路線慣熟訓練中です。

いすみ鉄道では、現在、転任してきた運転士さんが訓練中です。
JRで30年以上ハンドルを握ってきたベテラン運転士のOさん。
出向という形でいすみ鉄道に転任してきました。
2月から順次訓練に入り、現在は指導運転士の監督の下、実際の列車で慣熟乗務を行っています。
30年も経験があるベテラン運転士さんでも、路線が変われば線路の特徴を頭に叩き込まなければなりませんし、JRでは経験したことがない「ワンマン」にも慣れなければなりません。
ですから、Oさんの場合も訓練は4か月ほどかかるとみています。
運転免許を取るための訓練ではなく、路線慣熟訓練ですから、線路の形状はもとより
・駅ごとのブレーキポイント
・注意を要する踏切
・時間帯による乗客の特徴などをみっちりと、
晴れている時だけでなく、雨の日や風の日やお客さんの多い、少ないによる変化などのいろいろなパターンを体で覚えなければなりません。
「この先の家には耳が不自由な老人がいて、列車が来ていても線路を横切ることがある」とか
「この時間帯にいつも乗ってくるおばあさんは足が悪いので、着席するまで列車を出すな」など、
ベテラン運転士から細かなところまで、実際の列車で乗務指導を受けています。
JRなどの列車では、運転室が閉ざされた空間ですから、こういう乗務指導もお客様が知らないところで行われるのが通例ですが、いすみ鉄道ではワンマン運転で運転席が開放されているので、お客様から見ると「運転士と職員がずーっとペチャクチャおしゃべりをしている」ように見えるかもしれませんが、慣熟訓練であることをどうぞご理解ください。
まあ、雑談も半分ぐらいあるかもしれませんが、「おい、あの家の爺さん気をつけろよ。汽笛鳴らしても耳が聞こえないから」とか、「この左上にある笹は風の強い日には支障となるからな」というような、本当に細かい沿線の状況を頭に叩き込んでいるのです。
ベテラン運転士さんでも、こうやって何カ月もかかって路線訓練をするわけですから、これから入ってくる(であろう)自社養成訓練生たちは1年半とか2年の時間をかけないと一人立ちできないということはご理解いただけると思います。
これだけ訓練しても、周囲の状況の急変(踏切障害や自然災害も含めて)など、何が起こるかわかりませんから、これで大丈夫ということはないのが安全対策というものなのです。
ちなみにパイロットも同じように路線資格を取るための訓練があって、
新千歳や羽田、成田、福岡、那覇など、それぞれの空港の特徴を覚えていなければなりません。(路線資格のない路線を機長として飛ぶことは内規で禁止されています。)
例えば成田なら滑走路34LRに進入する場合、ファイナルアプローチの手前、九十九里海岸にさしかかる以前に海上で車輪を出さなければならないとか(機体についた氷の塊が車輪を出すときに落下する可能性があるため)
羽田なら滑走路34Lの接地直前に横風を受けることがあるとか(ターミナルビルと格納庫の間を吹き抜けるビル風)
那覇なら北へ向かって離陸するとすぐに機首を戻して高度1000フィートを維持してしばらく飛行しなければならないとか(嘉手納の進入経路と交錯するため)
など、地形や飛行場の条件などを熟知していないと安全な飛行を保てないのです。
いちいちお客様には説明していませんが、輸送の現場では、このような対策が取られているということも、技術の伝承だと私は考えています。
本日は慣熟訓練のお話でした。