よく、「はい、この先は、本を買ってお読みください。」という宣伝がありますが、この文章は、私の著書 「いすみ鉄道公募社長 危機を乗り越える夢と戦略」 をすでにご購読いただきましたお客様へ、さらに、その先を詳しくお話しするコーナーです。
本を読んでいただいた方に、「ああ、あの事だ」と、さらに付加価値を付けていただくために書いてみました。
前回の 「北海道への日帰り」 は本書の150ページ。
今回は、少し前後しますが、20ページに書かれている少年時代のお話も取り混ぜてご紹介します。
本に書かれていることの、さらにその先をお読みください。
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昭和50年4月、中学3年生になると、学校全体が一斉に受験体制に入った。
私も代々木と千駄ヶ谷の塾に週5日通った。
ところが、どうも勉強に身が入らない。
塾へ行くことを口実に、その行き帰りに上野、新宿、東京駅などのターミナル駅に出向いては、長距離夜行列車などの発車シーンを見に行くのが楽しかった。
東京駅は九州特急と呼ばれていた「さくら」 「はやぶさ」 「みずほ」 「富士」などのいわゆるブルートレインが次々と発車していくのが楽しかったので、小学生のころから出かけていたが、どの列車も20系や14系と呼ばれた均一的な固定編成の青い客車が毎日同じように発車していくだけなので、つまらなく感じてきていた時だったから、このころは上野駅によく足を運んだ。
東海道は日本の大動脈であり、垢抜けた車両に、垢抜けたお客様ばかりだったけれど、当時の上野駅は何ともうらぶれた雰囲気があり、発着する列車もいろいろな形式が混ざり合っていたから、年齢的にも、こういう雑踏に興味を持ち始めていたのだろう。
中学生や高校生が上野駅をうろうろしていると、よく声をかけられた。
私に声をかけた人は、刑事コロンボのようなコートを着て、「ちょっと君、君」と言って、コートの内ポケットから警察手帳を出した。
その警察手帳は、落とさないようにコートの内側に紐でくっついていて、まるで小学生がランドセルに給食袋をぶら下げているようで滑稽だったが、向こうは真剣で、私にどこから来たのかを訪ねた。
ところが、「何ですか?」と私が訪ね返すと、その刑事さんは「あっ、もういいよ」という。
こっちも生意気盛りだから、人を呼び止めておいて、「もういいよ」はないでしょう、と食い下がると、「いや、実は家出人を探しているんだ。でも、君は東京だよね。だから、いいんだよ。すまんすまん」
私の「何ですか?」の一言で、東京の人間だということを察したのだ。
毎週のように上野駅に行っていると、こんなことが何度かあり、そのうち私の顔を覚えたのだろうか、刑事さんからは声をかけられなくなった。
もう一人、私によく声をかけてきた人がいた。
その人は、(多分いつも同じ人だったと思うが)決まってこう切り出した。
「お兄さん、いい体格してるね。今何してるの?」
当時、東京のターミナル駅でよく見かけた自衛隊への勧誘である。
とにかく、東京育ちの私にとっても、上野駅など大勢の人が集まるターミナル駅付近は、こういううっとうしい連中がたむろしていたのであるが、次々と発着する列車の魅力には勝てず、毎週のように通ったのである。
中でも私が一番好きだったのが、東北本線を走るEF57という電気機関車。
当時の東北本線には、黒磯以北へ直通する旧型客車の普通列車が何本も残っていて、その先頭に立つのがEF57だった。
特に、夕方16:14に発車する普通列車の福島行は、ちょうど時間帯もよいので、学校帰りに出かけては、よく上野から赤羽や大宮まで乗車して、電気機関車が引く客車列車の旅を楽しんだ。
当時、宇都宮機関区に所属していたこのEF57は、兄弟機のEF56や、今では大人気のEF58と共通運用だったので、ある時など、EF57の代わりにEF58が先頭についていると、「な~んだ、ゴハチか」とがっかりしたのである。
今思えば、何と贅沢な話だったろう。
旧型客車の普通列車は、高崎線にも、常磐線にも何本か残っていて、よく乗りに行った。
ところが、この客車列車というのは、電車に比べると加速や減速が遅く、車輌も両端のデッキから乗り降りしなければならないために、乗降にも時間がかかる。
鉄道ファンの私の目で見ても、どう贔屓目に見ても、「こういう車両は、東京近郊では無理だな」と思える状態だった。
いずれなくなることは目に見えていたので、今のうちに乗っておこうと、各線の列車に乗りに行ったのだが、高崎線はEF58、常磐線はEF80。それに比べると、東北本線のEF57はやっぱり格好良かったので、どうしても足は東北本線に向いたのであった。
[:up:]雪の日の上野駅 東北本線の普通列車の先頭に立つEF57。デッキと屋根から飛び出したパンタグラフが格好良かった。
[:up:]上りの急行「能登」を引くEF58。足回りに雪を絡ませて上野へ向かう。(赤羽にて)
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