CONTINGENCY という考え方

英語にCONTINGENCY(コンティンジェンシー)という単語があります。
辞書を引くと「偶然性」などと書かれています。
でも日本語では「偶然性」などということばはふだん使いませんね。
英語にあって日本語にない、またはうまく言えない言葉や表現が時々ありますが、このCONTINGENCYという言葉も、日本語にはない言葉だと思うのです。
私なりのCONTINGENCYの解釈は
「まず起こらないだろうけど、起こるかもしれない。発生する確率は無視できる程度ではなく、あらかじめ起きると考えておくのが危機管理としては必要だ。」
ということ。
CONTINGENCYは航空会社では毎日毎日使う言葉です。
飛行機は燃料が無くなると飛べません。だからパイロットは出発前にできるだけたくさんの燃料を搭載したいという心理があります。
でも、燃料を積むと機体が重くなるので、重くなった分、さらに燃料が必要になる。
だから燃料は必要最低限しか積まないことがルールとなっています。
では、必要最低限とはどういうことでしょうか。
例えば福岡から羽田へ向けて飛行するとします。
まず、福岡―羽田間の消費燃料を風向き、お客様や貨物の重さなどから計算します。
それにTAXIといって地上滑走分の500KG。
そして、羽田空港の近くまで来て何らかの理由で管制塔から着陸を待たされる場合に備えて、飛行機が羽田空港上空に到着してから45分旋回して上空で待機する分の燃料を搭載しています。
そして、45分待っても降りられない場合は、代替着陸できる空港へ向かいます。
一番近い空港は成田空港ですから、代替空港を成田に設定する。
そして成田空港まで行って、着陸できる分の燃料も搭載しています。
でも、羽田へ降りられない理由が滑走路閉鎖など羽田独自の理由の場合もあれば、天候の場合もある。
天候が悪くて羽田に降りられなければ、距離が近い成田も同じような天候のはずだから、そんな時は仙台か名古屋が代替空港になります。
そこまで考えて燃料を決定する。
その時その時によって搭載する燃料も違ってくるわけです。
これがCONTINGENCY PLAN。
航空会社では、こんなことを毎日毎日、毎フライトごとにやっているのです。
パイロットの訓練だって、例えば離陸滑走の途中にエンジンなど機体に不具合が発生した時には離陸を中止するか、それともそのまま取りあえず離陸を継続するかを判断しなければなりません。
その基準は、滑走路の長さと飛行機の機種、重量などで様々ですから、離陸滑走を始める前に、万が一トラブルが発生した時に瞬時に判断できるように準備するわけです。
成田からハワイに向かっている飛行機では、巡航中に機体に不具合が発生した時には近くに降りられるところはないわけですから、成田へ引き返すべきか、ハワイまで飛ぶかなどの意思決定も瞬時にできなければなりません。
自分が今どの位置にいるかを把握するのはもちろんですが、洋上飛行の場合、風の影響を考えるとコースのちょうど真ん中が折り返すかどうかの判断点ではありませんから、その時の上層風などを常に考慮して「今、トラブルが発生したらどう対処するか」を瞬間ごとに考えているわけです。
簡単に言えば、航空会社には「想定外」という言葉を使う人はいないのです。
日本は地震国ですから、いつ大地震が発生してもおかしくない。
大地震の震源が海であれば津波が起こる。
津波が起これば発電施設に被害が発生する。
被害が発生しても原子炉は冷温停止するまでに何か月もかかる。
とすれば、津波をかぶらない原子炉建屋の屋上に非常用の発電機さえあればとりあえず電源が確保できて、原子炉が冷却できた。
それがなかっただけのことで、世界中に迷惑をかける事故になってしまったのです。
でも、当事者は「想定外」だという。
CONTINGENCYという言葉が日本語にない日本人特有の甘さなのです。
だから、電力会社は航空会社が経営する方がずっと安全だと思うのです。
今日か明日、将軍様がミサイルを飛ばすようです。
こんな時は航空会社は「CONTINGENCY PLAN」を適応します。
まず起こらないとは思うけど、起こらないと断言はできないから、それに対して対応できる準備や訓練は行っておく。
安全に対する考え方の基本的な部分が日本語にないのが、もしかしたら私たち日本人の弱点なのかもしれません。