どのような人が鉄道の運転士に向いていますか?

いすみ鉄道では現在自社養成乗務員訓練生の3期生を募集中ですが、ときどきこのような質問を受けることがあります。
2010年5月に入社した1期生4人が無事国家試験に合格し、現在はOJTとして訓練を積んでいます。
免許をもらったからといって、すぐに運転士として独り立ちできるわけではありませんので、運転技術の向上、ワンマン列車の対応など、あらゆる場面に対応できるようにあと半年間訓練を行い、ゴールデンウィーク明けごろ独り立ちできるように頑張っています。
2期生は今年4月に入社した2人が3月の学科試験・適正試験を目指していますが、3期生は2012年4月以降に入社し、1年後の学科(適正)試験、その後実技試験を目指す約2年間のプログラムです。
いすみ鉄道では、現在10数名いる運転士さんのほとんどがJR出身の方々で、その全員が60歳以上。今年の後半から順次退職が始まり、4年以内には全員が退職してしまう予定です。そして、JR側でもなかなかいすみ鉄道に乗務員さんを派遣するのが難しくなってきているようです。
これは何もいすみ鉄道に限ったことではなく、全国的に見て、JRから運転士を派遣してもらうことが、近年、難しくなってきている傾向にあります。
そんな中、他の第3セクター鉄道では、早いところでは10年以上前から自社で若い人たちを採用し、乗務員として養成してきていましたが、いすみ鉄道では、利用者の減少と存続問題で、そういった先のことを考える経営が行われてきていませんでした。
私は、今のいすみ鉄道を前進させるのが任務ですから、過去の経営をどうのこうの言ったところでも何も始まりません。現状で直面している運転士不足という課題を、会社の置かれた状況と社会状況を考えながら、ある程度長期的視点に立って経営を行っています。
ということで、いすみ鉄道が乗務員訓練生の第3期生に求める人物像はというと、私は鉄道車両の運転をしたことはありませんが、航空機の訓練や業務を通じた経験から、乗務員になるにはある程度の資質が必要だということがわかっていますので、そのことをお話させていただきます。
列車の乗務員になるためには、社会人としての基本的な常識が備わっていることはもちろんですが(意外とこれがない人が世の中には多いです。)、学科試験に受かるだけの学力を有していること。視力や聴力などの身体的条件をクリアすること。四肢に支障が無いことなどが基本的に求められています。
そういう規定を踏まえたうえで、私は次のような能力を有する人を求めています。
1:1つのことに集中して他のことがわからなくなるような人は向かないと思います。
乗務中にはいろいろな事態が発生します。1つの不具合に気をとられて、他のことに気が回らなくなるような人はNGです。一心不乱に集中することは大事な能力の一つですが、乗務員として、乗務中は、ある程度散漫に各方面に気を回すことができることが必要です。一つのことにこだわりすぎたり、フレキシブルになれない人は不向きですね。
2:2つ以上のことを同時にできる人。
1に共通することですが、2つ以上のこと、3つ以上のことを同時進行できる人が乗務員に向いていると思います。いすみ鉄道はワンマン運転です。お客様のことや、車内の状況にも気を配らなければなりません。だからといって運転をおろそかにすることはできません。列車の運転中はさまざまな要因が列車の運転に関与してきますが、そんな中でも時刻通りに運転することはもちろん、不測の事態に対応もしなければなりません。運転に集中だけしていればよいということではないのです。
テレビがついた騒がしいリビングルームでも平気で勉強ができるような人がいいですね。そして、勉強も身につくけれど、テレビの内容もある程度把握できるような人。静かな環境が整わなければ勉強に集中できないような人は乗務員には不向きかも知れません。
3:視野の広い人
運転中に正面を注視しながら、視界の片隅で速度計や圧力計を確認するのが運転士の業務です。訓練生のうちは別としても、いちいち計器類を確認するのに、正面から目を離して計器を注視するようではスムーズな運転はできません。視界の片隅でさまざまな事象を確認できることが大切です。これは何も運転だけではありません。一般人が会社の仕事をする上でも重要なことだと思います。自分が正しいと思ったら、他のことは何も見えなくなって、突き進んでしまう人は、運転士ばかりでなく、社会人としても問題ありですね。
物事をトータルに見ることができて、トータルに考えることができる人が、マネジメントとして求められる人材です。列車の乗務員という仕事は一つの列車を全責任を持って預かるわけですから、マネジメントとしての力量が当然求められます。その意味でも視野が広くなければなりません。
4:他人を批判しない人
一般的に他人を批判する人は責任逃れをする人です。列車の乗務員は、すべてのことが自分の責任に帰すると考えなければなりません。
飛行機の運航もそうですが、何か事故やトラブルなどが発生すると、乗務員は「もしかしたら、あの便(列車)は自分が乗っていたかもしれない。」と考えます。
そう考えると、他人事ではなくなります。
自分だったらどのように対応しただろうか、とわが身に降りかかることとしてとらえる傾向があります。
そうすると、人間は自然と謙虚になるものです。
「ばかだなあ、あいつは」などという人は一人もいません。
いつわが身に降りかかるかわからないことですから、他人を批判することなどできないのです。
乗務員や運行関係者というのはそういう人たちの集まりです。
5:社会貢献したいと考えている人
いすみ鉄道のようなローカル線の運転士は、都会の一部のサラリーマンのような高級を得ることはできません。将来的に独り立ちできたとして、生活するのに必要な賃金はお支払いできると思いますが、決して満足いく金額ではないと思います。
(サラリーマンの基本として、生活できる賃金を稼ぐのではなく、もらった賃金で生活していかなければなりません。この前提で考えると、サラリーマンで自分の給料に満足している人は、かなり少ないとは思います。)
それよりも、職業を通じて自己実現できること。職業を通じて地域や社会に貢献できることに喜びを見出せる人が、ローカル線で幸せに勤務できる人だと思います。
だから、ある程度社会の第一線で活躍し、人生に一定の目処がついたぐらいの年齢の人が良いのではと考えるのです。
子供の教育や住宅ローンを抱えている年齢の人は、まずそちらに専念するべきです。そうでないと、落ち着いて乗務員として勤務していくことは無理ですからね。
もちろん、免許を取得するだけが目的の人はお断りしています。
6:交通機関に勤務する心構えができていること。
私の前職にもいましたが、交通機関の現業部門に勤務しているにもかかわらず、毎年のようにお正月に休みをくれという人がいます。信じられないことです。
交通機関というのは365日稼働していますから、土日もゴールデンウィークもお盆もクリスマスも正月もありません。
まして、今のいすみ鉄道は観光鉄道を目指しているわけですから、人が休んでいるときが仕事をするときなのです。
既にシフト勤務になれている人から見れば当たり前のことが、意外にできない人がいます。特に地方出身者であととりの人など、帰らなければならない事情があるのかもしれません。
「お正月だから・・・」というような人は基本的に交通機関に勤務することは向いていないと思います。
交通機関に勤務する心構えは他にもたくさんありますが、この1つに当てはまるような人はそれだけで不向きだと言えます。
ちなみに、いすみ鉄道で勤務するJR出身の運転士さんたちは、年末年始はJR時代から成田山団臨輸送などで手が足りない状況の中で40年以上勤務してきた人たちばかりですから、年末年始期間は有給休暇の申請を一切行わないという暗黙のルールを自分たちで決めて勤務割を作っているほど、「筋金入り」なのです。
以上が、運転士ばかりでなく、いすみ鉄道で働くことを希望する皆様に私が求めること。というか、知っておいていただきたいことです。
まじめで、集中力があり、一つのことをじっくりとやるタイプの人は、学校では優等生かもしれませんが、運輸関係に勤務する、とくに乗務員や運行関係に勤務する人としては、けっこういただけないかもしれません。
それ以前に、社会人として、組織の中で自分の役割を認識し、統率が取れた行動ができることが基本ですが、まあ、ある程度社会経験を積んだ30代~50代の人でしたら、あえて言うまでも無いことだと考えています。
さあ、我こそはと思う皆様、1月14日、21日の説明会にご参加ください。
説明会は予約定員制ですが、両日ともにまだ数名の空席がありますのでお早めにお申し込みください。
当日は、聞きたいこと、質問したいことをたくさん準備して来てください。
本音で話し合いましょう。
受験申込書は説明会で配布させていただきますが、説明会はあくまでも説明会ですから、出たからといって受験しなければならないというわけではありませんのでご安心ください。
参加費用は1000円です。
(参加受付はお電話でいすみ鉄道へ。9時~17時、時間を厳守してください。)