B787 の時代ですかね。 その2

ETOPS(イートップス)180分ルールが適用されることになると、太平洋の上をB777などの双発機が飛べるようになります。
B777(トリプルセブン)は200型でB747(ジャンボジェット)の―400型の約6~7割の燃料消費量ですが、搭載できる貨物はパレット6枚とコンテナ14台で同じ量だし、お客様も座席配置にもよりますが、ジャンボの8割程度は乗せることができます。
ジャンボが2割の空席を有したまま飛ぶのであれば、トリプルセブンで満席にして飛ぶ方が格段に効率的ですから、ETOPS180分ルールが適用されると、日本からの太平洋線にも、ヨーロッパ線にもB777トリプルセブンが就航するようになりました。
前回お話ししましたが、私はジャンボジェットが専門でしたので、トリプルとの付き合いはほとんどありません。直接関わったのは半年ほどしかありませんから、その性能の良さは知っていますが、各種トラブルを経験することなく航空会社を退職してしまいました。
だから余計に不安なのかもしれませんが、トリプルのような双発機が太平洋上を飛行したり、冬のシベリアを飛行することが日常的に何の疑問もなく行われていることを聞くにつけ、「そういう飛行機には乗りたくないなあ」と思うわけです。
飛行前のブリーフィングで使用する飛行コースを示した地図には、B777などの双発機ではコース上に円が連続して描かれています。この円の半径が片肺でも180分で飛べる距離を示していて、その範囲内に緊急着陸できる飛行場が必ず1か所以上あることがそのルートを飛べる飛行の条件となるのです。
だから、この半径3時間の円が常にルート上で交わっていなければそのコースは飛行することができないのです。
日本からヨーロッパへ行くのはロシア上空、シベリア大陸を延々と飛行していきます。
冬のシベリアは気象条件が厳しいですから、いくつもの空港が運用規定以下の状況に置かれます。
つまり、大陸の上を飛んでいても緊急着陸できるところがありませんから、海の上を飛んでいるのと全く同じ状況です。
片方のエンジンが停止した状況下で、凍てつくシベリアの上空を3時間も飛行しなければ緊急着陸する場所がないというのは、とても心細いこと。
エンジンが停止したのが東京上空を飛行しいる時だとしたら、緊急着陸できる最寄りの空港は那覇とか台北になるのと同じことですからね。
まして最終的に緊急着陸するのは運用規定ギリギリの気象状況にあるシベリアのとある空港。
日本のパイロットもヨーロッパのパイロットも降りたことがないようなシベリアのローカル空港の、それも凍てついた滑走路、着氷する気象条件の中で、初めて、それも片肺で降りることが前提条件となるルートです。
ですから、飛行機が新しい今のうちはいいけれど、20年とか経過してくると、いろいろトラブルも出てきますから、そうなってきたときに、事故につながる以前の問題として、ETOPS180分ルールが維持できなくなる可能性が出てくる。
そうしたら双発機ではアメリカにもヨーロッパにも行けなくなる事態が発生することになりますから、経営的にみても心細いわけです。
もっとも、現在ではどこの航空会社も10年先、20年先のことなど考える余裕がありませんから、当面の燃料効率を考えて、双発機の運航が最善の方法として歓迎されているのです。
エンジンの性能が格段によくなったからETOPS180分が可能になったということは、そういう危険性は確率論で言えばほとんど無視できる数字になったということですから、やたらに不安を掻き立てることはよくないという方もいらっしゃるでしょう。
しかしながら、過去において、事故は常に想定外の状況が発生した時に起こっているというのも事実なのです。
B747ジャンボジェットでも、4発あるエンジンが4発全部飛行中に停止する事態が過去に複数回発生していますし、日本でも、札幌からのトライスターが1発エンジン停止で降下中にもう1発のエンジンも茨城県上空で停止してしまい、残り1発で何とか羽田にたどり着いたという事例もあります。
近年でもトリプルセブンがエンジントラブルで緊急事態を宣言した事例が日本の国内線でもありますし、私のもといた会社では、目的地空港への最終進入中にトリプルセブンのエンジンが2発とも停止してしまい、突然推力を失った機体が滑走路手前の緑地帯へ突っ込んで大破する事故を在職中に経験しています。
飛行中にエンジンが停止するということは、そのエンジン個体の故障などの場合ばかりでなく、その形式のエンジンに欠陥がある場合もありますし、それ以前の燃料系統や機体そのものに何らかの不具合がある場合があります。
だから、1発エンジンがトラブルを起こしたということは、その原因如何によっては、同じようなトラブルがもう片方のエンジンにも発生する可能性があるということ。まして、片肺になった状態では、元気な方のエンジンに余計な負担がかかることは避けられませんから、そのままの状態で3時間飛ばなければ降りるところがないというのは、大きな不安材料だと思います。
今回の原発事故ではありませんが、ETOPS180分ルールはあくまでも「想定」でしかありませんから、想定外のことがいつ起きないかと考えると、本当に不安になるのです。
ですから、あんまり双発機に頼らずに、将来的にはやっぱり4発機もレパートリーの中に入れるべきだと考える今日この頃なのであります。
もっとも、飛行中の飛行機が非常事態に陥るのは何もエンジンだけが原因とは限りません。
電気系統による機内火災や、積み荷による貨物室内の火災が原因となることもあります。
先日、韓国と中国の間で大型貨物機が墜落したのもこれですから、エンジンが2つだろうが4つあろうが、今後はETOPSという考え方や、それを満たすための整備基準や運航技術は、すべての洋上飛行機に要求されてくるものだと思います。
ニューヨークでB757が両方エンジン停止して川に不時着水したことも記憶に新しいところですが、おそらく10年から20年ぐらいたつと、結果としていろいろな事象が発生してくるとは思いますから、皆様も飛行機に乗るときには、特に長距離国際線では、ご自分が乗られる機種ぐらいはせめて確認してから乗られることをお勧めいたします。
ああ、そうだ。
俺、もう航空会社、関係ないんだった。
忘れてました。
ホッ(ひと安心)
(おわり)