いすみ350形誕生秘話

いすみ鉄道の新型車両、いすみ350。
いすみ鉄道では、それまでの15m車を18m車に置き換えるにあたり、6両から5両に減車する方針を立てました。
これは、業務見直しの際の私の基本的な考えてあり、6人でやっていた仕事を5人でできないだろうか。そのためにはどうしたらよいか。
ということを、航空会社時代にはずっとやってきましたから、車両置き換え計画でも、沿線の出生率から見た将来の高校生の通学輸送を考えた場合、6両ある現車を5両体制に置き換えるのが妥当だろうと判断したのです。
沿線の役場の人たちは、6両全車両を当然置き換えるのだろうと思っていたようで、会議の席上で私が「5両で十分でしょう。」というと、とても驚いていましたが、正直なところ、私が5両で良いですよ、と言ったのは、そうしなければキハ52が買えなかったということで、つまり、キハ52を買うためにビジネスプランを作り直したわけです。
そこで考えたのが、現行2両で運転している通学時間帯の列車を1両で運転できないだろうかということ。
調べてみると、いすみ200(15m車)2両編成を新型(18m)1両に置き換えても、ロングシート車であれば問題ないことがわかりました。
いすみ鉄道は観光鉄道としてムーミン列車の運転をして、できるだけ多くの観光客に来ていただきたい。
そのためにはロングシートではなくクロスシート車が必要でしたので、最初の2両はトイレ付クロスシートのいすみ300形を導入しました。
そして2次車としてロングシート、トイレ無しを導入することになったわけですが、ここで鉄道ファンとしての私の気持ちがむくむくと起き上ってきたのです。
1:ロングシート車は味気ないけど、それを補えるだけのインパクトがほしい。
2:キハ52の観光列車が走る路線だから、それにふさわしい車両デザインにしたい。
いすみ鉄道にはお金がありません。だから、好き勝手な車両を作ることはできませんし、本当はやりたいけれど、九州の鉄道のように「いすみ食堂」をやることもできません。でも、何とかならないか。そう考えていたのですが、ある時、「そうだ、キハ52と同じ国鉄顔の車両にして、側窓も1つ1つ独立した昔風の設計にすればよいのではないか」、とひらめいたわけです。
そう思ってキハ52をよく見ると、車体に「新潟鉄工所」と書いてある。
新潟鉄工所はいすみ鉄道が発注する新潟トランシス社の前身の会社です。
そこで、設計会議の時に言ってみたのです。
「国鉄顔にしてください。52を作った会社なんだから、図面ぐらいあるでしょう。」
この私の発言に新潟トランシス社の営業の方々は「ひえ~!」とは言いませんでしたが、たいそう困った表情。
さて、どうしたもんか。
いやいや、設計変更には多額の費用が掛かるし。
などなど、社内会議でかなり揉めたみたいです。
そこで私が追い打ちをかけた。
「設計変更の費用は出せません。そんな予算ありません。ただし、御社がこういう車両を世に出せば、新潟トランシスという会社は、面白い車両を作る会社だ。と社会的な認知度は間違いなく上がるはずだし、そうすれば、受注も必ず伸びる。だから、設計変更料金はその分の投資だと思ってほしい。」
と申し上げた。
ほとんど無責任というか、データに裏打ちされていない感情論的な口説き方ですが、その私の言葉を聞いて、営業の取締役の偉い方が、
「わかりました。やってみましょう。」
と言ってくれたわけです。
そして、それから何回も設計変更をして、何度も図面をお持ちいただいて、私が納得いくまで会議を開いてくれて、完成したのがいすみ350形なのです。
その間、新潟トランシス社の皆様方は、とにかく熱心に、そして52顔にとことんこだわった顔を作ってくれました。
モノづくりとはこういうことなんだと、新潟トランシス社から心意気を勉強させてもらったのです。
全国各地の鉄道会社の皆様。
こういうディーゼルカーはいかがですか?
このタイプであれば、すでに図面が出来上がっていますから、納期も早いですし、お安く導入できますよ。
そして何より、他の地域からお客様が来てくれます。
追加料金を一切取らずに設計変更していただいた新潟トランシス社の売り上げに協力するために、いすみ鉄道では中間マージン(紹介料)を一切いただきませんので、この車両、導入してみませんか?
内装はお好みに応じていろいろ対応できるそうです。
もちろん、新型ですから性能的には最新型だし、いすみ300形も含めて、納車当初から故障無しで調子は絶好調ですよ。
えっ?
いすみ鉄道の次の車両はどうなるのか、ですか?
そうですね、18mでキハ35の900番台風の2扉車。
外吊り扉のコルゲートボディーで中はクロスシートはいかがですか?
それともDE10そのままで凸型ではなくてL型にしたDLに、18m、シルヘッダー付の旧型客車風のPCを2両付けて、反対側に簡易運転台付ってのはどうですか?
そうすれば列車番号に「D」が付かない列車が走る貴重な路線になる。
いやいや、いくらなんでもそんなことばかり言っているとクビになりますから、いい加減にしなさい!
ということで、来年度はいすみ352が納入されます。(たぶん)
これにより、300+350が2編成になり、今のようなピーク時にはキハ52・28と合わせて、2両編成3本体制が出来上がることになります。
5両目は? それはお楽しみですよ。

いすみ350はジャニーズが終わってムーミン塗装までの間、この状態で走りました。
先日、中井精也先生にお会いした時に、
「社長、52を塗り替えちゃったんですか? って思いました。」
と言われましたが、私のコンセプトとしては、3セク化当初、国鉄から転入したキハ22を自社カラーに塗り替えて使用していた時代の車両。だから、52や28と並んでも違和感がない車両なのです。
先週末に作業を行い、いすみ351はムーミン列車の「スナフキン」として運転を開始しています。