国鉄の赤字ローカル線問題が表面化したのが昭和40年代前半。それから国鉄解体があってJRになって、今日に至りますが、そのころからずっと、「ローカル線は地域住民の足である。」と言われてきました。
ところが、過去40年間のローカル線対策をみると、「地域の足としてなくてはならない存在だ」という根拠はだんだん揺らいできていて、私は「本当なんだろうか?」と考えていました。
だから、自分がいすみ鉄道の社長に就任した時に、「地域の足として大切な存在」というのはわかるけれど、あまりその点を突き詰めて考えると、「だったらバスでも良いんじゃないの?」となってしまいかねないので、「地域の足として必要だけど、それだけでは鉄道として存在できないから、もっとほかの可能性にチャンレンジしましょう。そして、それが成功すれば、結果として地域の足が守られることになりますよ。」という考え方を基本としたビジネス展開をしています。
国の政策としてもローカル線問題は頭が痛いところで、何しろ40年もやっていて未だに解決していないわけですから、私としてはやり方を変えなければダメでしょう、と思うのですが、前例主義の国の人たちにとっては、今までやってきたことがすべての基準となっているわけで、今までと違ったことをやるということは選択肢にないわけですから、彼らにこの問題を解決することは永遠にできなかったわけです。
国の政策として、「ローカル線を廃止してバスに転換しましょう。」ということが長年言われてきていますので、地方自治体の皆様方もバスには優しい。つまり、国の方針に従ってバスにはすぐに補助金を出すけれど、鉄道にはなかなか補助金を出そうとしないわけです。
でも、鉄道を廃止してバス転換したところはその後どうなったかというと、それは地方自治の問題でありますからということで、国も関与してこない。つまり、国の言うとおりにやってきたら地方は廃れてしまったわけですが、今までは国はその後のフォローがないわけです。
例えば、2年程前に廃止された長野電鉄の屋代線というローカル線がありますが、そのローカル線は廃止後バスに転換されました。
で、今どうなっているかというと、廃止後に新設されたバス路線の一つが先月末に廃止されてしまいました。新幹線が走る長野市でさえ、鉄道が無くなってわずか2年でバスまで廃止になっている有様ですから、他の地域はどうなっているかは推して知るべしなんですね。
では、いすみ鉄道のように、バス転換に反対して第3セクター鉄道として残ったところはどうかというと、そもそも国の政策に反対して発足した鉄道会社などに補助金を出す必要はないと長年やってきましたから、中には自然消滅的に息絶えるところもあれば、「地域の足」という名目だけでは地方としては抱えきれなくなって、まだまだいろいろな可能性があるにもかかわらず、その可能性を見出すことができないままにもてあそばれて、廃止されたところもあります。
今回のJR北海道の例など、その典型的なもので、国も北海道もJRに任せっきりにしておいた結果、こうなったと私は考えていますが、実際にこういうことが起こってみると、国も北海道も「JR北海道はけしからん。」と、上からモノを言うだけで、自分たちが放任していたことにはあまり触れたがらないのは電力会社の場合と同じなわけです。
私は、「いすみ鉄道には無限の可能性があります。」といって、考えられる様々なことをやってきましたが、その理由は、ローカル線というのは地域のものであると同時に、都会に住む人たちにとっても大切な存在であると考えるからです。
テレビ番組でローカル線特集をやると、必ず視聴率が上がりますし、雑誌などでもローカル線特集号は売り上げが伸びます。
それはなぜかと考えるとき、私は、ローカル線特集のテレビは誰が見て、雑誌は誰が買うのだろうかと考えますが、視聴率や売り上げを伸ばしているのは都会に住む人たちであって、彼らがローカル線に「乗ってみたいなあ。」という憧れを抱いていることがわかります。
ところがその憧れのローカル線を抱える沿線地域にとってみれば、ローカル線はお荷物なわけですから、いとも簡単に捨ててしまう。
今まで「もったいないなあ。」と思うローカル線が次々に廃止されていきましたが、地元の人たちには、自分たちが持っている宝物がわからないのです。
田舎がなぜ疲弊しているかを考えるとき、私は、そこに長年住んできた人に原因があると考えることにしていますが、田舎の人たちがローカル線の持つ可能性や価値に気づいて、そのローカル線を残す努力を自らできるような地域であれば、その田舎はそこまで廃れることはなかったわけで、それができないから廃れてしまっているわけです。
例えば、いすみ鉄道沿線でも、地域のリーダー(つまり議員さん方)の中には、「いすみ鉄道なんて、黒字だ黒字だと言ってるけど、物を売ってるだけじゃないか。」と平気で言う人もいるわけで、そういうわかってない人が地域を運営している実態を考えると、こういう人たちに任せておいたら、ローカル線どころか、地方都市の大部分が20年先には存在しないのではないかと、私はとても不安になります。
なぜなら、田舎の人というのは基本的には勉強していませんから、世の中がどう変わっているのかということや、これからどういう時代に向かうということがわからないわけで、数年前までは地域のお荷物になっていたいすみ鉄道が、今や地域の牽引者になっている事実を、感情的にも受け入れることができないからなのです。
でも、その田舎のローカル線は、実は都会の人の憧れの的であって、後世に伝えたい日本の風景の代表になっているわけですから、私は、もうそろそろローカル線を地域にまかせっきりにするのは終わりにしませんかと申し上げたいのです。
私は2009年にいすみ鉄道の社長に就任した際に、「いすみ鉄道を全国区にします。」とコミットメントしました。
今、誰の目で見てもいすみ鉄道は全国区になっていますが、都会の人たちからはとても評価していただいているものの、地元での私に対する評価は、上に書きました議員さんの発言にもあるように、それほど芳しいものではありません。
でも、それは、田舎の狭い見識の中でのことでありますから、私は全く気にしておりませんが、今、私が目指すのは「世界に羽ばたくいすみ鉄道」でありますから、多分というか、絶対に、田舎で偉そうな顔をしてくすぶっている人たちには、私のやることは理解できないんじゃないかなあと思うのであります。
先日放送されたNHKワールドニュース。
いすみ鉄道沿線のいすみ市、大多喜町、勝浦市、御宿町の住民は何人ご覧になりましたか。
おそらく両手で数えられる程度じゃないでしょうかねえ。
でも、皆様方の知らないところで、好むと好まざるとにかかわらず、いすみ鉄道は世界に向けて情報を発信し、世界から評価されつつあるんです。
今、タイのテレビドラマの撮影が行われています。
そのうち、タイから観光客がたくさん来るようになりますよ。
地域の実力者の皆様方、勉強しましょうね。
世界から笑われないように。
そして国や県の皆様方も、これをご覧になれば、いつまでもローカル線を地域にまかせっきりにはできないということがお解りいただけるのではないかと思います。
で、そう思ったら、何か行動しましょうね。
なぜなら、次の日本を背負って立つ若い人たちが、全国からいすみ鉄道に注目していますから。
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