新幹線分離事故に対するBCP

東北新幹線の電車がまた分離事故を起こしたようですね。

列車の分離事故というのは過去においてもそれほど珍しいことではなくて、古くは三浦綾子の「塩狩峠」もそうですし、大井川鐵道でも機関車と客車の分離事故が発生しています。

列車は走行中に分離するとブレーキのエアーホースや電気系統が切れますので、その時点で非常ブレーキが働いて緊急停止します。

つまり、これがフェールセーフ機能になっているわけで、今日もそうですし前回もそうですが、2つの列車が少し離れたところできちんと停止して安全が保たれているのです。

過去に例えばJR路線で発生したように、2つの電車が走行中に分離しても、列車を繋ぐ幌が外れず、さらに2つの列車が同時に加速減速していますからエアーホースも電気系統も切れることなく、そのまま走って行くなんてこともありました。

次の駅に停車して、乗務員が「何か変だな?」と思って連結部分を見に行くと幌が異様に伸びていて連結器が外れているのに気が付いたなんてこともありましたが、それでもとりあえず安全性は確保されているというのが今のシステムですから、「あってはならないこと」ではありますが、発生したとしてもバックアップ機能があり、フェールセーフとしては確立しているのです。

では、今回の事故もそうですが、何がフェールセーフになっていないのか?

私は、ひとたび東京-大宮間で何らかのトラブルが発生すると、東北新幹線、上越新幹線、北陸新幹線の全路線が運転できなくなってしまうということだと思います。

今回の分離事故もそうですし、少し前には架線が切れて垂れ下がって運転できなくなったことがありました。あるいは、並走する埼京線のホームから人が新幹線の線路内に入ったということもありました。

東京-大宮間でひとたびそういうことがあると、東北、上越、北陸のすべての区間で列車が走れなくなってしまうのです。
まぁ、走れるかもしれませんが運転整理の関係で敢えて全線で止めてしまっているということもあるでしょう。
その方が復旧が楽ですからね。

このように東日本の新幹線では東京から大宮の区間がボトルネックになっていますから、この区間で何かトラブルが発生すると全区間で列車が止まってしまう。
これって、BCPという考え方が全く考慮されていないと私は思います。

今日だって100本以上の電車が運休して、10数万人に影響が出たと言われています。

鉄道会社は列車を止めて払い戻しをすればそれで運送約款上は解決するかもしれませんが、例えばビジネスの出張がダメになって大きな損失が出る人もいるでしょうし、受験生だって乗っているかもしれません。

つまり新幹線は日本の大動脈ですから、国民の利益を乗せて走っているわけで、それを運送約款上で片づけるとすれば輸送に対する信頼というものがなくなっていくことになります。

「どうせ定時に走らないだろうから、新幹線はやめておこう。」

「だったら最初から高速バスで行って、前泊しよう。」

そういう人たちが増えてくれば鉄道会社としては長い目で見れば大きな損失だとは思いますが、それ以前の問題として、国民の利益が失われるということは国家的損失だと私は思います。

つまり、新幹線は国としてBCPを考えなければならないのでは。
一民間会社に国の利益を任せておいてよいのでしょうかと思うわけで、なぜならその一民間会社には今の時代にはそんな使命感はおそらく持ち合わせていないだろうと思われるからです。

もう40年以上も前の話ですが、東北新幹線、上越新幹線が最初に開業した時は、赤羽のトンネルの上にある学校の土地収用問題がこじれて上野までの建設が遅れていて、暫定的に大宮発着で開業したのです。

ということは、大宮駅は折り返しできる設備がもともと備わっていたはずで、その名残りとして今では時間帯によってはほとんど使用していないホームがあるのですから、構内に余裕がある。

だとすれば異常事態の時に大宮駅で折り返し運転をすることは、それほど大きな工事をしなくても大丈夫なはずだと私は考えます。

地方からの人たちもとりあえず大宮まで来れれば大宮から都内の間はダブルトラック、トリプルトラックになっていますからなんとかなります。
東京から出かけようとする人たちも、大宮までならそれほど苦労せずに行くことができますからね。

鉄道会社の職員としては「そんなめんどいことはしたくない。払い戻しすればそれで済むだろう。」と考えるかもしれませんが、輸送の責務というのは運送約款上だけのことではなくて、国民の生活を背負っているんだという自覚が必要なのですが、民営化して40年近くが経過すると、そういうことを求めてもいろいろとできない理由を言うだけでしょうから、これだけ連続して事故が発生する事態を見ると、やはり国としてのBCPということで、大宮折り返しができるようなシステムの改修を命じる必要があるのではないかと、私は思うのであります。

本日はまってしまった当事者の皆様、お疲れさまでございました。