今日、新千歳空港で見た光景
飛行機に乗る前の搭乗ゲートにある売店
山盛りソフトクリームが名物なお店だと思う。
旅行者のおばちゃんがそのソフトを受け取っていて、
「気を付けてくださいね。倒れやすいですから。真っすぐに持って上から食べてくださいね。」
とお姉さんに言われてた。
おお、すごいのあるんだなあ。
お姉さんの声で気が付いた私。
おばちゃんの手にはスカイスクレイパーのようなソフトクリーム。
でも、おばちゃんなんだか危なっかしい。
片手でカバンをゴロゴロしながら、片手でソフトを持って、横に数歩歩いてテーブルに向かい、カバンを持つ手を放して座ろうと椅子を引いた瞬間、手にしていたソフトからクリームだけが「ボタッ」と落ちた。
「あっ」
おばちゃんテーブルの上に落ちたクリームを手でつかんで途方に暮れている。
通りかかった私の目の前で突然に起こった悲劇。
こちらはなんともリアクションできない。
すると売り場のお姉さん、すかさず「ちょっと待ってくださいね。」と言って、こぼれたソフトを処理して、おばちゃんにもう一つ新しいのを用意していました。
おばちゃん、人の話聞いていないんだから。
でも、目の前で落とされたらお店としても「だから言ったでしょう。」とも言えませんよね。
その光景を見て、私の頭の中が走馬灯のように回りました。
あれは30年近く前のやはり北海道は襟裳岬。
そのころ私はトヨタのハイエースに乗っていて、夏休みの旅行で家族を乗せてフェリーに乗って10日ほどかけて北海道を一回りしました。
当時はまだ子供が3人。襟裳岬に着いて、岬の売店で子供たちが「アイスが食べたい」というので、3人に買ってあげたのです。
一番下の子が当時2歳ぐらいだったかな。
頼んだのはブルーハワイ。
売店のおばさんからコーンの上にブルーハワイがパカッと乗ったアイスを受け取ってニッコリ。
「ちゃんと持ってね。落とさないように。」と私。
でもってしばらく歩いて後ろを振り向くと、その3男が立ち止まってる。
手に持っているはずのアイスはコーンだけになっていて、下を向いた視線の先にはブルーハワイが地面にボテッ。
あ~っ。
「落ちちゃった。」と悲しい目の3男。
落ちちゃったじゃないよ。
だから言ったろう、と私。
もうあきらめろ!
その時私はそう言った。
確かにそう言った。
お前が落としたんだから仕方ないだろう、と。
あの時の悲しそうな眼は今でも覚えてる。
その3男はボーっとしている子供だったけど、なんだか知らないがまともに塾へも行かないのに、糸魚川の相馬御風の都の西北の学校に入った。
こいつの頭の中はどうなっているのだろう。
そう思ってある時、私は聞いたんです。
「お前の人生最初の記憶は何か?」って。
そうしたら、何を思ったのか「襟裳岬」って答えやがった。
「あの時、アイスを落とした。」って。
私は激しい衝撃を受けました。
人生最初の記憶が、2歳の時にアイスを落としてオヤジに叱られた淋しい記憶だとは。
こいつの頭の中にはあの襟裳岬は悲しい出来事として強烈に焼き付いていたのだ。
私は後悔の念にさいなまれました。
なんであの時、もう一つアイスを買ってあげなかったのだろうか。
大学生になった3男の口から襟裳岬という言葉を聞いた瞬間に、私にとって、襟裳岬が、たぶん、人生で最大級の後悔の場所になったのであります。
今でもはっきりと目に浮かぶ。
鮮やかなブルーハワイが道路に落ちて流れていくシーンと、それを見つめる3男坊の悲しい目。
そうか、すまなかったな。
何しろ俺もあの時はまだ若かったもので。
そう言って私は3男に謝った。
「でも、あの時、お兄ちゃんがアイスくれたんだよ。」
せめてもの救いか、そう言ってくれた3男も今では立派なお父さん。
どうかお前は子育てを間違えないでくれ。
おばちゃんが目の前で落としたソフトクリーム。
すかさず、「大丈夫ですか?」ともう一つさし上げるお姉さん。
このお姉さんは立派だよ。
少なくとも人間としては私よりはるかに立派。
だって、悪いのは落としたおばちゃんなんだから。
人の話聞いてないんだから。
でも、ソフトクリームを落とした人を責めてはいけないんだなあ。
そんなことで、いちいち人を責めてはいけないんですよ。
だって、ソフトクリームは人を笑顔にするものなんですから。
そして、ローカル鉄道の観光列車も人を笑顔にするために走っているのです。
あぁ、今日はおばちゃんとお姉さんのおかげで、また一つ勉強させていただきました。
襟裳の春は、何もない春です。
私の「何もないがあります」の原点の襟裳岬。
たぶん、私の人生ではもう行くことはないでしょう。
日高本線もなくなっちゃったし。
思い出したくもないし。
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