LCC(Low Cost Carrier・格安航空会社)について

LCC(格安航空会社)という言葉を最近良く耳にするようになりました。
このところ、元航空業界にいたということで、雑誌などの取材を受けていると、LCCについて意見を聞かれることが多くありますので、私なりのLCCに対する考え方をまとめてみました。
あくまでも主観ですから、ご了解のうえご一読下さい。
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余分なサービスを一切排除してその分航空運賃を極力安く提供しようというのがLCCですが、欧米の航空業界では「ノーフリル」と呼びます。
「ノーフリル」とはつまり「フリル」がない。洋服やベッドカバーなどの裾についているヒラヒラをフリルといいますが、そういった余計な飾りがないことという意味で「ノーフリル」です。
1980年代にアメリカで航空自由化が行われ、格安航空会社がたくさん登場しました。当時の格安航空会社は大手が使い古した中古機を購入して整備もろくにしないで飛ばしているところが多かったため、一部では事故が続出し、その多くは時代とともに消え去って行きました。
今のLCCはそういった時代を経て生き残ったものや、新しく誕生したものですが、当時と違うのは飛行機はほとんど新品で、操縦士も経験豊かなベテランが乗っていることが多いという点。
燃料代がこれほど高くなると、最新型の低燃費の機体で運航する方がコストを抑えられることと、航空需要が一段落したため、退職組のベテランパイロットの供給を多く受けられるようになったことが、格安航空会社イコール危険というイメージを一新させました。
では、格安航空会社はどういうところに特徴があるかというと、
・インターネット販売が主体でクレジットカード決済
・発券、予約、手続きなどのサービスに人がかかわらない。
・機内サービス一切廃止(機内食、音楽、ビデオなど)、希望する場合は有料
・受託手荷物にも料金を請求する。(会社によっては飛行機まで自分で運ぶ)
・座席の前後間隔、横幅が狭い。
・チェックインをしない。座席は搭乗順に早い者勝ちの自由席
・機体の折り返し駐機時間が短い(飛行機の回転を良くする)
など。
その他にも、都市の中心部から離れた空港から発着したり、乗継接続を考慮しなかったり、トイレも有料にするといった冗談も聞こえるほどです。
つまり、目的地に着く以外に相手に何も期待せず、文句も言わず、自分のことは自分でやって、さっさと乗ってさっさと降りることができる人がLCCを利用しているのです。
私は現在欧米で一般的になっているこういったLCCが、はたして日本人の考えに合うかどうかという点で少し心配していることがあります。
というのも、バブル崩壊後の日本ではデフレ現象に見舞われたものの、安かろう悪かろうでは商売にならないため、どの企業も皆努力に努力を重ね、安くても品質が良いものを提供することが可能となり、私たち日本人はそういった環境になれてしまっているということ。LCC格安航空会社にもそういう点を期待しているところが多いのではと考えるからです。
前回のブログに書きましたが、エコノミークラスに乗っているのに「俺を誰だと思っているんだ!」的な発言をする自称VIPは別としても、LCCといえばバックパッカーやリタイヤした年金生活の人たちが主に利用するヨーロッパとは違って、こちらはアジアですから、私たち日本人が想像もできない低所得で生活している人たちがアジア諸国にはたくさんいるわけです。
そういう人たちを雇用したりお客様にすることでアジアのLCCが成り立つことを考えると、「どうかなあ」と思うわけです。
例えば、食事の仕方ひとつとっても、私たちは行儀ということを子供のころから厳しく教わっています。ところがアジアには骨付きチキンなど食べると食べカスを足元に捨てていく食事方法の人たちもたくさんいるわけです。
それが良いとか悪いとかではなく、現実問題として、ただでさえ狭いエコノミークラスの座席をさらに狭くしたところで、そういう習慣の人たちと隣り合わせになることに、日本人は耐えられるのでしょうか、と思うのです。
また、「水ください」と言っても相手にしてもらえないようなサービスをサービスと思えるかどうかも疑問です。
予約変更も一切効かず、払い戻しもできない。インターネットで予約、発券、チェックインを済ませるといったシステム的なことに関しては、ここ数年、日本人も相当使いこなすことができるようになってきました。でも、安いからといって何でも飛びつく人たちは別として、海外旅行という非日常の行動の中で、LCCをどこまで受け入れられるかということになると、1~2度は乗るでしょうが、3回目ぐらいからは考えるようになると思います。
今、日本では各所ですみ分けが行われています。
野菜や食料品も安い中国産と、高い国産がありますが、高くても国産品をという人たちも多くいます。
スーパーで売っている豆腐も1丁15円の物もあれば、200円、300円の物もあります。
卵もそうですね。
そういう点ではLCCも選択肢の一つとしては考えられると思います。
でも、私は、1丁15円の豆腐は買いませんし、卵もある程度しっかりとしたものを買うようにしています。
欧米でLCCが盛んになってきていますが、欧米人の中にも「私はLCCは乗らない」という人たちが多くいるというのも事実なのです。
ただ、今なぜLCCなのか、ということを考えるとき、私は日本の航空会社が、まだまだ改革も努力も足りませんから、その刺激としてはとても重要な役割を示すのではないかと期待もしています。
来年の春にB747(ジャンボジェット)が日本から引退するようですね。
航空業界も大量輸送時代に終止符を打つのですから、完全に転換期に来ているのでしょう。
ジャンボジェットが廃止されたらパイロットたちはどうなるのでしょうか。
パイロットの免許は機種限定ですから、B747のパイロットはB747以外には乗れません。
人員整理をしなければならないのなら、ちょうどよいから「あなた達は来年のバジェットに入っておりません。」って言っちゃいなさいよ。
と、日の丸航空の再建を担当する友人に話したところ、目を丸くしていました。
欧米では自分の乗っている機種が廃止されても会社は機種転換訓練なんてしてくれませんから。
そういう点では日本はまだまだ甘いですよ。
私が前にいた会社はコンコルドを飛ばしていましたが、コンコルドが廃止されるとき、パイロットたちはどうしたと思いますか?
まあ、超音速旅客機のパイロットが今さら亜音速に移行するのもプライドが許さなかったと思いますが、会社から彼らに対しての正式なオファーは
・客室乗務員への移行訓練
・セキュリティー関連業務への配置転換
・退職
この3つでした。
(実際に客室乗務員になった人もいます!)
日本なら、「俺達が今までどれだけ会社に貢献してきたと思ってるんだ。」と組合挙げて大騒ぎになるところでしょうが、「俺達の貢献度」については会社はそれまで「充分な給料」という形でコンペンセーションしてきているわけですから、欧米では議論にはなりませんし、実際にもめることもありませんでした。
30数名のコンコルドのパイロットたちは、上の3つから1つを選んで新しい道に進んでいったのです。
日の丸航空の機長さんたちに言ってみたらよいですよ。
新しい仕事は次のうちのどれにしますか?
・キャビンクルーとして訓練を受けて客室に乗務する。
・LCCへの再雇用の紹介
・退職
日本はまだまだ甘いし、やさしいと思いませんか?
それにしても許せないのが日本の航空会社の座席配置。
B777のエコノミークラスの座席は、3-3-3の横9席が標準ですが、最近の国内線用のB777は3-4-3の横10席。
ひそかに1席増やしているのです。
飛行機の横幅は同じですから、明らかに座席の幅が狭くなっている。そういう座席を日ぺりも日の丸も誰にも言わずに内緒でやっているのです。
運賃だけフルにとって、やってることはLCCとは、これいかに。
座席を狭くしてノーフリルに徹するのなら、それなりのやり方があるはずです。
日本人の皆さん、騙されてはいけませんよ。