いすみ鉄道では、春の行楽シーズンを迎えるに当たり、2月1日から重点的な安全総点検期間を設定し、不安なところを洗い出して対策を立てています。
これは、小さなトラブルを、芽がまだ小さいうちに摘み取って、大きなトラブルにつながるのを防ぐことが目的で、いわゆる「ヒヤリハット」の分析に基づいて、将来の危険性を除去するという考え方です。
これが求められるのは社内では主として運輸部門であり、運転関係や車両保守、線路設備など、列車が走行するあらゆる部門にわたり、ハード面だけでなく、ソフト面での対策も求められています。
そんな中で、私がすごく気になるのが、自社養成の乗務員訓練生たちです。
彼らは、時代のヒーローのような感じでマスコミ等からももてはやされて、いろいろなメディアにも頻繁に登場したりしています。
親戚や友人たちからも、「テレビ見たよ。」などと言われることも多いと思いますが、そういう状態が続いていると、よほど気を引き締めていかないと、人間はどこか浮ついた気分になるのではないかと思うからです。
いすみ鉄道の自社養成運転士は、2010年にスタートし、すでに6名が正式の運転士として乗務していて、今、第3期生のうちの2人が国家試験合格後、いすみ鉄道社内の規定に基づき、独り立ちできるための技術を磨いているところですが、どうも最近たるんでいるような人が見受けられるのです。
第1期生はすでに独り立ちして2年。2期生は1年半たちました。
彼らは徐々に運転士としての自覚ができてきているようですが、中にはすでに基本を忘れたような人もいます。
こういうことは、安全強化月間として、独り立ちした後でも、管理者が列車に突然乗り込んできて、基本動作をちゃんと行っているかということをチェックすると出てくる問題で、今の時点でそういう状態では、これから経験40年のベテラン運転士が2年後までには全て退職してしまう事態が迫る中で、ベテラン運転士になることができるのかどうかが、とても心配になります。
第3期生のうちの2名は、国交省の試験に合格し、独り立ちするための乗務訓練を行っています。
自動車もそうですが、免許を取っただけでは1人前にはなれませんから、いすみ鉄道では免許取得項目以上にさらに厳しい基準を社内に設け、それをクリアしてもらって初めて1人前だと考えているからです。
ところが、この社内見極め試験に向けての訓練の上達度がとても遅い。遅いというか悪いんです。
なぜなのか、理由はわかりませんが、複数の教官が口をそろえて報告するのが、「何か浮ついた感じがする。」「真剣味が足りない。」ということで、一生懸命頑張ってはいるんだろうけど、熟練のために大きな障害となる壁にぶつかっていて、ところが、おそらく本人たちにはその壁が見えていないのでしょう。
その証拠に、本人たちのツイッターなどを見ていると、その節々から、やはりどこか浮ついた、緊張感のなさが感じられますから、教官たちだけでなく、誰が見てもそう見えているんだと思います。
列車の運転士というのは、人様の命を預かる仕事です。
これは運転士だけではなくて、鉄道マンとしての基本です。
そして、その上でワンマン列車ですから接客等の心構えも求められます。
その心構えを付けてもらうために、いすみ鉄道ではいきなり乗務訓練を開始するのではなく、入社から1年間をかけて学科の準備だけではなく、社内の様々な業務やイベントなどを通じて、運転士としての心構え、鉄道マンとしての心構えを勉強させているのです。
中には、「何でおれが売店やらなければならないんだ。」などとつぶやいているのもいるようだけど、そういうことがわからないようでは、いくら時間通りに運転できて、ショックなく停車位置にピッタリ止まることが上手にできるようになっても、私は、いすみ鉄道の運転士として認めることはできません。
そして、運転士として独り立ちした後でも、決して気を抜くことなく、基本に忠実に、常に自分というものを見つめなおして、ずれないように、ぶれないように、生活態度、道の歩き方から注意しなければならないのです。
いすみ鉄道は700万円という高額の訓練費用を自己負担していただいて運転士として訓練をオファーしています。
でも、お客さん気分では困るわけです。
まして、お約束の国交省の試験には合格したのですから、決められた期間内に求められるスキルを身に着けることができなければ、残念ながら、運転士としては採用できないということになるということです。
私は航空業界出身です。
自分でも操縦士の訓練を受けた経験があり、資格も所持しています。
パイロットの場合は、規定時間以内に求められる技術を身に着けることができなければ、その時点で訓練は中止。
簡単に言えばクビで、荷物をまとめて寮から出ていかなければなりませんし、事実そういう人はたくさんいます。
私たちの時代は、よく、「訓練生は虫けら以下」と先輩たちに言われました。
まだ、ゼロ戦に乗っていた人たちが現役だった頃ですから、今とは全然違う時代ですが、「人として扱ってもらいたかったら、ここまで這い上がってこい。」と言われました。
そういう緊張感のある厳しい訓練生時代を勝ち抜いてきた人たちが、今、プロのパイロットとして航空の安全を支えているのです。
飛行機が離陸に向けてゲートを離れます。
自走を開始して、滑走路に向けてゆっくりと進んでいくとき、機内前方に座っていると、「ゴトン、ゴトン」と振動を感じます。
何の振動かお分かりでしょうか?
これは、センターラインに埋め込まれた鋲を前輪で踏んでいくときの振動です。
幅が45メートルや60メートルもある誘導路や滑走路ですから、センターラインを少しぐらいずれても全く問題はありません。
それなのに、パイロットたちは、あの大きな飛行機の前輪をセンターラインにぴったり合わせ、わずか20~30センチ四方の鋲に前輪を乗せて地上走行をしているのです。
免許を取って、何十年もたっている機長さんたちが、ちゃんと基本に忠実に毎日飛行機を運航している。
これが航空の現場なんです。
しっかり気合を入れていただかないと、浮ついた気持では運転士としての辞令交付はできません。
教官たちは、そういうことがよくわかっているから、日に日に表情が厳しくなっているのです。
この安全総点検月間を機会に、ベテランも含めて、もう一度基本というもの、運転士としての心構えを見つめなおしてほしいと思います。
訓練生、がんばれ!
新米運転士のおじさんたち、がんばれ!
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