お彼岸のお墓参り


東京生まれの東京育ちの私は、お墓といってもビルの真ん中の、こんなところにあります。
私は子供のころからお墓参りが趣味みたいなところがあって、広大な敷地の都営霊園によく一人でお墓参りに行きました。
都会の中で、これだけくつろげる場所もなかなかないと思っていただからですが、自分の家のお墓を見ると、なんだか想像を膨らませることができたからでもあります。


これがうちのお墓です。
うちは武家でもなんでもありませんから江戸時代の身分で言えば「農・工・商」のどれかで、したがって墓石を建てた当時は名字はありませんからお墓に「鳥塚家」などとは書いてありません。
墓石の土台に刻まれている「荒久」というのがうちの屋号で、明治になる前は、皆、屋号で呼び合っていたんです。
子供のころ父やおじさんたちから聞いた話では、ご先祖様は埼玉県の秩父の山奥、荒川村の出身だそうで、だから屋号は荒久ということらしいんですが、この間、秩父市の皆様方に呼ばれて久しぶりに秩父を訪ねてみたんですが、東上線の終点の寄居から長瀞、秩父にかけては、鳥塚という名字は学校のクラスに1~2人いるほどポピュラーだそうなんです。
お墓の裏を見ると、天明だとか嘉永だとか、江戸時代の年号が書かれていますので、私の何代も前の先祖がこのお墓に眠っていることだけは確かなんですね。
もっとも、当時は土葬でしたでしょうし、この広大な都営霊園にいつから墓があるのかもわかりませんが、19歳の時、勝浦のおばあちゃんの納骨の時に、お墓の蓋を開けて骨壺を入れようとしたときに、意外に広い石室の奥の方にたくさんの骨壺が並んでいるのが見えましたから、相当な人数がこの墓に入っていることだけは確かなようです。

隣には「鳥塚家」と書かれた比較的新しい墓石がありますが、これは分家した親戚の清三郎おじさんという人のお墓だそうで、福島県の平と秋田県の角館に私の血縁の方がいらっしゃるようですが、まったくお会いしたこともありませんし、親父もあちら側へ行ってしまいましたから、もう知る由もありません。

武家でも旧家でもありませんから系図などもあるはずもなく、あったとしても空襲で当時住んでいた築地小田原町(今の中央区築地7丁目)が焼けた時に、みんななくなってしまったんじゃないかと思います。
ただ、こうして人影もまばらな都会の霊園を訪ねると、薄気味悪いという気持ちよりも、子供のころから、なんだかすがすがしい気持ちになりましたので、迷い事などがあるときにはよくお墓に手を合わせに行ったんですね。
そうすると、不思議と天からアドバイスをもらえるように、行き詰っていたことや悩み事が解決するんです。
ただ、お墓参りに行くと、必ず蚊に刺されるので、今年の秋のお彼岸は時間もありませんので、東京のお墓にはお参りしないで、今年の5月に墓参りした時の写真を見て拝んでいるということであります。
私の父は長男ではありませんので、このお墓に私が入ることはなくて、入れと言われても19歳の時に見たご先祖様の骨壺が並んでいる中にお邪魔する気にはなれませんから、私は40になった時に、自分のお墓を買ったんです。
あるとき、カミさんの親父さんが、墓を見たいというので、「では、ご一緒しましょう。」と佐倉のお墓を見に行きました。
その時、私は自分お墓を買うつもりはなかったんですが、たまたま見に行ったお墓が気に入りまして、何と衝動買いをしてしまったんです。

お墓を衝動買いする馬鹿もいないんじゃないかと言われるでしょうが、私が衝動買いしたお墓はこちら。
ピンとくる方はいらっしゃいますでしょうか?
そうなんです。
お墓の番号がC区5列7番。
佐倉の霊園でCの57ですよ。
もちろん爺さんが買う隣の区画はCの58番。
もともと私はこの佐倉という土地がたいそう気に入っていて、ここで一生過ごそうと思っていましたので、その佐倉に墓を建てるのにC57とC58ですから、私は5分もしないうちにその場で「じいちゃん、ここ買いましょう。」と即答しました。
カミさんは一人娘ですから、じいさんとしては、将来的に自分たちの墓参りをしてもらえるだろうかという不安があったようですが、隣に私も墓を建てると言ったので、大喜びしてくれました。
墓の番号が気に入ったなんてことは説明しても理解してもらえませんから、私は理解ある婿殿として喜んでもらったわけです。
その後、爺さんは自分で墓を建て、その墓に今はばあさんが入っています。
私は区画のみ購入して墓石はまだ。
置こうと思っていたC58の動輪は釧路へ持って行ってしまいましたし、どうしましょうか。
そして今日、午前中にここに眠るばあさんのお参りに出かけてきました。
「うちの娘になんてことをするんですか!」
と昔散々怒られたお母さんも今はあちら側から微笑んでくれていることでしょう。
私たちも一生懸命生きてきて、孫たちも無事に大きくなりましたよ。
とても良い天気の下、お墓参りをして、なんだかすがすがしい気分なのであります。
お墓参りは、いろいろな気付きを教えてくれる私にとってとても大切な行動です。

[:up:] 佐倉駅を出るC57-1の鉄道百年記念列車(1972-10 撮影:結解学先生)
佐倉と言えばC57とC58ですからね。