1円玉の砂時計

最近ではいろいろなところから講演に来てほしいと呼ばれます。
私のような人間がひと様の前でお話をさせていただくことなど何もありませんから、
お断りさせていただくと、どうしてもお願いしますと。
せっかくのありがたいお話だから、いすみ鉄道にもプラスになることだし、お呼ばれして、お話をさせていただく時、私は講演の最後に 「1円玉の砂時計」 の話をさせていただくことにしています。
皆様よくご存じのワタミの社長、渡邉美樹さん。
同じ社長でもいすみ鉄道の社長とは比べものにならないほど立派な社長さんで、
私はとても尊敬しているのですが、実は彼は同じ学校の先輩で、きっと学生時代に校内ですれ違っていたんだろうなあ、と思いますが、当時は知るすべもなく、ただ、当時ゼミの教授が「最近は大学を出て佐川急便に就職する者がいる」とおっしゃっていたのを今でも覚えています。
もう30年近く前の話になりますが、当時の佐川急便は今のようなきちんとした大企業ではなく、まだまだ走り出したばかりの元気いっぱいな、やんちゃな会社でした。
寝る間も惜しんで働く若者が夢をかなえるための最短コースだったように記憶していますが、渡邉さんは、学校を出て、佐川急便でがむしゃらに働いて、居酒屋チェーンの軍資金を稼ぎ出したのは有名なお話です。
その渡邊さんが書かれた本の中に、「1円玉の砂時計」の話が出てきます。
1日を1円玉に換算したら、あなたの残りの人生はいくらになりますか?
皆さん、自分の残りの人生を数えてみてください。
もちろん平均寿命を基準にして構いませんが、
例えば私は今年50歳ですから、あと30年残っているとして、
365×30で10950円
60歳の方なら、7300円
40歳なら14600円が1円玉の数になります。
その1円玉が砂時計のように1日に1個ずつ、確実に落ちて行くのです。
ヤバいでしょう。
でもこれが現実です。
ここが、人生を考えるスタートラインです。
ところが、
この数千枚、人によっては一万数千枚、二万数千枚の1円玉の中に、1枚だけ金の1円玉が入っています。
どこに入っているかはわかりませんが、1枚だけ確実に金の1円玉が入っていて、
ある日、その金の1円玉がポトリと落ちたら、その人の人生はそこで「おしまい」
あとどれだけ1円玉が上に残っていたとしても、金の1円玉が落ちたらおしまいです。
このように考えると、1日1日無駄に過ごしてはいられませんよねえ。
いつかは、何かをしてみたいと思っている人。
例えば、退職したら本を書きたいと考えている人、いませんか?
そういう人は、今すぐに書き始めましょう。
屋久島に行ってみたいと思っている人。
来週にでも行きましょうよ。
何かやりたいことがある人、今すぐに準備に取り掛かりましょう。
人生は待った無しですから。
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「お前さん、そんな風に考えると病気になるよ。」
私の航空学生時代の先生のTさん。生きていたらこういうだろうなあ、と思います。
パイロットの教官ですから、人一倍健康管理を慎重にされていた方ですが、ある日突然の訃報。
そう、予期せぬときに金の1円玉が落ちちゃった。
そのTさんの年齢に自分が差しかかっていることに気づいて、今、ワタミの渡邉社長の1円玉の砂時計の話がとても身にしみます。
Tさんから教えてもらった数々の教訓。
「操縦幹というのはなあ、女性を触るように、やさしくやさしく扱うんだ!」
そんなこと言ったって、女なんか触ったことないよ~(当時の話です!)
「人生の間違いはやり直しができる。空で間違えると命がなくなるぞ」
「飛行機に乗っていると、1つの緊急事態はよくあることだ。それが時として2つの緊急事態が発生することがある。その時に、冷静に判断して、緊急事態を1つに減らすことができれば、おまえは死なない。取り乱して緊急事態を3つにしてしまうやつがいる。そういうやつは死ぬぞ」
こういう数々の教えは、今でも私の中で生き続けていると思います。
訓練中のある日、最終進入経路(ファイナルアプローチ)で自分の目の前から滑走路がどんどん左へずれていきました。
「Tさん、滑走路がズレていきます。」
「バカ! お前がズレているんだ!」
自分の身を振り返ると、地上の出来事でも、こういうことってあると思います。
自分を客観的に見ることは誰にとっても難しいものです。
皆さんも「世の中が間違っている」と思うことありませんか?
もしかしたらご本人がズレているのかもしれません。
「なんだ坂、こんな坂、なんだ坂、こんな坂!」
この言葉が分かる人、50歳以上でしょう。
昔、蒸気機関車が重い列車を引いて坂を登るとき、シリンダーから吐き出される蒸気の音が、こういう声に聞こえたものです。
そう、Tさんが越えられなかった50の坂。
私にも結構しんどい坂です。
でも、自分が引っ張れる以上の重さの荷物は持たされていないと信じていますから、何とか登り切りますよ。
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こんな砂時計の話を聞いてしまったら、心配で胃が痛くなるという方。
私の講演では、もちろん解決方法というか対処方法も合わせてお話しいたしておりますからご安心ください。
ということで、今日も1日、肩の力を抜いて、頑張らずに、がんばりましょう。