大雨で大きな被害を受けられた秋田の皆様には心よりお見舞いを申し上げます。
14日からの大雨で運転できなくなっていた秋田新幹線がほぼ一週間ぶりに明日の始発から運転再開とニュースが入ってきました。
やっとですね。
よかったです。
でも、一つの現実として、飛行機は日本航空も全日空も通常通り飛んでいたのです。
だから、どうしても行かなければならない人たちは飛行機を利用できました。
以前に、北陸新幹線が金沢開業する前のことですが、富山県庁の交通政策部から相談を受けました。
「新幹線が開業したら富山―東京便の飛行機は不要ですかね?」という相談でした。
当時は4時間の壁とか言われていて(今もそう思っている人がたくさんいると思いますが)、4時間以内なら新幹線、4時間を越えたら飛行機。東京-富山は新幹線で2時間ですから、4時間の壁どころではありませんね。
当時の有識者に言わせれば「飛行機は要らない」という区間です。
でも、私は「飛行機も残しましょう。」と進言しました。
なぜなら、新幹線も飛行機も、両方あった方が良いからです。
新幹線は地べたを走ります。
群馬でからっ風が吹いて農業用のビニールシートが飛んできて架線にからまったら新幹線は止まります。
これ、どういうことかというと、富山県が群馬に首根っこを握られているということです。
長野県で何か災害が発生して新幹線が止まったら、富山の人たちは動けなくなります。
交通というのはそういうものですから、地政学的に見て自分の弱点を知って、それに対する対策を立たなければならないと私は思います。
事実、4年前には長野の水害で新幹線が水没して、富山県の人たちも身動きが取れなくなりました。
富山県の交通政策部の人たちは私の話を聞いてきちんと飛行機路線を維持する政策を実施した。
「飛行機があって良かったね。」という話です。
その他にもありますよ。
例えば水産品の輸送。
東京まで次の日に届けばよいから富山だったら何も航空貨物で運ぶ必要はありません。と、スーパードメスティックの皆様方はそう考えるでしょう。
でもね、富山から東京行の最終便に載せれば羽田に21時ごろまでには到着します。
そうしたら羽田は24時間空港ですから、深夜の国際線が出ている。
その国際線に搭載すれば明日の朝には北京、上海、香港、シンガポールなどの地域に到着するんです。
今日獲れた氷見の寒ブリや富山湾の白エビが明日の朝には北京、上海、香港、シンガポールなどに届くということは、時間距離に換算すれば東京と同じなんですよ。ものすごく大きなマーケットがあるということです。
これが富山県にはできるんですけど、新潟県にはできない。宮城県にもできない。なぜなら新幹線ができたときに飛行機路線を廃止してしまったからです。
つまり、途中の地域に首根っこを握られるばかりじゃなくて、首そのものが飛んじゃってるんですよ。首の皮一枚すら残ってない。
交通というのはそういうものなんですが、地域の皆様方は自分たちが東京へ行くことしか考えていませんから、「新幹線ができたら飛行機はもう要らないね」となるのです。
交通政策の担当者だって、行政は数年で変わっていく仕事のスタイルですから、はっきり言って素人同然。
富山県の県庁の方は、新幹線開業前に恥も外聞も捨てて、つぶれそうな3セクの社長である私に「どうしたらよいですか?」とたずねる勇気があったということでしょうかね。
だから今でも東京-富山便が飛んでいる。
というのが私の見解です。
ついでに、航空会社の立場として「やめます」と言えないような仕組みもお伝えしましたが、それはここではお話しできませんので悪しからず。
事実として言えることは、コロナで減便されたとはいえ、今日も1日3往復の東京便が飛んでいるのであります。
何しろ、新幹線は逃げませんけど、飛行機はすぐに逃げますから、大事にするべきは飛行機なのです。
さて、えちごトキめき鉄道の路線についてみてみますと、例えば妙高高原という観光地があります。
観光地ですから、外からお客様がいらっしゃいます。
具体的にはどこからかというと、東京です。
東京の人は妙高高原にどうやって来るかというと、長い間長野新幹線で長野まで来て、信越本線でやってきました。
今でもそうです。上越妙高まで来てはねうまラインで戻る人はいません。
皆さん長野で新幹線を降りてしなの鉄道北しなの線に乗ってやってきます。
つまり、妙高高原の入口は長野なんです。
だから、妙高赤倉の観光事業者の皆様方は皆さん長野を向いている。
つまり、自分たちの仕事を考えたときに、はねうまラインのことはどうでもよくて、北しなの線の方が玄関ですから、北しなの線が大事なのです。
当然と言えば当然です。
でも、長野県の人にとってみたらどうかというと、県内交通としては皆さん県庁所在地を向いている。広域交通としては皆さん東京を向いている。
ということは、妙高高原は長野県民にとってみたら背中側なんです。
つまりあまり関心がない。
でも、事実として、妙高高原は悲しいことに長野県に首根っこを握られている。
たぶん長野県の人たちにとっては背中側に当たる妙高高原なんで意識外かも知れませんが、事実としてはねうまラインが止まってもあまり関係ないけど、北しなの線が止まれば妙高高原にはお客さんが来ないのです。
これも地政学的な弱点です。
そこで私は新潟県が長野県の首根っこをどうやったら握れるか、つまり、地政学的に優位に立てるかというポイントから交通を見るようにしているのです。
そうすると長野県の弱点がいろいろと見えて来る。
その一つが災害時の燃料輸送。
長野県のガソリンはすべて県外から運んでいますけど、このあいだもお話ししましたように中央東線経由か中央西線経由。
碓氷峠が切れちゃっていますから、名古屋や川崎あたりから中央東西線で入ってくる。
ところがその中央東西線というのが単線区間が多いし、災害に弱い。
何か災害があるとすぐにストップする。
そうなると長野にガソリンが届かない事態が発生します。
長野県がどのぐらい備蓄しているかは知りませんけど、最近のJRは災害があってもすぐに直さない。
「お金出してくれますか?」というところから始まりますからね。
今回の秋田でも新幹線だって一週間近く止まってしまっているわけですから、在来線なんて一か月単位で止まるでしょう。
そうなったら長野県にはガソリンが届かなくなるのです。
その時のために日本海経由で直江津からガソリンを届ける。
そういう危機管理が国にあって、トキめき鉄道がその一役を担っているのです。
▲Photo by 子鉄
このあいだ練習を兼ねてはねうまラインでガソリンを長野に運びましたが、これはどういうことかというと、新潟県が長野県の首根っこを握っているということだと私は考えます。
つまり、緊急事態を考えると地政学的に新潟県が長野県に優位だと言えるのです。
妙高高原が入口側の長野県に首根っこを握られているのと同じです。
あちらは人の流れですが、ガソリン輸送はモノの流れですからね。
つまり物流です。
よく、滋賀県の人が大阪の人たちに向かって、「琵琶湖の水止めたろか?」と冗談を言うのと同じように、首根っこを握られているということはそう言うことなのです。
別に新潟県と長野県が仲が悪くて喧嘩しているということじゃありませんよ。
このあいだも飯山線の会議に両県が出てきていますし、ふだんからいろいろ繋がりがありますから。
でも、交通というのは地形に左右されますから、地政学的なものの見方というのが必要なのです。
「敵に塩を送る」という言葉がありますね。
上杉謙信が長年のライバルだった武田信玄に必需品である塩を送った。
武田は甲斐の国ですから塩が採れません。
塩は人間が生きて行くために必要なものですから、なければ死活問題です。
つまり、山の中の国の弱点が塩だったのですが、相手の弱みに付け込まないで、救ってあげるという意味。これが「敵に塩を送る」です。
新潟の上杉が甲斐の武田に塩を送ったのがこの語源ですが、その時に通った道というのが「塩の道」として残っています。
どこかというと、糸魚川から姫川沿いに松本方面へ塩を運んだのです。
糸魚川から姫川沿いってわかりますか?
今の大糸線です。
大糸線のルートは当時の塩の道と重なるのです。
だとすれば、大糸線というのは、本当は長野県にとって必須の路線であるはずです。
なぜならば、これから新幹線がどんどん西へ延伸します。
つまり、関西方面からの長野の玄関口が糸魚川になるということです。
白馬という国際的リゾート地がある長野県ですが、その白馬の玄関口が糸魚川になるということは、新幹線で到着したお客様を白馬に運ぶのが大糸線ということになりますから、400年前の「敵に塩を送る」ということが、今なら「長野に客を送る」ということになると私は考えます。
「油断」という言葉がありますね。
油が断たれるとどうなるか。
つまりはねうまラインはいざという時に長野に油を送るルートだし、大糸線は白馬に「客を送るルート」なのですから、そう考えると私は新潟県が長野県の首根っこをつかむ大きなチャンスだと思っているのですが、新潟県の皆さんはいい人たちばかりで、のんびりしていて、私のようなガツガツと策略を立てるような人はいないようなのが、私はちょっと物足りないのと、「新潟県、大丈夫なのかな?」と思うのであります。
秋田県をはじめ、被災された皆様方の一日も早い復旧、復興をお祈りいたしております。
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