続 電電公社と国鉄

おととい、「電電公社と国鉄」というタイトルでブログを書きました。

 

そうしたら、私の友人の澤田敬光さんが、こんな文章を彼のFACEBOOKに上げてくれました。

彼は通信の専門家ですので、専門家なりの考えが書かれています。

今夜は是非彼の意見をご一読ください。

(以下、彼のFBからの引用です。)

 

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いすみ鉄道の鳥塚社長が「鉄路は国民共有の財産なんだから皆に開放しろ」「NTTは他の事業者にも開放しているぞ」という、なかなか面白い概念をブログで投下されていますので、通信業界にいた私から詳しく補足しましょう。
まぁ、半分はウンチクだとあらかじめお断りしますが・・・

 

結論からいうこのお話は非常に的を得ているお話で、通信業界では「相互接続」という概念です。
と、同時に、長年「ラストワンマイル問題」と言われているお話です。

まず、「相互接続」というのはどういう概念なのか?
日本の通信業界は大きく分けると、NTTグループと、KDDIグループ、ソフトバンクグループ、それと電力系通信会社と呼ばれるグループがあります。
当然、各社熾烈な競争を行っているわけです。
しかし、かつて日本で電話会社というのは国内はNTTの前身の電電公社、国際電話はKDDIの前身のKDDの二社しか存在しませんでした。
当然、携帯電話(当時は自動車電話と呼ばれていた)も電電公社一社しかありませんでした。
その理由は通信というのは国民生活に極めて重要なものであるから、競争にさらされて倒産し、ある日突然電話が使えなくなると大変なことになるので、独占して事業を行いうという考えに基づいていました。
国鉄も同様の考えです。

そもそも、日本で通信サービスが始まったのも、明治元年に官営で行うという廟議(ビョウギ)決定し、明治2年に東京-横浜間でサービス開始したことにさかのぼるわけです。
その後、通信分野は逓信省(ていしんしょう)の管轄となり、昭和18年に逓信省と鉄道省を統合し、「運輸通信省」が設置されます。
その紆余曲折はありましたが、1952年(昭和27年)に日本電信電話公社(電電公社)として、スタート、1953年には国際電話部門を分離して国際電信電話株式会社(KDD)として、国内は電電公社、国際はKDDという体制で戦後の通信事業がスタートします。
このように、日本の通信ネットワークのの基礎はまさに国が税金で作ったものだったのです。
しかも、そのルーツを手繰っていくと、鉄道も通信も「運輸通信省」という同じ役所が管轄だったうえ、初めて開業したのも東京-横浜間であったり、開業した時期も明治初期という、鉄道と通信は非常に共通したところがあります。

 

さて、この二社体制はその後数十年続くわけですが、高度経済成長を経てバブルに突入する矢先、もはや戦後感は全くなくなり、日本は経済大国になりました、
そのような中で、今まで国が独占的にやっていた事業を自由化し競争させることで市場を活性化しようという動きが出てきます。
国鉄の民営化も、電電公社の民営化もその一つの話です。
その中で通信分野を1987年に民営化し誕生したのが、「日本電信電話株式会社」、英語表記「Nippon Telegraph and Telephone Corporation」の頭文字をとって「NTT」です。
同時に民間参入したのが、元々駅間の連絡や通信で独自の通信網を持っていた国鉄の通信部門が「日本テレコム」を設立、道路の維持管理用の独自の通信網を持っていた、建設省(現、国土交通省)・道路公団(現、ネクスコ)が「日本高速通信」、それと独自の網を持っていなかったものの無線で全国を結ぶ構想で京セラクループの「第二電電」三社が参入します。
(以下、NCCと呼びます)
ただ、当時民間開放されたのは「中継系」と呼ばれ都市間の区間です。

 

ここで、電話がつながる仕組みを説明しましょう。
あくまで、固定電話、家デンの場合です。
まず、受話器を上げてダイヤルをします。
その家の電話は電柱の電線を伝って、最寄りのNTTの局舎につながります。
そこからかける相手の最寄りのNTT局舎に接続されて、同様に相手の家の管轄のNTT局舎から相手の家まで電柱伝いに張り巡らされた電線を伝って、相手の家の電話が鳴るという仕組みです。

 

もう少し細かく説明すると、自分の家の最寄りのNTTと相手のNTTまではどうつながっているのでしょうか?
まず、同一市内を結ぶ中継ネットワークがあります。
次に、県と県を結ぶ幹線の中継ネットワークがあります。
当初の民間参入はこの県間中継サービスだったのです。
しかし、NCCが各県にネットワークセンターを作って都市と都市を結んでも、ネットワークセンターから各家庭、企業まで線がつながっていないと通信できません。
かといって、全国あまねく、山間部から、過疎地、離島まで、自前でネットワークを作るなんて到底無理です。
ちなみに第二電電が全国ネットワークを構築するのに要した費用は1000億円だそうです。
これ、三十年以上前での金額なので現在に換算すると数倍はかかっているでしょう。
都市間結ぶだけでこれだけ費用かかるのに、挙句全国津々浦々に電柱立てて電線張り巡らせるなんて到底無理です。
それでは、「通信自由化」といっても、誰も参入できません。
これがいわゆる通信業界でいう「ラストワンマイル問題」です。
つまり、中継系は自前で準備しても、最後の最後一つ一つのご家庭まで新規参入事業者がケーブル引っ張るなんて到底無理だよということです。

 

そこで登場したのが「相互接続」という概念です。
すなわち、他の電話会社と相互に接続しましょうという考え方です。
その結果、中継網はNCCが自前で準備しますが、最後の最後、ご家庭までのケーブルはNTTさん持ってるんだから貸したよということなんです。
例えば、札幌の家から東京の知人に電話を掛けるときに日本テレコムを使う場合、下記のような接続になります。

札幌の家→最寄りのNTT→日本テレコム札幌POI→日本テレコム東京POI→最寄りのNTT→東京の知人の家

これが、現在の光ファイバーではさらに進化した考えでサービスが提供されています。
それが「ダークファイバー」という考え方です。
ダークファイバーとは直訳すると「暗い繊維」という意味、光が通っていない光ファイバー、すなわち使っていない光ファイバーを意味します。
NTTはBフレッツなど光ファイバーの申し込みを受けるとオーダーの都度NTTの局舎から光ファイバーを引っ張ってくるのではなく、需要予想を立てて計画的に道路沿いにまとめて数十から数百という単位の光ファイバーをNTTの局舎から引いておいて、電柱上に接続ポイントを全国に作ってあります。
ちなみに、電柱の上の方に白とか黒の箱がぶら下っており、そこからケーブルが伸びていますが、それが「クロージャー」と呼ばれる、接続ポイントです。
その中には1本1本すべての光ファイバーに芯線番号が付与されていて、Bフレッツなどの申し込みがあれば、お宅からクロージャーまでの数十メートル程度を回線敷設して、そこに接続すればNTTの局舎の装置までつながるという仕組みになっています。
しかし、こちらもインターネット事業者などが各家庭まで光ファイバーを敷設するなど途方もない作業のため、「NTTさん、光ファイバー貸してよ」というわけです。

 

そこで登場したのが需要予想に基づき多めに光ファイバーを敷設しているので「空いてるなら安く貸してよ」というのがダークファイバーです。
(実際のところ都市部などでは需要が多く、「空いている」という状況がほとんどないため、NTTはダークファイバーを提供するためにあえて光ケーブルを敷設しています)

さらに、各家庭までは光ファイバーをNTTから借りても、信号をインターネットに乗せる伝送装置も必要ですから、その伝送装置の置き場も必要となります。
そこでNTTはライバル会社にNTTの局舎内に装置を設置するスペースを貸しています。
これを「コロケーションサービス」といいます。
それだけではなく、携帯電話事業者に鉄塔を貸したり、自前でケーブルを敷設したいという事業者には管路や電柱も貸し出しています。

 

ここにNTTの相互接続の案内があります。
https://www.ntt-east.co.jp/info-st/conguide/index-e.html

 

また、NTTはNTT法で「全国あまねくサービスを提供しなさい」と規定されているため、どんな山間部や離島、道のないような山の上ですら、「電話を引きたいんですけど」と申し込みがあれば、「断ってはいけない」ということが法律で定められています。
ただし、どう考えても利益にならないことをさせられており、特にNTT西日本地域は東日本に比べて人口密度も低いため、「NTT西日本が自前でなんとかしろ」というのもかわいそうなので、電話を持っている人たち、つまり番号が付与されている物を持っている人は、地方の維持費用を少し負担しなさいという制度があります。
これが「ユニバーサル料金制度」です。

電話というのは、発信側があっても着信側がないと成立しないデバイスなので、全国どこでもつながるようにする維持費は都市の人に出してもらうのも合理的だということです。

これだけではなく、通信事業にも「上下分離」というのがあります。
さすがのNTTとて、相当な過疎地の各家庭まで光ファイバーを敷設するというのは膨大な費用が掛かるため、どうしたって商売にならない地域で光ファイバーを提供してくれというのなら、自治体が光ファイバーを各家庭まで敷設してくれるのなら、それを借りてNTTはインターネットなどのサービスを提供しますよという「フレッツ・マイタウン」という方式もあります。
絵にかいたような上下分離方式です。
(※フレッツ・マイタウンはユニバーサル料金の話と矛盾しますが、ユニバーサル料金はすべての通信サービスに適用されるわけではなく、モシモシハイハイの音声電話など最低限のサービスに限定されています。フレッツは対象外なので、利益がどうしても出ないならNTTは提供を拒否できます。)

 

通信業界はいまここまで進んでいます。

以上長々と話しましたが、鳥塚さんが言っている話ってこれです。
そのベースというのはそもそも日本の通信ネットワークは国が作ったもので国民共有の財産だという考えです。
実際、NTTの相互接続のホームページにはこう書かれています。

「当社では、自由競争市場の更なる進展、情報流通市場発展のためには、他事業者様個々の努力による事業拡大はもとより、他事業者様相互間の協調関係によりネットワーク自体の価値を高めてゆくことが必要であると考えております。当社のネットワークと他事業者様との相互接続においては、これまでどおりにご利用いただけることはもとより、これまで以上に他事業者様向けに使い勝手の良いネットワークソースの提供に努めていきたいと思っております。本冊子をご活用のうえ、当社のネットワークの積極的なご利用をお願いいたします。」

これを平たく言うと、「お互いいがみ合って足引っ張りあうより、お互い手を取り合ってネットワークの価値を高めることにより、よりネットワーク市場全体が拡大した方が国民生活も豊かになるし、みんな儲かるよね、だからライバル会社さんもどんどんNTT使ってね」と、いうことです。

 

そう考えると、鉄道も同じような仕組みがあってもいいわけです。
つまりJRも、自前で車両だけ持って運行したいという事業者がいれば、線路だけ貸すという考えがあってもいいのではないかということでしょう。
実際NTTだってこれだけライバル会社にオープンにしているわけですが、30年以上前は他社に回線や設備を貸すなんて考えられないような時代もあったわけです。
東京電力系の電話会社で東京通信ネットワーク(TTNet、のちにはKDDIと合併)の当時の社長は「NTT行動論」というのを掲げていて、「NTTのネットワークはそもそも官営で作った国道見たいものなんだから、みんなに開放しろ」と言っていたわけです。
鳥塚さんが言っていることは、実は通信業界では30年以上前に起きていた話です。

「オープンレール」などと言う概念は今の日本で聞くと奇想天外に聞こえますが、30年くらいすると当たり前になり、JRも「ぜひ皆さん、JRに乗り入れてください」という時代が来て、いすみのキハが新宿発の時代が来るかもしれません。
通信業界では「そんな馬鹿な」と思われていたことも、今では日常になっているのです。

 

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(引用ここまで。)

 

ということで、JRだってまだまだいろんな可能性があるというのに、それをどんどん潰して行くようにしか思えないのです。

その理由は、今いる人たちが、今の会社の考え方ですべてを解決しようとしているからです。

 

だって、今のJRの中堅幹部職員の皆様方って、会社発足したときには中学生だったんですよ。

国鉄からJRになった時に中学生だった人間が、今のJRをああしよう、こうしようと考えている。

30年というのは、そういうことなのです。

15歳だった人が45歳になっているのですから、30代の社員な何もわかっていないのです。

 

ここらでひとつ、基本をしっかり教育する必要があるということなのです。

それも、手前味噌の社内教育ではなくて、社外の人間が、「君たちの会社は、こういうお約束で発足したんだぞ。」ということを、声を大にして言って行かなければ、あと10年もしたら、すべてはなかったことになってしまうのですから。