距離について

先日、距離について、人々の感じ方が変わってきているというお話をしました。
物理的にどれだけ遠くにあるかという実質距離と、いくらで行かれるかという経済距離と、何時間で行かれるかという時間距離と、それぞれの人がそれぞれの立場で距離に対する感じ方や価値観が変わってきているという話ですが、私が最初に「距離感」について常識にはとらわれてはいけないと感じたのは航空路線と運賃の関係に気付いた時です。
昭和の時代の話ですが、東京から飛行機で行く場合、福岡までと宮崎まで、当時は宮崎のほうが高く設定されていました。
私も東京から行く場合、福岡よりも宮崎の方が遠いわけですから、航空運賃も福岡よりも宮崎のほうが高いのが当たり前だと思っていましたが、あるとき、ふと気が付いたのです。
「福岡よりも宮崎の方が近いんだ!」 と。
その時までの私の頭の中は鉄道地図に占領されていて、東京から鉄道で行く場合、福岡の方がはるかに近いわけで、宮崎へ行く場合は小倉で日豊線に乗り換えて延々と下って行かなければなりません。
そういう考えでいた私ですから、当然、宮崎の方が福岡よりも遠いと思っていて、航空運賃も高くて当たり前だと思っていたわけです。
でも、実際の飛行距離(設定マイル)でういと福岡は567マイル、宮崎は561マイル。
わずかですが宮崎の方が近いわけです。
航空会社も「この運賃設定では理由が見つからない。」と思ったのでしょうか。
いつのころから、航空運賃の差をなくしましたので、今では福岡も宮崎も普通運賃ベースでは同じ金額になっています。
こんな見方をするのは私だけでしょうか。
東京から九州へ行く場合は飛行機が最優先されるから、多少航空運賃に矛盾があってもそう問題にはならないと思いますが、例えば、もっと身近でこのような例はないでしょうか。
四国の鉄道で新居浜―松山間を考えてみましょう。
予讃線は海岸線に沿って走っています。
伊予西条を出ると一旦北へ向かって今治を通り、波止浜(はしはま)で大きくカーブして西へ、そして伊予北条から南下して松山へ入ります。
これに対して高速道路は伊予西条から山を突っ切って西へ向かって松山市内に入ります。
鉄道は三角形の2辺を通るのに対して、高速道路は1辺ですから距離的にも時間的にも高速道路の方が近いわけです。
で、さらに問題があります。
それは、鉄道運賃の計算根拠が距離を基準にしていること。
海岸線を大きく迂回するルートですから、距離を基準にすると運賃もそれに比例して高くなります。
高速道路に対して実質距離で勝てなくて、時間距離でも勝ないのに、運賃設定でも勝てない原因がここにあります。
もちろんJR四国ではこの区間に特別割引運賃を設定して利用促進を図っていますし、特急定期券なども発売し、時間が不安定な高速バスに対して通勤手段としての鉄道の優位性をアピールし、朝の特急列車はとても込み合っている状況にありますが、私が気になるのは、鉄道会社がいまだに距離を基本として運賃設定を行っていること。
なぜならば鉄道というのは80年も100年も前に作られていて、その当時の建設技術では、長大トンネルを掘ることもできませんでしたから、当然山や谷を迂回して海岸線を遠回りするルートで作られているわけですが、これに対して、この20年ほどで急速に路線網を伸ばした高速道路は、山をトンネルで貫いたり、谷や海を橋で渡したりして、最短距離を通っているということ。
だから、ただでさえ高速道路の方が有利なわけです。
こういう現象を、利用者の側から見れば、鉄道路線は利用者が好むと好まざるとにかかわらず、鉄道会社の都合で遠回りをしているに、その遠回りしている分の運賃まで請求されているわけですから、一般の商売の常識から見たら、到底受け入れられる状態にはないわけです。
ところが、鉄道会社の人間にしてみれば、距離で運賃を請求しているのは100年以上前から続く習慣で、当たり前のこと。つまり常識としているわけですから、商売としてみた場合、顧客との意識の差がどんどん開いて、埋め合わせができなくなる事態になっていく。それが、利用者の減少という事態になっているわけです。
博多から別府、大分へ行く場合は、鉄道は小倉を回って行きます。
これも、鉄道会社の都合なわけです。
函館から札幌へ行く場合も最短距離でいえば倶知安、小樽廻りになりますが、スーパー北斗は東室蘭、苫小牧を回っていきます。
鉄道会社の都合で遠回りをしておいて、その遠回りの分の運賃をきっちり請求しているようでは、いつまでも利用者の理解を得られるはずもありませんから、九州も北海道も割引運賃を設けて利用者獲得に懸命の努力をしていますが、中には遠回りをしておいて、だれも乗らないからやめてしまおうか、というような会社も出てこないとも限りませんから、交通機関の常識というものを常に検証していく必要があると私は思うわけです。
そうそう、私がなぜこんなことを考えるかというと、戦前に作られたいすみ鉄道の線路が地図で見るとあまりにもくねくねと曲がっているから。
だから、いすみ鉄道では一回一回切符を買うよりも、1日フリー乗車券をご購入いただいて好きなだけご乗車いただきたいと考えていますし、くねくね走る列車を車で追いかけやすいダイヤを作って、皆様方に少しでも楽しんでいただくことで生きる道を探ろうと懸命に努力しているわけであります。