私流 車の買い方 その2

「中古車ありませんか?」
新車のディーラーにそう言って飛び込みました。
相手は敷居の高いベンツですから、追い返されるのを覚悟していましたが、対応に出た老練なセールスマンはニコニコ笑いながら、「お時間待てますか?」と聞いてきました。
「どのぐらい待つのですか?」と聞くと「半年ほど」との答え。
そのセールスマンのお客様で今、買い替えを考えている方がいるが、その方が私の希望するEクラスのステーションワゴンに乗っているとのこと。私は「待ちます」と言って、その場を後にしました。
毎日の仕事に追われ、あっという間に半年が過ぎた1997年の年末、ほとんど忘れかけていた私に「お待たせしました」という電話が入りました。
私は、あれから1度もディーラーから連絡がないので、「やっぱり体よく追い払われたのだろうか」と思っていましたが、やはりベンツともなればセールスマンも誠実なのでしょう。飛び込みの客にもきちんと対応してくれたのです。
今でこそメルセデスは認定中古車という制度を設けて、安心の中古車を販売するようになりましたが、その制度ができるずいぶん前の話です。
そして私は晴れてあこがれていた1993年型のE280ステーションワゴンのオーナーになったのです。
ご存じの方もいらっしゃると思いますが、形式W124。94ルックという往年の名車といわれる車です。
4年落ち、走行距離4万5千キロ、価格300万。
日本車は5万キロも走ると、そろそろ・・・と思う時期ですが、後でわかったことですが、ベンツは5万キロ前後からやっと本来の性能が出てくる車のようです。
私は早速そのEクラスワゴンで通勤を開始。
スーッと加速し、きちっと停まる。右へハンドルを切ると右へ曲がるし、左へ切れば左に曲がる。走行性能と乗員保護の安全性では日本車とは比べ物になりません。
2800ccのエンジンで燃費は8~9km。それまでのハイエース(2400cc)より燃費も向上しましたから、その点も満足でした。
ところがダメなのが、エアコン。うまく調整しないと窓の曇りがなかなかとれない。
カーナビ。年代が年代だけに日本車に比べてお粗末極まりない。
オーディオもやっぱり日本車の方が数段上。
こういったアクセサリー類は日本車の方がはるかに上だと思います。
要するに車に何を求めるか、ということを自分の中で決めるしかない。そう思いました。
その後、数年前にガソリンの価格が急上昇した時に、「そうだ、今なら大エンジンの車の価格が暴落しているはず。こんな時代だから、ふだんなら乗れないような車にも乗ることができるはずだ」と考えて、同じディーラーから暴落した5リッターのAMGを260万円で購入。人々が皆、エコカーに移行する中で、まるで時代に逆行するように思われるかもしれませんが、私のポリシーは「人と同じことをしない!」。
人と同じこと、つまり流行を追っていたのでは流行は作り出せませんし、おいしい思いもできないのです。
そして新車価格では1千万以上する5リッターAMG車を、新車価格から1000万が取れた価格で購入しましたが、乗ってみるとやはりベンツです。
5000ccと言っても燃費はリッター8km以上。エンジン回転も低く、静かに走りますから、日本車のワンBOXに乗るよりも、ずっと環境にもやさしいことがわかりました。
最初に買ったEクラスのステーションワゴンは購入から13年。今は家内が乗っていますが、走行距離はもう25万キロを超えました。日本車なら2台乗りつぶしている距離ですが、製造から17年経った今でも、性能的な劣化もなく、おかげさまで故障知らずで元気です。

[:up:] 本日時点のメーター 256982km [:!:] とりあえず30万kmを目標にしています。
今、いすみ鉄道では国鉄型ディーゼルカー、キハ52を導入する計画ですが、これも私は自動車を買うのと同じ考えでいます。
新車で買えば1億5千万以上するディーゼルカーが、1ケタも2ケタも安く手に入り、それが逆にお客様が観光目的でいらしていただけるツールになるのですから、こんなに良いものはありません。
いすみ鉄道に新車を導入して東京の地下鉄みたいなピカピカな車両が走っても、観光路線としてはお客様は誰も喜ばないのです。
ところが第3セクターを管理する側の地元の人たちから見れば、「新車を買って良いって決まっているのに、どうして中古なのか?」となるわけです。
もちろんその気持ちもわかります。
地方の人は昔から東京を目指してきましたし、そのためには新しいものを積極的に取り入れてきました。
鉄道だってそうです。
無煙化(蒸気機関車を廃止すること)、電化、複線化など、過去数十年にわたって東京を目標にして近代化をはかってきました。
その視点で行くと耐用年数をはるかに超えたレールバスをやっと置き換えることができるのですから、「社長、今さらどうして中古を買うの?」となるわけです。
ところが新車といえば現在製造しているものの耐用年数は25年以上。
そんなに長持ちする車両を高い値段出して買っても鉄道自体がそこまで持つかどうかの保証がないわけですから、私の感覚では中古でつないでいく方がずっと現実的であり、新車を買うお金があったら、もっと観光客を呼べるような仕掛けを作ることにお金をかけるべきだと考えるのです。
小湊鉄道や銚子電鉄、流山鉄道、長野電鉄など他の私鉄ではどこもそうやって中古車を乗り換える経営をしているのですが、不思議なことに第3セクター鉄道では一気に新車に置き換えるところが多いですね。
いすみ鉄道の地元でも、やはり新車待望論が主流なのです。
車や不動産など、高額になればなるほど、新品と中古の価格差が大きくなります。
例えば不動産を例にとると、5000万円の新築マンションが数年後には半額近くまで下がっていることが多いですよね。
新築価格というのは、売り手側(建築業者)がこの値段で売りたいという売り手都合で決められたものですが、中古価格は相場、つまり売り手と買い手の交渉で決まります。だから、中古の方が世の中の実情に合っています。
マンション等の不動産では、新築で購入するとどんな人が住んでいるかもわかりませんし、管理組合なども1から結成しなくてはなりませんが、中古であれば、変な人が住んでいないかなども事前に調べられるのも利点だと私は思います。
ところが世の中は良くしたもので、人の手が触れたものは受け入れたくない。どうしても新車、新築でなければイヤ、という人たちがいますし、良くわからないけど、新品を買うのが普通だと思っている人たちも大勢います。
結局、そういう人たちに、新品と中古品の価格の差、マンションで言えば新築価格と中古価格の差(最初の登録後にガクンと値段が下がるその差額部分)を負担していただいて、あとから安くなったものを買うというのが基本的な私の考え方なのです。
昔から乗り物大好き、何でも運転してみたい私は、長距離ドライブが趣味で、フェリーに乗って北海道へも行った経験があります。いすみ鉄道への通勤も車で片道1時間半は全く苦になりませんが、今、いすみ鉄道への通勤にはベンツではなく三菱のデリカを使用しています。
デリカは雪国へ撮影に行く時などヘビーデューティーに使うための車で、免許を持っている3人の息子たち用でもありますが、通勤用としてほとんど私が占有していますので、息子たちからも苦情が出ています。
「お父さんはベンツがあるのに、どうして通勤に使わないのか」
「僕たちが乗る車がない」
そう、いすみ鉄道のような田舎へ乗っていくにはいろいろと角が立つのではないかと思い、就任以来ベンツ通勤は自粛してきたのです。
でも、とりあえず存続も決まったし、私のやり方や物の考え方もご理解いただいてきていると思いますので、そろそろ本格的にベンツで通勤を始めようかなぁ、と考えてきています。
何しろ通勤だけで1日3時間。その他を合わせると1日4時間近く車に乗らなければならない生活を送っていますから、居住性の良い車でないと、身体にこたえる年齢になりました。5000ccと言っても、燃費もデリカよりベンツの方がいいですしね。
意外でしょう。これが私流の車の選び方です。
もう一度言いますが、今、私が乗っているAMGは諸経費込みで260万円。
嘘みたいな話ですが、ディーラー車ですから故障もほとんどありません。
あと10万キロは走るつもりでいますので、経済的な選択だと思っています。
ただし、中古を買うということは相手あっての交渉事ですから、「今すぐ欲しい」という気持ちをどうコントロールするか。
そして、チャンスが来た!と思った時に、逃さずに行動に移すことができるかどうか。
ふだんから自分の中で準備ができていることが必要だと思います。
何しろチャンスの神様には前髪しかないようですから、目の前を通り過ぎてからではつかむことは無理なのです。