。
料金は約14000円。(約3000円の乗車券込・お酒、ドリンクは別)
これだけの値段ですが、景色と演出とを合わせると、非日常の旅行体験として安いか高いかは皆様方の価値観によると思います。
だたし、週末運転で1列車40名様ほどの定員ですから、3月の運転開始以来70%以上の稼働率を維持しているようで、これは驚異的な数字だと思います。
私がなぜこの「オレンジ食堂」へ視察へ行ったかというと、第3セクター鉄道だから。
JRのような大きな会社がお金の力を最大限に使ってやるのでしたら、私は参考にしませんが、第3セクター鉄道が車両の改造に数千万円かかったとはいえ、自分たちで企画し、自分たちで実行している。それもわずか半年足らずの準備期間でやっていると聞けば、これは拝見させていただこうという気になるわけです。
肥薩おれんじ鉄道の古木社長さんはホテル、旅行業界出身の方で、私と同様鉄道に関しては素人同然の方です。
そういう方だからこそ、実現できたのではないでしょうか。
鉄道業生え抜きの方の傾向としては、何かやろうとすると「それは無理です。」「それはできません。」とできない理由を一生懸命探す傾向がありますが、「できません。」と言うのなら中学生だって言えるわけで、「どうやったらできるかを考えるのがプロ。」だというのが当たり前なんですが、どうも、一つの業界しか知らないままで50,60になってしまうと、長が付く人間ですら「できない理由」を探している人ばかりのようで、そういうことだからローカル線の現状が打開できないという、基本のところすら気づいていないのです。
ところで、この「オレンジ食堂」の素晴らしいのは、お皿に盛りつけているというところ。
昨今の列車給食事情は、駅弁に缶ビールかペットボトルのお茶が当たり前。
お皿に盛りつけたり、飲み物をグラスに注いだりという食事の基本のところができていないと私は常日頃から嘆いているわけですが、
列車の中とはいえ、途中駅から積み込んだ食材を車内でお皿に盛り付けて、次々とお皿を変えてサーブしているのは、駅弁が当たり前の今の時代、すばらしい取り組みだと思います。
お酒もちゃんとグラスに注いで飲みますが、そんな当たり前のことを当たり前にやることがとても難しいのですね。
運転開始からまだ2ヶ月しかたっていませんので、オペレーション上では色々と課題山積のようですが、働いていらっしゃるスタッフの方が、とにかくきびきびとしていて、さわやかに、一生懸命動いていたのが好印象でした。
価格設定も含め賛否両論はあると思いますが、これは一つのマーケットを開拓するという点で、大きな提案をされていると思います。
万人受けを狙っていないという点では、いすみ鉄道の戦略と同じコンセプトです。
鉄道会社として地域との密着感、連携も良くとれています。
地域を宣伝するという輸送以外のところで大きな効果を得ています。
3月以降、マスコミに90回以上取り上げられていますから、地域の宣伝効果はかなりのものですね。
いすみ鉄道も春から60回は取り上げられているのですが、地域からは何の声も聞こえて来ないのが残念なところですが、うちも手をこまねいているわけにはいきませんから、この夏に向けて、新しい仕掛けをしていきたいと考えています。
おれんじ鉄道の皆様、ありがとうございました。
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