鉄道旅行 四重苦

昭和35年生まれの私はもの心ついた時からの鉄道ファンです。
私が物心ついた時期は日本が高度経済成長へ向かう時期。
新幹線開業前夜で、私のお気に入りは「夢の超特急」のブリキのおもちゃ。
朝から晩までこのおもちゃを抱えて離さなかったらしいです。
さて、かれこれ50年も鉄道ファンをやっている私が、いざ鉄道会社の社長をやらせていただいてみると、それまで気づかなかったことにいろいろと気づかされます。
特に、ビジネスとして考えた場合、鉄道会社はすごくユニークというか、独特な考え方やシステムで運営されていることがわかります。
鉄道ファンとして鉄道を利用したり、鉄道に接しているときには全く気付かなかった、いろいろなことに気づいて、どうしてこんなことをやっているのだろうと不思議に思うことがしばしばなわけです。
ということで、本日は 「鉄道旅行 四重苦」のお話。
これは、鉄道事業者のお話ではなくて、ある程度の距離の都市間を移動する利用者から見た四重苦ですのでお間違いのないように。
その1:遠回りで時間がかかる。
近年出来上がった高速道路に比べると、鉄道は山を迂回したり川に沿ったりと、建設年代によって地形の影響を受けていて、遠回りをしているところがたくさんあります。だから、直線でひとっ飛びの飛行機はもちろんですが、高速バスよりも時間がかかることが一般的です。
これは、利用者から見たら、鉄道が不利な立場にあるということがよくわかる事象ですが、鉄道会社側から見ると、線路がそうなっているのだから当たり前のことなんですね。
その2:遠回りの運賃を払わされる。
で、鉄道会社側では当たり前と思っている遠回りのルートが、運賃の計算根拠になっているから、遠回りをすればするほど、運賃はどんどん高くなる。
でも、利用者から見たら、遠回りをするんだったら、時間がかかるんだからその分運賃が安くなければというのが一般的な考え方でしょう。
何しろ、お客様が好んでそのルートを通るわけではないのですから。
でも、遠回りのルートで、その遠回りをした分だけ運賃が高くなるのが鉄道会社の常識ですから、一般消費者との意識のずれが加速していくわけです。
その3:運賃が高い。
ただでさえ利用者には関係ない距離制の運賃がかかるのにもかかわらず、その運賃が飛行機よりも高速バスよりも高くなる。どうしてかというと、鉄道の場合は、基本運賃の他に特急料金や指定席料金など、総額でお客様が払う金額が多層立てに積み上げられているわけで、昔は特急料金が高いと思えば急行列車で行けたものが、今では新幹線や特急に乗らなければ行かれない仕組みになっていて、つまり利用者から見たら選択肢がない状態になっていて、そこに特急料金等が積み上げられているわけです。
ここまでですでに三重苦なわけですが、鉄道の場合、もう一つの苦しみがあります。
その4:座れない。
高速バスも飛行機も基本的には座席定員制です。
必ず座れます。
ところが鉄道は座れないことがある。早めに並んで座席を確保しなければ、目的地まで立って行くことになる。
「自由席ですから仕方ありません。」と言う方は鉄道会社よりの物の見方をする人で、ふつうの人から見れば、座れないのは嫌ですから、何とか座りたいわけです。
飛行機も、高速バスも、座席は決まっていなくても、座れることは約束されているから、ふつうの人だったら、どちらを選ぶかは選択の余地がないことなのです。
数年前のことですが、前の会社の女性数人を連れて冬の北海道へ旅行に行きました。
札幌から余市のウイスキー工場へ行こうということになって、そのウイスキー工場は駅前にあることだし、私は鉄道で行きましょうと提案しました。
で、鉄道に乗っていくと、小樽で乗り換え。
そして乗り換えた先の列車はギュウギュウで、塩谷、蘭島、余市と30分間も立ち席なわけです。
結局、大雪だったにもかかわらず、帰りは「私たちは絶対にバス!」と彼女たちに言われてバスで帰ってきましたが、意外にもバスは快適で、少なくとも座席の心配をする必要はなかったわけです。
こうして考えて見ると、鉄道というのは、あくまでも鉄道会社側の都合でルールが作られていて、それがシステムになっていることに気が付きます。
それは、国鉄時代に、他に移動の手段がなく、鉄道で行かなければならない時代には当然のことだったかもしれません。
「床に新聞紙を敷いて何時間もかかって行ったもんだ。」
という時代でしたら、それでも良かったかもしれませんが、高速バスや飛行機ばかりでなく、自家用車までもが競争相手の今の世の中で、お客様のご都合を優先させることなく、自分の会社の都合で商売をやっていては競争には耐えられなくなるのは目に見えていて、列車の利用者はどんどん減っていくことになるのです。
そして極めつけは
「あなたたちは乗ってないでしょう。」という鉄道会社の言葉。
あなたたちが乗らないから、列車の運転をやめます、とか、この路線を廃止します、何てことを言いだすようでは、どう考えても民間企業とは思えない。
ルールだけでなく、国鉄時代に国がやっていた商売をいまだに引きずっていることは明白なわけです。
いすみ鉄道の社長はまたどうしょうもないことを言っている、という鉄道会社の幹部がいたら、私はその人こそ、民間企業の幹部としてはふさわしくないお役人的な方だと思うのです。
なぜなら、商店の主人が、「あなたたちはどうしてうちのお店で買わないのですか?」という人がいますか?
お客様にどうしたら自分の店の商品を買ってもらえるようにするかが民間企業の商売です。
「あなたたちはうちの店で買わないでしょう。だからこの店は閉店します。」
というような感覚の持ち主は、民間企業の経営者とは言えないわけです。
昨日、奥会津から帰宅しました。
会津川口を8時半に出て、会津若松で乗り換えて、郡山で乗り換えて、東京駅で乗り換えて、外房の大原まで8時間半。
「いままで、こういう旅行はしたことないなあ。」とおっしゃられていた商工会の出口会長さんは旅の疲れで本日はご病気とのこと。
一般の人にとってみれば、鉄道というのは、お金と体力をささげる交通手段になってしまっているのです。
えっ、私ですか?
私は全く大丈夫。
只見線のキハ40と、磐越西線の719と、新幹線をたっぷり満喫しましたから、充電完了です。
こういうお客さんばかりだったら、遠回りをして、時間がかかって、多少高くても文句も出ませんから、私はいすみ鉄道の観光急行列車のマーケットとして、きちんとターゲットを絞り込んでいるわけです。