車通勤のあなたへ。
家から会社まで何キロありますか?
仮に50㎞としましょう。
あなたの車の燃費はリッター何kmですか?
仮に1リッターで10km走るとしましょう。
会社に着くまで何リッター必要ですか?
5リッターですね。
「はい、あなた。車に5リッターガソリン入れておいたから。気を付けて会社へ行ってらっしゃい。」
朝、出かけに奥さんからそう言われたら、あなたは何て言いますか?
「おいおい、それじゃあギリギリじゃないか。」
そしていろいろ考えてもう少しガソリンを追加してもらう理由を言いますよね。
・今日は寒いから暖機運転が必要だ。
・この時間は途中の交差点で渋滞がある。
・帰り道、会社の隣のガソリンスタンドが休みだ。
・今日は会社に持っていく荷物を積んでるんだ。
とかなんとか。
・今日は寒いから暖機運転が必要だ。
>はい、わかりました。では0.5リッター追加します。
・途中の交差点で渋滞がある。
>そうね、この時間は仕方ないわね。では1リッター追加します。
・帰り道のガソリンスタンドが休みだ。
>では、会社から最寄りのスタンドまで5kmなので、0,5リッター追加します。
・今日は会社に持っていく荷物を積んでるんだ。
>車が重くなって燃費が悪くなるってことでしょう? じゃあ、念のためにもう1リッター追加しましょう。
ということで、あなたは3リッターのガソリンを余分に積むことが許されて、合計8リッターのガソリンで、リッター10kmの燃費の車を運転して、会社まで50kmの道のりを走って出勤するのです。
毎朝、会社へ出かけるときに奥様とこういう交渉をしなければならないとしたらどう思いますか?
おいおい、いい加減にしてくれよ。
ガソリンなんて満タンでいいだろう。
どこにも寄り道するわけでもないのに。
そう思いますよね。
でも、実はこれ、出発前の飛行機はみんなやってるんです。
つまり、フライトプランというやつです。
例えば1時間に10トンの燃料を使う飛行機があって、目的地まで2時間だから20トン。
目的地の上空に到着して天候が悪い場合に30分待機するから5トン。
その空港に着陸できなければ、代替飛行場に行かなければなりませんから、そこまでの燃料に10トン。
「35トンあれば足りるね。」
そう言われると、機長は、
「おいおい何言ってるんだ。この空港は離陸までに30分かかるんだぞ。その間に燃料を1トン使うんだ。」
とか、
「今日は向かい風だから、もうちょっと必要だよ。あと5トンくれ。」
などなど。
そうやって交渉してできるだけ燃料を多く積んで行きたいのが機長の心理。
でも、できるだけ少ない燃料で行かせたいのが会社の方針。
「燃料なんか満タンでいいじゃないか。」
車の感覚で言えばそうかもしれませんけど、飛行機って重くなると余計に燃料を使うのです。
飛行区間にもよりますが、10トンの燃料を余分に搭載すると、目的地に着いたときに8トンしか残っていないなんてことがある。
どうしてかわかりますか?
余分に積んだ10トンの燃料を運ぶために、2トンの燃料を使ったからです。
だから、会社としてはできるだけ燃料を持たせたくない。
でも飛ぶ側としては安心材料としてできるだけ燃料を持っていきたい。
これが飛行前のフライトプランのブリーフィングです。
信じられないでしょう。
これじゃあ毎回毎回綱渡りです。
そう、フライトは毎回毎回綱渡りなんですよ。
私、今から14年前まで毎日これをやってましたから、よくわかるんです。
この間、フィリピンから飛んできた飛行機が、燃料が足りなくなって福岡空港に着陸できずに北九州空港に着陸して、再給油してから飛びなおそうとしたら、福岡空港の門限を過ぎてしまって結局フィリピンに引き返してしまった。お客様は北九州空港では入国できずに11時間も機内に缶詰めにされたってニュースが流れていましたが、つまりはそういうことなのであります。
出発する前のブリーフィングで、飛行機の機種にもよりますが、機長にあと3トン、あるいは5トンの燃料を余分に持たせてあげたら、こんな問題は起きなかったと思いますね。
でも、そういうことをさせてもらえないのが航空業界なのです。
朝、会社へ行くときに、「あなた、燃料5リッター入れておいたから。今日も一日頑張ってね。いってらっしゃい。チュッ!」なんて奥さんに言われたら、あなたはなんて思いますか?
「クソッ! この、鬼ばばあ!」
私ならそう思います。
でも、機長は毎日毎日、毎便ごとに、鬼ばばあに見送られて、「クソッ!」っと思いながら飛行機は離陸していくのです。
そして、そういう飛行機に、「バーゲン運賃だから、どこへ行こうかしら?」と言って、皆さんはこぞって予約を入れて乗っているんですよ。
今思えば、私は優しかったな。
「到着時刻はロンドンのラッシュ時間に当たるから、もう少し持っていったら?」などと機長に声をかけていましたからね。
CO2削減が叫ばれる時代には「もう少し持っていきたい」などという甘い考えは許されないのですから、私はあまり飛行機には乗りたいとは思わない今日この頃であります。
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