世の中人手不足が深刻化していると言われています。
人口が減っていく中で、その仕事に従事する人がいなくなる。だから、外国人を労働者として迎え入れようという話も出てきているようです。
私はやめておいたほうが良いような気がします。
外国人を労働者として迎え入れることは、戦後の西ドイツがトルコ人労働者を迎え入れたことに端を発して、今でも尾を引いているからです。
戦後、西ドイツではドイツ人の働き手がいない炭鉱労働などにトルコ人労働者を入れました。ところが、ドイツ人はトルコ人の労働力だけが欲しかったのに、実際にはトルコ人は労働期間が終わっても帰国せずにそのままドイツに居座り続けました。
これがドイツにおけるトルコ人労働者の問題として、外国人労働者の単純労働の輸入は危険であると言われている原点です。
なぜなら、本来なぜ外国人が出稼ぎに来るかというと、自分の国では食べていくことができないから出稼ぎに来るのであり、ということはそこに人の生活があるわけですから家族を含めた一族郎党が皆移住してくるということになるのです。労働というのは、生活ですから、当然そういうことになるでしょう。ところが、ドイツ人としてはトルコ人の労働力は欲しいけど移民はしてほしくない。つまりいいとこどりをしようと考えたわけです。
でも、そうはいきませんでした。なぜなら、ドイツで労働力が不足しているということは、ドイツ人がトルコ人から労働力を買いたいということですから、トルコ人側の売り手市場になるわけで、つまり売る側の方が強くなっていくのですから、結局自分たちの国に居座られることになって、今のドイツ国内にも、この戦後のトルコ人労働者の受け入れが様々な問題として尾を引いているのです。
さて、日本はどうかというと、もちろんそういうことはすでに承知していて、そうならないために偉い人たちが様々な策を練っているわけですが、外国人労働者の問題ばかりでなく、日本人労働者の中でも人手不足の影響が良くないところに出てきているのではないかと私は考えます。
例えばバスの運転士さん。
昨今人手不足でバスの運転士さんが足りないと言われています。
何もこの現象は今に始まったわけではなく、10年ほど前に私がいすみ鉄道で「自社養成列車乗務員訓練生」なるものを考えていた時に、運輸業界ではすでに言われていました。
その後、大きなバスの事故が相次ぎましたが、乗務員が中国人の移民だったり、高齢者であったり、バスの運転に不慣れな即席運転士であったりと、どの事故もドライバーが原因となっているものがほとんどでした。
こういうことはつまりは人手不足によるもので、ではなぜ人手不足かというと、誰もバスの運転士になろうとしなくなったからなんですが、そうなるとどうなるか。つまり労働力の売り手市場化が発生するわけです。
会社は運転士のなり手を一生懸命かき集めようとする。
そうすると、売り手市場ですからつまりは質の低下が発生する。
買う側よりも売る側に選択権がありますから、気に入らなければ辞めて他へ行けばよいわけで、なかなか労働力が定着しない。
労働力が定着しないということは、熟練者がいなくなるということで、安全運行のためのスキルの蓄積もままならなくなる。
こういうことが、今、バス業界では起こっているのではないでしょうか。
先日、高速バスのドライバーが乗務中に指導教官とけんかをしてパーキングエリアにバスを止めて乗務を放棄した事件が発生しました。路線バスでの乗客と運転士とのいざこざやトラブルも後を絶ちません。中には市営バスの運転士の息が酒臭かったなどという話もネットに流れています。もちろんまじめに乗務を遂行している運転士さんがほとんどで、こういうおかしな運転士さんは極々一部なんでしょうけど、実際に起きていることを考えると、人手不足→売り手市場→商品の質の低下という原理原則に従ってきっちりと歩んでいるのではないかと思わざるを得ません。
バスの運転士さんだけじゃありませんね。飛行機の運転士さんだって過去にない人手不足で、今航空業界では引き抜き合戦が常態化して運転士の取り合いになっています。そういう人手不足が深刻化してくると、つまりは売り手市場になって、品質の低下を招きます。このところ立て続けに赤い会社も青い会社も乗務直前の運転士の呼気からアルコールが検出されて乗務できない事態が発生しました。こういう現象はただ単に「本人がたるんでいる。」ということで片づけられることではないと私は考えます。同時多発的にいろいろなところで発生しているということは、それなりの社会的バックグラウンドがあるということですから、飛行機の運転士さんにもそれなりの事情があるのでしょう。そして、その原因はもしかしたら人手不足にあるのかもしれません。
赤組の運転士さんは外国で警察に逮捕されたみたいですし、青組の運転士さんは会社を辞めちゃったみたいですけど、人手不足の業界ですから、ほとぼりが冷めたころ他の会社で働かせてもらえばよいわけで、1年もしたら平気な顔をしてよその会社で飛行機を運転しているはずですから、そう考えると人手不足から品質の低下を招いている労働力に頼らざるを得ない業界というのも、恐ろしいですよね。
ということで、人手不足ということは、労働力という商品の売り手市場化ということですから、質の低下という事態が発生するということを私たちは忘れてはいけないと思います。
でも、不景気の時には買い手市場で散々安く買いたたかれて働かされてきた労働力ですから、少しぐらい高く買ってあげないと働く甲斐がないというのも事実でありまして、それができたら楽だけど、経営側としてはそうも言ってられないというのも事実なんでしょうね。つまりは八方ふさがり。
では、どうしましょうかと考える時、私は、賃金はもちろん大きな要素ではありますが、やはり、働くこと、その仕事に対する誇りや使命感というのが大切なのではないかと考えるのであります。
その点、いすみ鉄道の運転士さんたちは立派ですよ。
給料が安い仕事場ですけど、一生懸命きっちりと良い仕事をしています。
なぜなら彼らは、「どうしても鉄道の運転士になりたかった」というおじさんたちですから、運転士という仕事に対する誇りと使命感を持って乗務していますからね。
私が社長として申し訳なかったなあと思うのは、彼らにもっと高い給料を支払ってあげることができなかったこと。
せめて人並みの報酬が払えれば良かったのですが、それができなかったことが悔やまれます。
それだけ、彼らは一生懸命に働いてくれていましたから。
もちろん、社長が変わっても彼らの勤務態度が変わるわけではありませんが、つまり、どんなに人手不足だろうが売り手市場だろうが、「自分は何のために働いているのか」「会社は何のために存在しているのか」あるいは「キハは何のために動いているのか」というきちんとした使命感を持って働いていれば、労働力という商品の品質の低下は起こらないのではないか。そんなことを考える今日この頃なのであります。
今度、私がもう少し大きな会社の社長になったら、高い給料で皆さんをお迎えに行きますから、それまで一生懸命頑張ってスキルを磨いてくださいね。
商品が良い商品であれば、その品質に合った価格をきちんと払わなければならないというのも経済の原理ですからね。
人手不足は売り手市場。
経営者側はこれとどう上手に付き合っていくかが求められるのであります。
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