長野電鉄屋代線活性化協議会

長野電鉄に出かけてきた話をしましたが、本当の目的は屋代線活性化協議会への訪問。
実は、長野電鉄屋代線は廃止の危機に直面していて、長野市の松代や若穂地区などの地元ではたいへんなことになっているのです。



長野電鉄の屋代線は距離約25km。駅数13。途中駅員がいる駅は1つ。
列車は1時間に1本。
年間運賃収入約1億円を稼ぐのに2億5千万円かかっている。
つまり、毎年毎年1億5千万円ずつ赤字が出ている。
そう、ちょうどいすみ鉄道と同じような状況にある「よく似た路線」です。
違うのは、いすみ鉄道は旧国鉄路線を引き継いだ第3セクター。
屋代線は長野電鉄という私鉄。
それと、いすみ鉄道は非電化のディーゼルですが、屋代線は電化されていて、電車が走っていること。
そんな中、これ以上赤字を出し続けることが耐えられないため、長野電鉄が廃止したい意向を表明したのです。
当然、地元は廃止反対。
住民総決起集会を開いて、「乗って残そう屋代線」運動を展開。
長野市は国から予算を付けてもらっていろいろと鉄道利用促進の実証実験をやっている。
長野電鉄もそれに協力して列車増発、バス補完などの実験をやっている。
ところが、実証実験などいくらやっても、というか、やればやるほど鉄道に不利な数字しか出てこないわけです。
そして、来年度予算に住民が要求しているさらなる実証実験のための予算を取ってもらうため、2月の2日に今後の方針として
1:列車の運行を続け、実証実験を継続する。
2:列車の運行を休止し、バスによる実証実験を行い、将来的に。
3:列車を廃止し、バスに転換する。
の3つの中から1つを決めなければならない状況になってしまい、地元の代表の皆さまから、私に屋代線沿線に来て、住民の皆さまの前で話をしてほしいということで、今回の長野行となったわけです。
いすみ鉄道は第3セクターですから、私鉄である長野電鉄と経営環境が全く違います。
だから、長野電鉄が有利子負債を抱え、バスに転換したいということを申し出ていることはとても良く理解できます。
同じように、住民の皆様方が、生活路線として鉄道を必要としているんだ。という気持ちもとても良くわかります。
今回、本当に久しぶりに(急行「志賀」が乗り入れていた時代以来)屋代に降りてみて、屋代線に乗って、いろいろと見させていただき、皆様方のお話をお聞きしてきました。
屋代線にもいすみ鉄道同様に活性化協議会が設けられ、「ああだ、こうだ。ああする、こうする。」とすったもんだをやっているようです。
この現象はどこでも同じですが、話を聞いてみて気がつくことがありました。
それは、まだ、自分たちで何とかしようと動き出していないことです。
住民の皆さんとお話をしていると、皆さん本当に屋代線が「好き」なことに気づきました。
開業してから90年もの間、地元を走っているわけですから、屋代線はもうすっかり地元の風景に溶け込んで、住民の皆さまの心のふるさとに風景になっているのです。
でも、「好き」なのに残そうという努力をしていない。
努力しているのは住民みんなで「乗って残そう」運動を展開していることと、行政に対して「補助金をつけろ」というような要望を出していること。
そこで、実証実験をやって、必要性をアピールすれば残ると信じているわけです。
でも、私の考えは違います。
「乗って残そう」というのは、重要な考えではありますが、即効性がない。
鉄道会社が廃止をしたいと言い出すのはよっぽどのことであって、病気に例えてみれば、もう、いよいよ命にかかわる状態になっている状況。
「乗って残そう」といういわゆる正論は、「健康に気を付けて生活しなさい」というようなもので、いよいよな状態の病人には意味がないのです。
今やらなければいけないことは、いよいよな病人を治療して元気にすること。
まずそれをやって命を救ってから、その後で基本的生活習慣云々をやるべきなのです。
いすみ鉄道沿線では、赤字を少しでも埋めるために、枕木オーナーをやったり、駅名ネーミングライツをやったりして数百万の売上を上げました。
沿線住民が自主的に寄付を募って数百万を集めました。
それだけでは赤字は解消できないけれど、「自分たちで何とかしよう」という意思表示としては強い力を示すことができました。
「いすみ鉄道ファン」や「いすみ鉄道ムーミン列車応援団」など、有志の方々が自主的に活動し、インターネットで情報配信し、皆で情報を共有して鉄道を盛り上げてくれています。
でも、屋代線沿線には「屋代線ファンクラブ」はありません。
だから私は言いました。
「皆さん、屋代線が好きだったらファンクラブを作りましょうよ。そして年会費3000円ずつ、一万人目標で集めて、3000万を長野電鉄に寄付しましょう!」
「行政に補助金を出せ出せと言ったところで、今の時代、出るわけないから、時間切れになる前に、とりあえず自分たちで動き出す。そしてお金を集めて、住民の総意として、長野電鉄の赤字解消のために寄付しましょう。」
「そうすれば、マスコミも取り上げてくれるし、長野電鉄にだって心が通じる。行政だって無視できなくなるのだから、開かない門をいつまでも敲いていないで、他の方法を探しましょう。」
このようなお話をさせていただきました。
全国的な問題ですが、ローカル線はお客さんがいない。
地元の人たちも、生活で乗るのは老人と学生が主で、あとは車社会。
だから廃止論議が上がる。
そうすると急に地元は「乗って残そう運動」を始める。
でも、やっぱり、乗って残そうはどうしても無理がある。
だから、国鉄時代からローカル線廃止反対運動で「乗って残そう」をやって残った路線は一つもないのです。
人はいろいろな考えを持っていますから、もちろん正論で行くべきだという人も多いと思います。
でも、私は、正論やイデオロギーでは世の中前には進まないと考えて、あえて「乗らなくても良いから残したいんでしょう?」と問いかけています。
地元の人たちのふるさとの風景になっている鉄道を、「乗らないから要らない」と言って廃止にしてしまう風潮が、今の日本の閉塞感につながっていると思います。
地元の人にとって、鉄道は交通機関としてよりも、ふるさとの風景の一つとしてとらえられている。
そういう意味で 「なくてはならないもの」 であり、だから、廃止になると寂しい。
でも、今までは乗らないのに残してほしいというと「地元のエゴ」と言われ、そんなことを言ってはいけない雰囲気があったのではないでしょうか。
私は、房総半島の里山の中を走るいすみ鉄道が大好きです。
可愛い列車が山裾を走る風景はなくしてはいけないと思います。
地元の人が日常生活では利用しないかもしれないけれど、だからと言って廃止にするべきではないと思います。
鉄道がある風景がふるさとの風景で、それを守ることは郷土愛につながる。
そういう気持ちを育てないで、効率一辺倒でやってきたから、日本はこんなになっちゃったんだ。
そう思います。
だから、乗らなくても必要なんです。
そこで、考えなければいけないのが 「じゃあ、どうするのか」ということ。
乗らなくても残すにはどうしたらいいのか。
それが、私がいすみ鉄道の社長になってやってきたことで、結果として、ありがたいことにお客様が増えてきているのです。
実証実験でやるような列車増発など私はやっていません。
列車を増やすコストと、それによって増える運賃収入を比べたら、やらない方が良い。
その代り、「途中下車したら1時間列車はありませんよ。だからあなたなりの1時間を過ごしてみてください。」
「1時間自由時間ができたと思って過ごしてください。」と言って、それがわかる人だけが来てくれればよいですよ。と、言っているのです。
「どうしてスイカが使えないのか」とか
「もっと接続を良くしなければ不便でしょうがない。」という人は来なくても良いのです。
なぜなら、ローカル線はガラガラに空いていてほしいものですし、不便さを感じて、それがホッとさせてくれるところだから。
そういう体験を求めてやってきてくれる観光客の皆さま方からの収入が、地元の鉄道を維持するキャッシュフローになっているのです。
そして毎日乗ってくれている地元の人も、実験的にしょっちゅうダイヤ改正されるよりも、今までのままの時刻で動いてくれていることを望んでいてくれる。
その方がわかりやすいですからね。
屋代線沿線の地方の皆さん。自信を持って下さい。
そして「乗らなくても残したい!」と発言してください。
そして、それを原動力に、「じゃあ、どうしたら残せるか」を考えてください。
行政に対していつまでも「クレクレ」では一歩も前に進みません。
いすみ鉄道沿線の住民の皆さんが、自主的に数百万円の寄付を集めたように、自分たちで何ができるかを考え、できることを今すぐに始めてください。
そうして自主的に一歩踏み出せば、必ず道が開けます。
屋代線にはオーナーを待っている枕木が行儀よく並んでいましたよ。
電化路線ですから、架線柱もたくさん並んでいる。
「電柱でござる!」 、 「MY電柱」1本1万円とか、そういう地元キャンペーンを今すぐにやらなければだめ。
それを、鉄道会社じゃなくて、住民がやらなければだめなのです。
屋代線沿線の皆さん! 方法論で援護射撃しますから、頑張ってくださいね。
そして、悲壮感を漂わせてはダメ。
楽しまなければだめですよ。
ファンクラブなのですから。