鉄道会社的仕事の流儀

私がいつも面白いと感じていることがあります。

21日の「酒匠列車」でもそうでしたが、観光列車の速度が速いということ。

もっとゆっくり走ればよいのに。

いつもそう思います。

「酒匠列車」とは、列車の中で日本酒とお料理を楽しみましょうという地元の酒蔵と連携した観光列車。
でも、直江津を出たらとにかく一生懸命走るのです。
「なぜ、そんなに急ぐ?」

お天気が良かったんですが、海岸線で徐行することもなく、トンネルの中もカッ飛んでトキ鉄の中で見どころ駅の一つの筒石も高速で通過。
速い速い。

交直セクションも「力行」で通過。

「おい、セクションなのに力行してるぞ。」
「ばか、ディーゼルだ!」
と、何でも肴にする乗ってるマニア連中は大喜び。

で、糸魚川のホームに滑り込んで、「はい、10分停車です。」

私は「えっ?」と思いました。

だって、後ろから特急列車が追いかけてきてここで追い抜かされるダイヤならともかく、後続の高速列車なんてないんですから。

総武線の快速電車ならカッ飛んで走って市川駅に滑り込んで、「はい、4分停車です。」
なぜなら後ろから成田エクスプレスが、やはりカッ飛んで来るから途中でもたもたできません。

京浜急行なら快速特急だったり、小田急ならロマンスカーが後ろから追いかけてくるから各駅停車だからと言ってのんびり走ることは許されませんが、糸魚川10分停車では何も追い越されない。
だったらもう少しゆっくり走ろうよ。

というのはお客様の心理。

そりゃそうでしょう。
できるだけお酒もお料理も景色も楽しみたいのですから。

でも、鉄道会社的には駅間運転時分というのはきっちり決まっていて、その運転時刻表通りに運転士はズレの無いように運転するのがヨシとされているわけで、運転士の試験でもこの区間運転時分通りに走らないと減点されるという世界なのです。

だから、「この列車は観光列車だからちょっとゆっくり走りましょう。」と社長の私が運転士に言ったところで、そんなことに耳を貸すものではないのです。

つまり、気が利かず、融通が利かず、フレキシブルではなく、ただただ決められたとおりに、余計なことを考えず、黙って運転するというのが鉄道会社的仕事の流儀なのであります。

例えば、「この先、気象条件が厳しいから注意しろ。」と言ったって、運転士は基本的にいつも通りの速度で走ります。
だから、線路が塩をかぶってブレーキが利きづらくなっていたとしても、いつもと同じ速度で進入して、いつもと同じポイントでブレーキをかけて。
でも、いつも通りにブレーキが利かず、停止位置を20m行き過ぎて、ヒヤリとするんです。
まあ、トキ鉄の場合はかつての本線ですからホームも15両編成が停まれるほどの長さがあって、1~2両の列車が停止位置を20~30m行き過ぎても安全には全く支障はありませんが、止まろうと思った位置に列車が止まらないというのは運転士は冷や汗ものでしょう。

「だったらさあ、もっとゆっくり走ればよいじゃないですか。」

そう言っても、列車を遅らせること、区間所要時分から伸びることはある意味「悪」ですからね。
国交省の試験で時刻通りに運転できなければ減点なんですから、お国も罪作りなものです。

じゃあ、どうするか。
これは、規定を変えるしかありませんね。

例えば、信号を黄色に変えてしまえば「徐行」します。
風速計の表示を見て「減速指示」を出せばその通りに走ります。

つまり、規定や指示に従うことが絶対で、自分で考えてはいけないというある意味軍隊的なところが鉄道会社にはあるのですが、確かにそれで鉄道の安全が守られてきたわけですから、そういう所をないがしろにすることもできません。

でも、通常の列車なら1分1秒早く目的地に到着したいのが顧客心理でしょうけど、観光列車の場合はできるだけゆっくり走って長く乗っていたいのが顧客心理ですからね。

トキ鉄の場合、運輸部門が実に協力的で、いろいろな可能性にチャレンジしてくれています。
だから、夜行列車などという列車を社長が言い出したら、きちんと実行できる。
そういう組織なんですが、実はおとといの夜行列車も、私が直江津駅で待っていたら2分早着。

「あれ? 早いな。もう来た。」

夜中の1時に到着して、直江津で1時間停車して、駅のホームでお客様に夜鳴きそばを食べさせる列車でしたが、きっと妙高高原からの下り坂を一生懸命走ってきたんでしょうね。
だから2分早着。

運転士は「どうだ!」と思ったかもしれませんけど、私は「何だ?」。

夜行列車というのは目的地に向かうための列車ではなく、乗ることそのものが目的の体験列車ですから、カッ飛んで走る必要はないのです。
まして、真夜中で他の列車は走ってないのですからね。

こういう所が、鉄道会社的仕事の流儀だとすれば、「もう少し考えようよ。」というのが課題と言えば課題でしょうか。

でもね、一事が万事そうでもなくて、実はこの夏のビール列車。
私は3~4回乗ってみたのですが、大変興味深かったのが夕陽のポイントでの徐行。

乗客の皆さんはカメラを構えて夕陽の撮影。
アテンダントもお客様のカメラを借りてシャッターを押しています。

これは普通のビール列車の光景ですね。
では、私が大変興味深いと思ったのは何か。

それは夕日が沈む場所です。

8月初旬と中旬、そして下旬と毎週末に運転されたビール列車ですが、毎週乗ってみると気が付いた。
何に気が付いたかと言えば日没の時間が毎週違うのです。

そう、お天気が晴れて夕陽が見えるかどうかという大きな問題はありますが、日没の時刻もどんどん変わっていく。
そんな時に、列車を徐行させて「はい、お客様、海に日が沈んでいきますよ。」というのですから、どういうことかというと、毎回徐行箇所が違っていたんです。

糸魚川の先、市振に向かう所はトンネル区間ですが、そのトンネルを避けながら夕陽が見えるポイントで徐行する。
それも、毎回違った箇所で徐行しているのですからね。

8月に毎週乗ってそんなことに気が付いたわけですが、

「すごい企画だねえ。」と言ったら、担当者が「えへへ」と笑って「気が付きましたか?」だって。

なかなかやると思いませんか?

運輸部にこういう営業的なセンスを持たせたら、この会社はすごい会社になるだろうなあ。

と思うのであります。

これが私が自分の会社に感じているポテンシャル。

いきなりD51持ってきて、「さあ、走らせろ。」と言ってもちゃんとできるのですから。
鉄道会社的仕事の流儀ではとても対応できないことを、わずか2か月でやってのけたのですから、とても大きな可能性がありますよ。
さすが、西日本と東日本のハイブリッドチームです。
日本一二の会社のいいとこどりですからね。

雪月花だけじゃなくて、これから急行列車や寝台特急や食堂車を走らせようと思っている私としては、なかなか楽しみなチームなのであります。

あっ、この場合、急行列車というのは「急いで行かない列車」であって、特急列車というのは「特に急がない列車」でありますが、何か?

運輸部の皆さん、これから厳しい季節になりますが、どうぞよろしくお願いいたします。