ビジネスとしての夜行列車 その2

いすみ鉄道の夜行列車、次回の運転は1月11日から翌12日にかけてで、本日インターネットで発売開始するということは先日もお話しさせていただきました。
全長26.8kmのいすみ鉄道が夜行列車をやってどうするんですか?
というのは普通の人のあたりまえの考えで、じゃあ、いすみ鉄道の夜行列車に申し込んで体験を楽しまれるお客様は普通の人ではないのかというと、そんなことはなくて、やはり普通の人なんです。
では何が違うかというと、違うのは目的なんですね。
鉄道の本来の使命は「目的地へ行くための移動手段」で、普通の人たちはそういう目的で鉄道を利用するのですが、これが観光鉄道になると「乗ることそのものが目的」になるわけですから、大井川鉄道のトーマスも箱根登山鉄道も富士山特急も、観光客の皆さんはわざわざその列車に乗りに行くわけです。
いすみ鉄道の夜行列車も全く同じで、「目的地へ行くこと」が乗る理由ではなくて、「乗ることそのものが目的」ですから、こういう列車をご利用になる皆さんは観光客であって、観光客ですから普通の人なわけです。
ところが昨今では観光と言ってもいろいろあるわけで、ガイドブックに載っている観光地を巡るのが観光だと思っている人が多い中で、誰も行かないような裏通りを探検するのが観光だと考えている人もいますから、どこにも行かないけれど、朝まで昭和の国鉄形ディーゼルカーの中で過ごしてみたいというのも立派な観光なのです。
ただし、こういう人たちはバスに乗って大挙してやってくる観光客とは違って、新しい分野の観光を開拓するパイオニアの皆さんですから、需要もそれほど多いわけでもない。逆に言えば、広く告知する必要性などなく、ピンポイントで告知する、つまり、いすみ鉄道の夜行列車は、私がブログでつぶやくだけで、それを目ざとく見つけて参加していただく皆さんだけで満席になってしまうような商品なわけです。
いすみ鉄道で夜行列車をやろうと思ったのは、実はもう一つ理由があって、航空会社に勤めていた時に「これは良い考えだ。」と思っていたことがあるんです。
それは何かというと、深夜の国際線。
例えばJALやデルタが夜9時過ぎにグアムへ向けて成田から飛行機を飛ばします。その飛行機は早朝成田に戻ってくるわけですが、こういうことはグアムだけじゃなくて航空会社は違うけどソウルでも台北でもやっている。
深夜に東京を出るソウル便であれば、格安ツアーの対象ですが、なぜ格安ツアーができるかというと、利用者が少ない時間帯だからではなくて、夜間に飛行機を駐機場で眠らせているのではなくて、有効利用してるからなんです。
昼間1日運航した飛行機が深夜にもう一稼ぎして、朝になったらまた通常の業務に戻る。飛行機は人間と違って「疲れた」とか「休みたい」とか言いませんから、そういう働き者の飛行機を最大限に利用したのが深夜便なのです。
そしていすみ鉄道の夜行列車は、この飛行機の深夜便をヒントに、夜の間車両を稼働させることで、もう一稼ぎしているわけです。
いすみ鉄道は土休日は観光客でにぎわっていて、じゃあ、だからと言ってさらに列車本数を増やしたり車両を増結したりすることはできません。レストランもやっているし懐石列車もスイーツ列車もやっていて、土休日にこれ以上のサービスを供給する枠や余裕がない状態なんです。
つまり、もうこれ以上観光列車でお金を稼ぐことができない状態です。
ところが社長である私には、上の方から「もっと売り上げを伸ばせ」、「安定的に黒字にしろ」という天の声が降りてくるわけで、それが私に課された使命なのです。
そして、それに応えるために、すでに伸びシロが無いと思える土休日の運用に伸びシロを発見したのが深夜時間帯の有効利用ということなのです。
そういう経緯から、いすみ鉄道の夜行列車は生まれたわけですが、こういうことは社長がいくら「夜行列車やるぞ!」と掛け声をかけたところで実現できるものではありません。
乗務するのも準備するのも段取りをするのも私ではなくてうちのスタッフなわけで、スタッフが大奮闘してくれているから実現しているのです。
JR出身のおじさんたちはこういう企画に理解できませんが、自社養成運転士をはじめ、今のいすみ鉄道には「鉄道会社で働きたい」という人たちが集まってきていて、そういう皆さんがベテランの域に達してきたことも、今年、夜行列車にチャレンジしてみようと思った大きな理由なのであります。
12月31日に終夜運転を実施しますが、こういう夜行列車に「私が乗ります。」と自ら志願してくれるスタッフがいすみ鉄道にはたくさんいて、そういうスタッフがいすみ鉄道の夜行列車の運行を支えてくれているし、夜中にラーメン屋さんをやってくれる応援団の皆様の力もとても大きいですから、決してJRには真似することができない、いすみ鉄道だからできる「夜行列車」なのであります。
1月11日運転の第5回夜行列車は本日15時からすでに発売中で、ワンボックス1人、1ボックス2人プランはすでに完売。ロングシートプランだけが残っています。
お申し込みは こちら から、お早めにどうぞ。
皆さん敬遠されると思いますが、ロングシートプランと言っても、ほとんど横にはなれる席数しか販売しませんから、スペース的には十分だと思いますよ。
(おわり)