観光の偏差値

今日は新聞の取材を受けました。

このところ取材の申し込みが相次いでいて、今週だけで4つのメディアの取材の予約が入っています。
皆様大井川鐵道に関心を寄せていただいていることは大変ありがたいことです。

そんな中で、今日のインタビューは私に対してよそ者の見方として大井川鐵道や沿線地域、静岡県はどう見えますか?ということでした。

私は正直に答えさせていただきました。

大井川鐵道と沿線地域は宝物です。
とんでもない宝が眠っています。
と。

なぜなら、私は本当にそう思っていて、じゃなければ64歳になって好き好んで単身赴任などしませんからね。

でも、よそ者としての私の目から見ると、静岡県の皆様方は観光というものにあまり関心が無いように見える。

「観光なんてやってもしょうがないでしょう。」

そう考えているように見えるのです。
だから、宝物が見えていない。
宝石の原石が見えていないんです。

私は千葉県、新潟県、静岡県の3つの鉄道を経験しています。
どの鉄道も地域輸送だけでは成り立つ要素がありませんから観光客をどうやって呼ぶかが定義になっています。
だから私は鉄道を広告塔として観光客を誘致して、一緒に地域も潤うようなことを一生懸命やってきました。

でも、千葉県も新潟県も、どちらかというと「観光なんてやってどうするの?」って感じでした。

中には「なんで土日に働かなくてはならないのですか?」という人も居るぐらい。

いやいや、あなた、何言ってるんですか?
観光産業なんですから土日にお仕事しなければいつ働くんですか?

というところがありましたが、静岡県に来て半年ちょっと居ますけど、やっぱり、前の2つの県と同じように、「観光なんてやってどうするんですか?」って雰囲気を感じます。

例えば新潟県ですが、皆様ご存じのように佐渡金山を世界遺産にしようと頑張っていますね。
では、なぜ世界遺産にするのか?
それは、観光客にいらしていただくためではないでしょうか?

だとすると、観光客にいらしていただくためには何が必要でしょうか?
交通ですよね。
観光客にいらしていただくためには交通が大切です。
でも、意外なことに佐渡空港には定期便が就航していません。
なぜならば佐渡空港の滑走路は890メートルしかないからです。

890メートルしかない滑走路ではジェット機は離着陸できません。
20~40人乗り程度の小型のプロペラ機がやっとですから、それじゃあ航空会社は商売になりませんから、かなり以前に佐渡空港の路線は撤退しているのです。

佐渡金山を世界遺産に登録して観光客にいらしていただこうと考えるならば、まずは滑走路の延長が最優先事項だと思いませんか?

北海道の稚内の先にある利尻島だって、滑走路の長さは1800メートルあるんですから。

まぁ、現在の佐渡空港は地形的に滑走路の延長は難しいと言われていますが、だから放置しているのだとすれば、あまりにも無策ですよね。
世界遺産登録とリンクしていないのですから。

もしかして担当者ベースでは世界遺産登録は商業ベースではなくてもっとアカデミックなものと言われるかもしれませんが、それは言い訳というか、どうせ世界遺産登録したとしても、石見銀山も富岡製糸場も無策だからせいぜい2年だったでしょう。
佐渡もそうなることを見越してあらかじめ言い訳してるとしか思えませんよね。

私は上越にいたときには、佐渡の金山で採れた金はどうやって運びましたか?
なぜ高田に徳川直轄の大名がいたのですか?
誰が考えたって、佐渡の金はいったん高田へ運び、高田のお城で厳重に保管して必要に応じて江戸へ運んだに決まってますから、上越市も佐渡金山と一緒に金で観光をやるべきだと思っていましたし、わざわざ佐渡まで渡らなくても上越市で金を楽しめれば佐渡金山にあやかれると考えていましたから、ゴールドセイントを町中に歩かせるぐらいのことをやれば、高田の町は観光客であふれると思っていましたが、どうもそういうことは望まないらしいのでお暇させていただいたのですが、ではなぜ新潟県はそうなのか?

千葉県も、新潟県も、そしてここ静岡県も、「観光なんてやってどうするの?」と共通しているその理由はたった一つ。

それは、豊かだからです。

千葉県も新潟県も静岡県も、昔から豊かなんです。

基本的な産業がしっかりしている。
だから食うに困らないんです。

そういうところは、別に観光なんてやらなくたって平気なんですよ。

米も、魚も、お酒もなんでもある。
だから誰も食うに困っていない。
新潟県は明治維新の時に日本で一番人口が多かった。
それぐらい人々が食べていくことができたということです。

千葉県も同じ。
静岡県だって、全然困っていない。

今、全国の自治体で、新幹線が欲しいと躍起になっているところがあります。
福井県は昨年やっと悲願の新幹線が自分の県に来ました。

でも、静岡県も新潟県も、頼んでもいないのに気が付いたら新幹線が走っていて、高速道路も開通していました。
そういうインフラに対してのありがたさもあまり感じてないのでしょうね。

千葉県だってそうです。
成田空港というありがたい施設が40年以上前にできていながらお荷物としてしか見て来ていないわけです。

そういう豊かで誰も困っていない地域は、「観光なんてやってどうするの?」なんです。

例えば富士山。

富士山はありがたいですよね。
でも、静岡県は富士山の観光についてあまり熱心ではありません。
富士山観光で熱心なのは山梨県です。
山梨県は工業地帯のような基幹産業がありませんから、観光が重要な産業です。

新潟県の妙高高原はスノーリゾートとして世界的に有名ですが、実は夏に行くとバブルの時代の別荘が皆廃墟になって朽ち果てています。

でも、山を一つ隔てた長野県の白馬へ行くと、夏のシーズンも賑わっていて廃墟などひとつもありません。
同じようなスノーリゾートでも新潟県側は廃墟ばかりで長野県側は夏でも賑わっている。
この違いですよね。
なぜなら長野県は米が取れないし魚も取れませんから。
だから観光に熱心なんです。

静岡県もそうだと思います。
静岡市から西側はほとんど観光名所はありません。
その中で大井川鐵道は際立っていると私は思います。

つまりどういうことかというと、観光に偏差値があるとすれば、豊かな地域は観光の偏差値が低いのです。

自分の家が豊かで、大人になったら家の商売を継げばよい環境にいる人は勉強しないでしょう。
でも、自分の家が貧しくて、何とか立派になって家族を支えていかなければならない環境の人は一生懸命勉強して努力するでしょう。

だから、豊かな家でその家を注げば良い人は勉強しないから偏差値が低く、貧しい家で頑張らなければならない人は、一生懸命勉強するから偏差値が高いのと同じです。

そして、これは持って生まれた環境ですから、ある意味で仕方が無いのかもしれませんが、資源がたくさんある、つまり良い能力を持っているのに勉強しないのは、あまりにももったいなく感じるのです。

私は大井川鐵道沿線を百貨店だと考えています。
入口には新幹線と高速道路と飛行場があります。
つまり、人通りがたくさんある目抜き通りに立地しているのと同じことです。

そして、一番奥には誰でも来たくなるような井川線の奥大井湖上駅や寸又峡温泉、長島ダムなどがあり、日本で唯一のアプト式鉄道が走ってる。

百貨店なら最上階に催事場を設けて「駅弁フェア」などをやるでしょう。
入口から一番遠いところまで誘客できるかどうかが手法なんです。

そうすれば百貨店全体の売り上げが上がる。
これ、誰でも知っている当たり前のことです。

大井川鐵道だって、一番遠いところに人が集まるコンテンツがあるのです。
でも、そこへ行く鉄道が災害で止まっているんです。

「じゃあ、直したらいいんじゃないですか?」

最上階で駅弁フェアをやっていて、でもエスカレーターもエレベーターも4階で止まっていて、
「あとは階段で行ってください。」
ってのと同じことですから。
そんな百貨店、ありえないでしょう。

そんな簡単なことなんですけど、いろいろと大人の事情があると直すためには誰がお金を出すんだから始まって、「もう4階まででいいんじゃないでしょうか?」てなことを言いだす人も出てくるわけですから、まぁ、豊かな地域の特徴のような気がして、あまりにももったいないなあと思うのであります。

ということを静岡在住半年のよそ者の目で見た私の独断と偏見による感想であるとお断りしたうえで、今日は新聞のインタビューに答えたのでありました。

でもね、豊かだから観光はやらなくてよいと考えている人たちにお伝えしたいのです。
それは、東京だって今の時代は「観光客の誘致」に躍起になっているということ。

豊かだから観光なんてやらなくたって良いというのであれば、東京はその最たるものでしょう。
でも、その東京ですら観光に躍起になっているのですから、豊かだから観光なんてやらなくたって良いというのは、「余計な仕事はしたくない」ということなのですよ。

ということをご理解いただければと思います。

今日のインタビューではもう一つ二つ大きなお話をしましたが、それまで書いちゃうと新聞記者さんのネタがなくなりますので、今夜のところはこの辺でお開きにしておきましょう。

お後がよろしいようで。