乗らなくても良いです、の理由 その3

東京生まれで、東京育ちの私にとって、ローカル線はあこがれの存在でした。
中学生の時、ローカル線と言えば、どこでも蒸気機関車が走っていました。
会津線、只見線、日中線(喜多方―熱塩)、小海線など、行ってみたい路線でしたが、中学生ゆえに、そう簡単に何度も行くことができず、そのうちに蒸気機関車は消えてしまいました。
でも、蒸気機関車が消えた後でも、ローカル線には都会とは違う風情があって、茶色い客車やディーゼルカーに揺られる汽車旅はあこがれでした。
今、時代はさらに加速し、都会で生活している人々は、私が育った時代よりもはるかに忙しく、殺伐とした生活を送られているのではないでしょうか。
そんなとき、きっとローカル線は役に立つのではないかと思います。
テレビや雑誌で、いすみ鉄道の記事を見つけて、
「よ~し、今度の休みに行ってみよう。」
そう思うだけで元気になれるのがローカル線です。
仕事から帰って疲れた体を休めるとき、ふと、ローカル線を思い出してみてはいかがですか?
「国吉駅にも夜の帳が下りて、虫の声が鳴り響いているんだろうなあ。」
そう考えるだけで、何となくホッとしませんか。
都会人にとって、心の栄養剤のような役割が、ローカル線にはある。
だから、ローカル線は乗りに来なくても、役に立つ。
私はそう信じています。
乗らないからと言って、どんどん廃止してしまうのは、さみしい限りですから、乗らなくても何とか残れる策を立てるのも、ローカル線の仕事だと思います。
いすみ鉄道では、「枕木オーナー」 という商品があります。
自分の名前とメッセージを枕木に書いただけの商品ですが、いざ、やってみると、意外と面白いんですよ、これが。
「ああ、今頃、俺の枕木、元気にしてるかなあ」とか、
雨の日など、
「私の枕木もきっと雨にぬれているでしょう。」
と、考えるだけで、何となくうれしくなりますよね。
一体感を得られる商品なのです。
キハ52の「車両オーナー制度」、「サポーター制度」 と言うのもあります。
自分が支援するキハ52が、今頃走っている、と時刻表を見ながら考えるだけで、夢が膨らむのです。
いろいろなお金の使い方がありますが、何もモノを所有するだけがお金の使い道ではありません。
こうやって、自分の気持ちを込めることだって、立派なお金の使い方だし、そうすることで地域やローカル線の支援ができれば、幸せな気持ちになれるのです。
これが、「乗らなくてもよいですよ。」という理由の3つ目です。
函館本線の森駅の「いかめし」はどなたも御存じの超有名な駅弁です。
でも、この駅弁、函館本線の森駅で、1日何個売れていると思いますか?
森駅は噴火湾を望む風光明美な駅ですが、始発、終着駅の函館から30分程度と近いため、駅弁を買うタイミング的には良くないし、特急の停車時間は30秒。森駅での乗降客も多くないですから、そんなにたくさんの「いかめし」が売れているとは思いません。
おそらく、森駅での販売戸数の数十倍、数百倍の「いかめし」が大都市部のデパートで売れているはずです。
でも、なぜ「いかめし」が、そんなに都会で売れるのかと言うと、味がおいしいのはもちろんですが、北海道の小さな駅で実際に売られているからではないでしょうか。
だから、皆、いつかは行ってみたいとか、きっと良いところなんだろうなどと、あこがれの気持ちを込めて、買うのだと思います。
ローカル線と言うのは、もともと国鉄時代に建設された当初は、地域の輸送の確保や、石炭や木材など産出する特産品の輸送という役割があったのですが、すっかり時代が変わった今では、誰も乗らなくなってしまい、次々と廃止されてしまいました。
でも、いすみ鉄道は関係者の努力でせっかく残っているのですから、都会の人たちの心が休まるあこがれの場所として、地域の広告塔としてやっていく方法があるということを、私はいすみ鉄道で実践しているのです。
線路をはがしてしまってはおしまいです。
とにかく走り続けていることが、大事なのです。
これが、いすみ鉄道を存続させるための私の考え方です。
わざわざ無理して乗りに来なくてもよいです。
でも、皆さまのご支援は必要なのです。
これからも、いすみ鉄道をどうぞよろしくお願いいたします。
(おわり)