千葉の遜色急行

いろいろなところで「遜色急行」という言葉を聞くと思います。
特に千葉は「遜色急行が当たり前だった。」などと言われています。
どういうことかというと、国鉄時代、多客期になると臨時列車がたくさん運転されましたが、千葉の夏季輸送のように、海水浴客が集中して輸送量が多すぎる場合は、ふだんは普通列車に使っている車両まで臨時列車などに動員していたため、同じ急行列車でも、車両が格下になることがあって、そういう列車を「遜色急行」と呼んだのです。
(その当時そう呼ばれていたかはわかりませんが、輸送の歴史を振り返った時に、いつの頃からか言われるようになりました。)
国鉄時代は、急行料金は速度に対するチャージ、つまり目的地に早く到着するために払う料金で、特急料金は速度と車両設備に対するチャージだと言われていました。
鉄道車両には車両の目的に合わせて、通勤型、近郊型、一般型、急行型、特急型など、設計段階からその車両の用途に合わせて作られていましたが、この観点からすると、急行列車は「目的地に早く着くための列車」ですから、どんな車両を使おうが構わないことになります。
当時は航空機や高速バスが一般化する前でしたから、輸送の主役は国鉄で、お盆や年末年始などにはとにかくお客さんが多く、車両が足りません。
そこで、臨時の急行列車などにはふだんは各駅停車や快速に使っているような、一般型や近郊型の車両が使われることもしばしばで、それでも急行列車としての運転ですから、急行料金はしっかりと取られたわけです。
これに対し、特急列車はその名の通り特別急行列車ですから、速度が速いのはもちろんですが、設備も売り物でしたので、車両も特急形が使われていて、万が一、車両故障などで格下の車両が使われるようなことがあると、特急料金が払い戻されたりしたようです。
さて、房総半島の遜色急行は、昭和30年代には10系気動車(キハ17など)を使用して運転されていたようですが、私が子供のころ、実際に経験した(乗車した)のは113系電車の急行「うち房」。
急行を待っていたら横須賀線の電車がやってきて(当時は総武快速はなかったので113系=横須賀線でした)、「これ違うよ?」と言うと、父親が「これで良いんだ。」と言って乗り込みました。
乗車するとすぐに車掌が検札にやってきて、父親が車内で急行料金を払っていたのを記憶していますが、当時の房総は夏季需要が多く車両が慢性的に足りないわけで、夏の間は他の地域から車両を借りてしのぐのですが、それでも足りない場合は、各駅停車の車両を急行にして、しっかり料金だけはいただいていたわけです。
今年からいすみ鉄道に入線したキハ28-2346も、昭和39年に山陰の米子から千葉に貸し出されて、ひと夏房総半島を走った後、米子に戻ったという経歴がある車両ですが、当時はそういう車両の使われ方をしていたのですね。
いすみ鉄道で走っているキハ52とキハ28の急行列車はまさしくその遜色急行の再現で、キハ28は急行形ですが、キハ52の方は一般型、つまり各駅停車用の車両なわけですが、急行として運転して、急行料金をいただいているわけです。
何でこの車両で急行料金を取るの?
そう質問されたら、「房総半島ですから」、とでも答えるしかありませんね。
ということで、本日は鉄道写真家の結解学(けっけまなぶ)先生の写真から、当時の遜色急行を振り返ってみたいと思います。

[:up:] 新宿駅の165系急行「うち房」。昭和44年に房総西線の千倉電化が完成すると、急行「うち房」は165系化されました。

[:up:] こちらは千駄ヶ谷付近を走る113系の急行「うち房」。これが遜色急行です。当時、まだ総武快速線はありませんでしたが、横須賀線の各駅停車に使われる車両を急行に使用していたので、何だか損した気分になりました。

[:up:] 新宿駅の急行「うち房」。
当時の列車がいかに混んでいたかがわかる1枚です。
始発駅の新宿でこの状況ですから、秋葉原や千葉などでは座ることなどできないわけです。

[:up:] そこで、定期列車を補完するために臨時列車が設定されるわけですが、車両が足りないので113系の登場となるのです。
ヘッドマークは付けているものの、列車種別「急行」が表示することができず、安房鴨川(館山回り)と書かれています。
臨時列車ですから、比較的すいていますが、この車両で急行だったら混んでても165系の方がよかったのでしょうか。
当時の房総方面への始発駅は両国でしたが、すでに両国駅だけでは線路が足りないため、急行列車の2本に1本は新宿発で運転されていました。
ちなみに急行の停車駅は新宿を出ると秋葉原、両国、船橋(一部列車)、千葉でした。
錦糸町は素通りしていました。
最近、皆様からよく、国吉駅のキハ30は走らせないんですか? と質問されます。
2000万ぐらいお金がかかるのが最大のネックですが、いくら遜色急行の房総だからといっても、キハ30では急行料金は取れないでしょう。というのも一つの理由です。
聞くところによると、急行列車の編成の最後部にキハ35を何両か繋げた遜色急行も存在したようですが、いすみ鉄道としてはどうしたものか、悩めるところではありますね。