外人パイロットがミスをして飛行機があわや大事故になるところだったという報道が世間を賑わせていますが、昨日に続き、私の独断と偏見によるアナライズです。
実際に調査したわけではありませんので、あくまでも私の経験による独断と偏見ですのでご了承ください。
さて、私が今回のピーチ機の着陸コース逸脱インシデントで最も気になったことがあります。
それはこのインシデントが発生した時に、「GCA」という管制誘導方式が使われていたということです。
私はこれを聞いて、「えっ? まだこんなことやってるの?」と驚きました。
GCAというのはGrand Control Approach、つまり地上側から飛行機を誘導する着陸方式で、もともと軍用に用いられていたシステムです。
日本でも軍、つまり自衛隊が管理する空港で使われていて、以前は千歳空港などでも用いられていましたが、那覇空港も自衛隊の基地ですし、石川県の小松空港も自衛隊ですから、このGCAという管制方式があるのは知っていました。
では、GCAはどういう方式かというと、地上の管制官がレーダーを見ながら飛行機に向かって無線で指示を出して着陸誘導する方式で、視界が悪くて滑走路が見えない状況の中でも、その指示に従って操縦していれば着陸できるというシステムです。
通常、飛行機は航空路を飛行する際に管制官からいろいろな指示を受けます。
「左旋回してして進路を180度に向けなさい。」
「高度7000フィートまで下降して、その高度を維持しなさい。」
「速度を190ノットに減速しなさい。」
こういう指示を管制塔から受けながら飛行しているのですが、GCAは視界が悪い中、最終進入を行うためのものですから、数秒ごとにもっと細かい指示を受けて、パイロットはその指示に従うのです。
このGCAが優れている点は、飛行機側に着陸誘導のための設備が設置されていなくても、どんな飛行機でも着陸誘導できるという点で、小型機であろうが大型ジェット機であろうが、飛行機に特別な装備がなくても無線さえ使えれば無事に着陸できると言われているものです。
具体的にわかりやすく申し上げると、「スイカ割り」と同じなんです。
スイカ割りは目隠しをされます。
割る本人は全く周りが見えません。
その状態でスイカのある方向を目指します。
誘導者が、「ハイそのまま前進。」「少し右」「行き過ぎ、戻って」、「あと2メートル」「いいよ、その調子」、「ハイ、あと一歩」、「よし、そこだ、叩け!」と誘導にうまく従ってスイカにたどり着けば、見事、スイカは真っ二つになりますね。
GCAはこれと同じで、視界が悪くて滑走路が見えない中で、計器による自動操縦が使えず、管制官から無線で指示を受けるのです。
滑走路への着陸コースは、滑走路末端から1本の赤い糸が出ていると考えてください。
横から見ると約2.5度とか3度の角度で、上方に向かってその赤い糸は伸びています。
上から見ると、滑走路の中心線の延長線上にまっすぐに伸びています。
それが飛行機が着陸のために進入するコースです。
羽田空港で木更津の方から34番LR滑走路に着陸する航空機が一列に並んで進入しているのをご覧になった方も多いと思いますが、これが赤い糸だと考えてください。
これに滑走路からの距離を示すマーカという発信機があるのがILSという着陸誘導設備で、成田や羽田など、ILSが整備されている空港では、所によっては視界ゼロでも自動着陸が可能なんですが、今回ピーチがミスした那覇空港の18番滑走路には、この基本的ともいえるILSが設置されてなくて、GCAで着陸する方式だったんです。
GCAは、管制官がこの仮定した赤い糸の着陸進入コースをPARという特殊なレーダーを見ながら、このコースに乗せるために飛行機を無線で誘導するんです。
「ハイ、少し右へずれています。修正してください。」
「今、オンコースです。あと7マイルです。」
「少し高めです。下げてください。」
「左へずれました。」
「オンコースです。」
「下にずれました。修正してください。」
このように、管制塔からの一方的な無線指示で、視界が悪くて何も見えない中、どんどん降下を続けていきます。
「ハイ、滑走路から2マイルです。」
「間もなく誘導を終了します。ご自身で目視して着陸してください。」
と、ぎりぎりの地点まで無線誘導を行って、最終的に滑走路が見えれば着陸。見えなければパイロットの判断で着陸復航となるわけです。
でも、航空機の設備がどれだけ発達しても、このGCAは全くそういう着陸誘導装置を使用しませんから、言葉を変えれば30年前、40年前と同じレベルの安全性です。
そして、私がもっとも変だなあと思うのは、大型の航空機を地上から誘導する管制官は、アメリカの管制官とは違って、日本では自分で飛行機を操縦したことがない人たちが管制官をやっていて、そういう人たちが何百人の乗客を乗せたジェット旅客機や、小型機、自衛隊機などを無線で数秒間隔で右、左、上、下などと誘導しているのが現実なんですね。
航空機というのは機体ごとに操縦特性が違っています。
だから、国はある程度の大きさ以上になると機種ごとに航空機の免許を定めています。
B737の免許しかない人はB777を操縦することは許されないのですが、操縦する側にはそういう細かな規定を課しておいて、国の側に立つ管制官は、飛行機を操縦できない人たちで、その人たちがあらゆる種類の飛行機を無線で誘導しているのです。
そして、天気が良ければGCAなど必要ありませんから、その必要があるときは、常に悪天候の時だということなんですね。
天候が悪いという時は、視界だけでなく、強風であったり、雷雲が接近していたり、いろいろな悪条件が重なります。
パイロットはものすごくストレスにさらされます。
そういう状況の中で、飛行機を操縦したことがない管制官がレーダーを頼りに右だ左だと指示するわけですから、那覇空港のような大空港が、未だにこういう方式で運用されているというのは、とても驚きなんです。
皆さんが車を運転するときに目隠しをされるとします。
そして、隣に乗っている人に、右だ左だと指示されて走ると考えてみてください。
その指示を出す人が、車の運転技術がない人で、車の特性など知らないとしたら、たとえ人っ子一人いない広いグランドのようなところであっても、空恐ろしいと思いませんか。
今の時代、障害物を避けたり、自動で停止したり、前の車との車間距離を自動で保つ装置が車にも設置されるようになってきているというのに、そういう装置はすべてスイッチを切られて、隣に乗った指導者が「俺の指示通りに運転すれば安全だ。」と言っているわけです。
飛行機の場合、パイロットと管制官は面識もありません。
相手がどんな人間かもわからないのですから初対面以前の関係です。
車の助士席に乗って、右だ左だとコースを指示してくれる人が親しい人ならともかく、誰だか知らない人から無線で指示されるだけですから、タイミングとか呼吸とか、受ける側のストレスは相当なものなんですね。
まして、それが悪天候のときに使用するシステムなんです。
そして、安全だと言っているのは指示を受ける側ではなくて、指示する側なんです。
それを裏付けるように、GCAが設置されている空港では、最終のアプローチに入った航空機は、天気が良くて目視で進入できる状況の時に、管制官からよく「GCA訓練に協力してください。」と求められることがあります。
本当ならそんな訓練に協力する必要もありませんから、外国の飛行機では「NO」と言って断る機長もたくさんいますが、日本人のパイロットは、視界も良好だし、国からの要請ですから、たいていは「良いですよ。」と言って協力します。
つまり、視界良好で滑走路が見える状態で、あえて管制官からの右、左、上、下という指示で飛行機を操縦して、着陸操作を行うのですが、管制官によっては滑走路への進入経路から離れたところへ誘導してしまう人もあります。
こういう管制官の誘導するとおりに操縦していたら滑走路にたどり着けないわけで、天気が良いから協力はするものの、機長さんによっては、「あんな誘導じゃ着陸できないよ。」とクレームをする人もいます。
晴天の時に、実際の航空機に協力を求めながら、そういう練習をしているということは、管制官の中にははっきり言って着陸誘導が下手な人間もいるということですから、私は今の時代に、そういう個人の技量に頼っている方式を国が平気で運用していることに疑問を感じますし、今回のインシデントで掘り下げるべきところは、その部分が重要なんじゃないかと思うのです。
今回のピーチ機も、GCAで管制塔から誘導されての進入中であるとしたら、たとえ機長が不慣れな外人であったとしても、進入コースを大きく逸脱したのは管制側にも原因があるかもしれませんし、GCA誘導中に大きくコースを逸脱するまで飛行機に修正の指示を出さなかったのは管制官ですから、LCC=でたらめな運航と決めつけて、最初から航空会社を非難するような報道は根拠に欠けるというものです。
那覇空港は昔から嘉手納基地との空域が入り乱れていて、北側からの着陸や北側に向けての離陸時には高度やコースの制限を受けます。
本土へ向かう飛行機が離陸直後にエンジン出力を絞ってしばらく低空で飛行したのち再上昇することがあるのにお気づきの方もいらっしゃると思いますが、これが嘉手納の空域の制限で、そういう、パイロットにとってただでさえストレスがかかる空港で、計器着陸に必要はILSという設備が、北側の滑走路には付いていないんです。
機長によってはGCAでの着陸を嫌って、多少の追い風でも反対側からの計器着陸を希望する人もいますが、その場合は上空で長い時間待機させられますから、次の便への運航に悪影響が出ます。
そういう条件の中で、着陸が行われているのが今回のインシデントの背景ですから、「天候悪化のために着陸をやり直します。」と言った機内アナウンスが「実は嘘だった。」などというような、視聴者の感情を煽るだけで、問題解決には一切関係ないようなニュースには賢明なる国民の皆様方は一喜一憂してはだめなんですね。
こういう時こそ、いろいろな新聞を読み比べてみて、どの新聞がどういう報道をしているかということを見極めるチャンスなんです。
そして、私が心配しているもう一つのことは、へたくそなGCA誘導をしたかもしれない管制官は国の職員で、事故調査は国の管轄で行われるということ。
これ以上は申し上げませんが、「LCCなど、大した安全対策もしてないだろうし、操縦士だって不足してるぐらいだから、どうせその程度だよ。」というところが、世間的にも落としどころになるとしたら、日本は韓国や中国を笑うどころか、笑われる側なんじゃないでしょうか。
いすみ鉄道だって、昨年12月の脱線事故では最初から「線路が悪い。」と決め付けたものの言い方をされましたし、もし、万が一大きな事故が発生すれば、まず言われるのは、
「あの会社は営業ばかりに夢中になって、きっと安全対策が後回しになっている。だからこういうことになるんだ。」と言われることは分かっています。
どんなに安全にお金をかけているかなんてことは説明したって聞いてもらえませんし、それが日本の国のおカミであり、世間様だということは、とりあえず皆様方にご理解いただきたいと思います。
航空の安全は、真実を見極めるところから始まるのが、欧米では基本です。
この国が欧米のようになれるかどうかは、国民の皆様しだいだということなんですね。
そしてLCCという大変便利で新しいシステムをどう育てていくかというのは、利用者である皆様方の仕事ですから、決してLCCと聞いただけで「ブラック」だとのたまうような、短絡的で恥ずかしい国民にはならないでいただきたいと思います。
ピーチをはじめとするLCCの皆様には、ぜひ頑張って、前例のない新しい世界を作っていっていただきたいと考えております。
(おわり)
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