新年に思うこと その3

昨年末に安倍首相率いる新政権が発足して精力的に活動を始めました。
それと呼応するように円の値段が変化し、株価が上昇を始めました。
今日の初取引でも高値で終了したようですから、一見すると「何とか効果」のような気もします。
といっても、私は政治に興味があるわけではなく、株で一儲けしようと企んでいるわけではありません。
実は、私は、毎日発表される株価や円価格というのは、海岸線に立って打ち寄せる波を見ているのと同じだと考えています。
大きな波が来たり、小さな波が来たりするのが日々の株価や円価格の変化であって、一つ一つの波の動きで人々を一喜一憂させて、それを商売のタネにしているのが経済新聞や経済雑誌だと思っています。
だから、経済新聞はあまり読みませんよと申し上げているのですが、本当は何が大切なのかというと、1つ1つの波を見ていちいち一喜一憂するのではなく、今から海が満ちてくるのか、引いていくのかを見極めて、それによって海岸線にいる自分の立ち位置を変えたり、魚がどちらに移動するかを判断して、そこに網を仕掛けるのがビジネス戦略だと思うわけです。
ところが、経済は勉強すればするほどわからなくなる。難しい数学の公式に当てはめようとすればするほど、本当にわからなくなるのです。
では、どうしたらよいかというと、原点に立ち返って、「誰がお客様ですか?」を考えるのです。
経済学者やマーケティングの専門家という人たちは、自分たちの職業に権威づけをしなければなりませんから、簡単なことを難しく説明しようとしがちですが、その商品を買われるお客様は、そんなに難しいことを考えながら買うわけではありません。
お財布の紐は理屈では開かないのです。
商売はまずお客様にどうしたら自分のお店に来ていただくかを考えます。そして、来ていただいたお客様にどうやってお財布を開いていただくかということが原点です。だから、売り上げを上げることは、顧客の購買動機を難しく数値化することではなく、必要なことは「わかりやすい」ということです。
昭和のディーゼルカーもムーミン列車もわかりやすい仕掛けです。
「なぜムーミン列車なのか?」などいちいち説明しなくても、いすみ鉄道でムーミン列車を見たら「わあ、可愛い!」と思うわけです。
昭和のディーゼルカーだって理屈抜きで「良いなあ」と思うわけで、そう思う人だけがいらしていただければ良いわけです。
日本人はかならずどこかに旅行したい。
これは江戸時代にはお伊勢参りという形ですでに行われていたことですから、私たちのDNAに組み込まれていることです。
だけど、昨今は不景気で遠くには行かれない。
だから、近くて日帰りができるいすみ鉄道へおいでよ、と言っているわけです。
そして、日本人は旅行に来たらお土産を買います。
だから、いすみ鉄道に売店があってお土産を売っている。
そのお土産というのも、せんべい、饅頭、もなか、カステラ、カレーといった定番の物ばかり。特に奇をてらったりすることもありません。実に簡単でわかりやすい商売です。
おかげさまで、正月三が日に、いすみ鉄道にはたくさんのお客様にお越しいただきました。
年末の31日と元日には駅売店のお休みを知らずにいらっしゃって、お目当ての品物を買うことができなかったお客様もいらしてご迷惑をおかけするほどで、国吉駅売店では休業して棚卸し作業中にもかかわらず、次から次へとお客様がいらして「すみません、入ってもよいですか?」 「今日は買えますか?」と言われるほどうれしい悲鳴状態で、この分では来年のお正月は無休にしなければなりませんと考えるほどお客様にいらしていただきました。
数年前までは誰もいなくてシーンとしていた駅が、このような賑わいを見せるようになる。
こういうことが需要を開拓するということで、経済を活性化させるということだと思いますが、いすみ鉄道沿線にはそういう潜在需要がある、つまり「ここにはお金がたくさん落ちている。」ということなのです。
ムーミン列車も昭和のディーゼルカーもあくまでも素材です。
いすみ鉄道は鉄道輸送という素材を提供しているだけで、それをどのように楽しむかはお客様がご自分ですることです。
映画のポスターもそうです。
ただ昔のポスターを貼ってあるだけ。
それを見てどう感じるかはお客様の内面の問題、つまりお客様の精神性が求められているわけです。
ムーミン列車や昭和の古いディーゼルカーが走ったり、こういうポスターが貼ってあるだけで、いらしていただいたお客様が、ご自身でお楽しみいただく仕組みです。
お客様がご自分の青春時代にタイムスリップして、想い出が膨らんで、涙を流して、物思いにふけって、「よし、頑張ろう」と明日からの活力になる。
その世界をプロデュースするのが私の仕事なわけで、そのためにはキハだけでなく、ムーミンだけでなく、駅があって、駅前があって、地元があって、沿線の風景があることすべてが重要なのです。
いすみ鉄道はそういう世界を身近に感じていただけるローカル線です。
ローカル線というのは地元の人が足として使うためのものだと長い間言われてきて、過疎化や少子化、マイカーへの移行で結局ダメになってきました。だから私はまず観光路線化して乗車人員を増やし、テレビや雑誌で知ってもらうことで鉄道だけでなく地域も全国区化して、地盤沈下している地域そのものを活性化するきっかけにし、その結果として地域の足としてのローカル線が守られるというしくみを作り出しているわけですが、おそらくこういう形で地元を意識したローカル線というのは今までなかったのではないでしょうか。
そう、今までと違う結果を求めるためには、今までと同じやり方をしていたのではダメなのです。
Doing the same thing over and over again and expecting different
results is Insanity.
地域がダメになってきているというのに同じことをしていてよくなると考える人がいたらその人は「INSANITY」ですからね。
私は、いすみ鉄道を含めた沿線地域は今後も発展していくと確信しています。
ローカル線と地域がどうかかわって、どうなっていくか、皆様にわかりやすい形でお示しできると考えています。
だから、いすみ鉄道に来たら、列車や駅だけでなく、ぜひ駅前から続く街並みや田園を歩いてみてください。
そこに必ず何か自分なりの発見があるはずです。
とくに有名な観光地でもなく、万人受けするような呼び物もないのがいすみ鉄道沿線です。
だから、いすみ鉄道などのローカル線の旅にいらしていただく皆様方は精神性の高い皆様だと思います。
そういう皆様方が、新しい旅の形を提唱し、それが新しいライフスタイルになり、新しい幸せのなり方を見せていくことで、一人でも多くの人が幸せになることができる。
これが、ローカル線の持つ精神的な効能です。
「ここには何もないがあります。」のいすみ鉄道で、あなたは何を見つけることができるでしょうか。
いすみ鉄道と沿線地域を今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
(おわり)