高速バスは安いのか?

北海道での会議を終えて新潟へ戻りました。

新潟と行っても広いのでありまして、私の住んでいる上越市の高田というところは西側の富山県に近いところ。新潟空港からだと裕に3時間以上かかりますから、なかなか大変です。
感覚としては羽田空港に着いてから静岡県に帰るような感じですね。

さて、新潟空港に到着したのが17時35分。
17時50分の空港バスに乗って新潟駅には18時15分着。
新潟空港は県庁所在地の駅から25分のところにありますから、なかなか良いロケーションだと思います。
そして、私は本日は新潟駅から高田までの高速バスに乗ってみました。

バスの発車が18時40分。
高田まで直通する特急「しらゆき」が20時ちょうどでしたから、待ち時間がありすぎます。
新潟で一杯飲んで時間をつぶしても良かったのですが、帰りたくなくなるといけませんから、躊躇せずに18時40分発の高速バスに乗りました。

ちなみにJRの特急「しらゆき」は指定席で4910円。自由席でも4580円。
これに対し高速バスは2040円。

安いですね。半額以下です。

所要時間は20時ちょうどに新潟を出る「しらゆき」は21:54に高田着ですから1時間54分。
これに対して18:40のバスは20:53分高田着ですから、20分ほど余計にかかる計算です。
でも、新潟で時間をつぶして「しらゆき」に乗ることを考えたら1時間早く帰れますから、もちろん選択肢としては高速バスでしょうね。

でもって、バスに乗ってみてふと考えた。

「高速バスって本当に安いのだろうか。」と。

私のようにおじさんからおじいさんの入口に差し掛かっている年代の人間にとってみたら、ふだんは何も考えずに、つまり、バスと比べることなく当然のように第一選択肢として特急列車に乗っていますから、その特急列車に比べれば「安い」と思うのでありますが、今の若い人たちは特急列車に乗ることが第一選択肢ではないでしょうから、ふだん使いで高速バスを使っている。だとしたら、「高速バスは安い!」とは思わないでしょう。
じゃあ、なんて思うかというと、「JRは高い!」「特急だと倍以上するじゃない。」と思うはずなのです。

高速バスなら2000円で新潟まで行かれるのに、JRの特急に乗ると5000円かかる。
もちろんJRだって往復割引切符を出していますけど、それだって1枚当たりの金額は3000円を超えるのですから、JRの会社の人にしてみたら、特別安い切符を出しているつもりになっているでしょうけど、利用者から見たら全然安くない。
会社としては、「おかしいなあ? こんな安くしているのに利用者が少ないなんて。」と思っているかもしれませんが。つまりは的外れなのです。

まして、高速バスだと特急列車より小まめに停留所に停まります。
そして、その停留所には階段を降りたところにたいてい無料で停められる駐車場があって、パークアンドライドになっています。
利用者から見たらこんなに便利なことはありません。

でも、JRだとよほどの田舎に行かない限り特急列車が停まる駅前に無料駐車場なんてまずない。

どうしてかというと、高速バスの停留所はたいていは田んぼの中や人家から離れたところにあるから田んぼの1~2枚の土地が確保できれば駐車場などすぐにできます。
これに対して特急列車が停まる駅前は一等地ですから無料駐車場なんて出来っこありません。
でも、本当に駅前が一等地かというと、日本全国の地方都市で駅前は一等地だと思い込んでいるのは昔から駅前に土地を持っている人たちだけの話で、実際には駅前が一等地だった時代は30年以上も昔に過ぎ去って、空きビルや空き地だらけになっているのですから、だったら整理して無料駐車場ぐらい作ればよいと思うのですが、そう簡単にはいかないのが全国共通のこの国の現状なのであります。

では、私は何が不思議に思うかといえば、高速バスにはバス1台に1人の運転士さんが必要です。
特急列車であれば何台連結しても運転士さんは1人です。
1台のバスに50人乗れるとすれば、60人運ぶときにはバス2台。そして運転士さんも2人。
200人運ぶときには運転士さんが4~5人必要になります。
こういうお仕事の形を「労働集約的」と言いまして、経済の原則から言うと、あまり好ましい形ではないとされているのです。

かつてのイギリスではマニファクチュアという時代がありましたが、つまり家内制手工業だった仕事を工場制手工業に変えることで生産性が向上し、富が増えてきたのです。そしてさらに工場制機械工業へと変化して産業革命がおこり、いわゆる文明が発達したのですが、つまり、高速バスのような労働集約的業務というのは、実は儲からない仕事であって、バスから鉄道へ移行するのが富を増やすために必要な行為なのです。
まして、これからの時代に高速バスの運転士さんが確保できないと言われていますから、都市間交通の主役を高速バスに委ねている現状はかなり危ない状況だと私は考えているのです。

そしてさらに不思議なのは、その労働集約的な仕事である高速バスが、大量輸送を少人数でできる鉄道輸送よりも料金が安いということで、これは経済の原理原則に反していると思うのです。
なぜなら、鉄道は線路を自前で維持管理しなければならないと言われていますが、確かに大きな修繕工事に費用が掛かることは事実です。でも百年以上も前にできた線路で、建設時にかかった費用はすでに償却されているというのもある意味事実ですから、わずか20~30年ほど前にできて現在も拡張工事が続いている高速道路から比べると、維持管理の費用もそれほど莫大なものとも思えません。

ということは、つまり、鉄道や高速バスは、経済の原理原則とはかけ離れた「何か別の要因」によって支配されているのではないかと思うのであります。そして、その何か別の要因に支配されている鉄道や高速バスが、地方においてこの国の根幹を担っているのですから、このままで良いのでしょうかと考えるのです。

では、それほど安い高速バスならさぞかしたくさんのお客様が乗っているだろうと思いきや、始発の新潟駅前から乗車したのは5人だけ。20分以上かけて新潟市内をグルグル回り各所で乗客を乗せて高速道路に入った時点でのお客様は20数名。
途中の停留所で三々五々下車が始まり、柏崎を過ぎるとこんな感じでガラガラ。

「しらゆき」の乗車率も毎日報告を受けていますが、つまり、どういうことかというと、少ないパイをお互いに食い合ってしまっているのでしょう。

高速バスの会社だってどこも経営が大変だと言われていますから、今の日本の都市間交通は、もしかしたら誰も幸せにならない構造になっているのかもしれません。

千葉から車を持ってきていませんので、高田に来てからというもの、公共交通機関に頼る生活をあえてやっていますが、いろいろなところで、いろいろなことが見えてくるのであります。

20:53 最後は4人の乗客を乗せて高田駅前に到着した高速バス。
1分単位で正確な運行でした。

頸城バスさん、安全正確な運行をありがとうございました。