この1~2年ほどで「インスタ映え」などという言葉が一般化して、巷に広く浸透した感がありますが、今の時代は「何でも観光になる」と私は考えています。
平成も30年を迎え、来年には年号が変わる時代ですから、昭和の高度経済成長期に青春時代を過ごされた方々は皆さんおじいさん、おばあさんと呼ばれる年齢になっています。当時を振り返ると、観光というのは「できるだけ遠くへ行って、できるだけ良い旅館やホテルに泊まって、できるだけ旨いものを食べる。」ものだと思われていました。当時の日本の観光旅行の代表選手といえばやはり新婚旅行でしょうか。新婚旅行は一世一代の晴れ舞台でしたから、例えば東京の人間なら昭和30年代までは新婚旅行といえば熱海が定番でしたが、40年代には宮崎になって、50年代にはハワイが大人気の場所になりました。家族旅行もそうですね。房総半島に海水浴に出かけていた人たちが、海へ行くと言えば沖縄になり、グアム・サイパンになり、ハワイになって行きましたが、この現象こそ、まさに「できるだけ遠くへ行く」ということで、そうやって「遠方、高級、豪華」にこだわるのが「旅行にでかける」ということだったのです。
そして、そういう人たちが今の時代は皆さんおじいさん、おばあさんになっていて、活動期の終焉を迎える年代になりましたが、そこに新しく台頭してきたのがバブル期を知らない若者たちの世代です。
彼らは、バブル世代の日本人とは違う日本人で、それは「お金を掛けなくても楽しめる」という特技を持ち合わせているからだと私は考えています。そういう人たちは、遠くへ行かなくても、良いホテルや旅館に泊まらなくても、豪華な食事をしなくても旅を楽しむ才能を持っていて、そういう人たちが生み出した楽しみの一つが「インスタ映え」なのであります。
だから、いすみ鉄道の国吉駅にわざわざ草刈りにやって来て、松屋旅館に泊まって、そこのご主人と他愛のない会話をして、一杯飲むことに、都会の人間がたくさん集まって来るなんてことも起きるのです。
さて、こういう世代の違いによる価値観の違いは新しい観光の在り方だと考えられていますが、実は私は観光というものが持つ意味が、本質的に違うのではないかと私は考えます。
中学校の英語の時間に先生から「観光」はなんて習いましたか?
私も含めて昭和の時代にはほとんどの人が観光は「Sightseeing」と習ったと思います。Sightseeing。つまり「景色を見ること」が観光という解釈を昭和の日本人は当たり前のように学校で習っていたんです。だから、絶景や名所旧跡などを見て歩くのが観光であると当然のように考える。こういうおじいさんやおばあさんがたくさんいるわけですが、実は観光という英語の意味は「Sightseeing」(景色を見ること)だけではなくて、英語の単語で言えば「Tourism」というのも「観光」なのであり、このTourismという言葉は、きれいな景色を見に行くことばかりではなく、もっと広義に、「非日常体験をする」ことも含めて観光なのです。
今、都会の若い世代の人たちが各地へ繰り出しているのは、実は「Sightseeing」ではなくて「Tourism」なのでありますが、不幸なことに田舎のおじいさんおばあさんたちはそういうことが理解できないから、自分たちの地域を「こんなところはダメだよ。」なんて考えているわけですが、実は、「Tourism」という観点から見たら、田舎には都会人が求めるコンテンツがたくさんあるということだと私は考えています。
この写真は昭和の末期、今から30数年前の国鉄木原線の国吉駅です。
今、国吉で保存されているキハ30と同じ車両が大原へ向けて発車していく後ろ姿です。
こういう写真が1枚出てくるだけで、私は観光地になれると考えています。
なぜなら、
こちらは先週の国吉駅です。
同じ場所です。
こういう、同じ場所を今と昔で比較してみると「へ~」と思われると思いますが、これが「Tourism」なのであります。
電柱や線路、向こうのホームの壁など、「なるほど同じ場所に違いない」と思いますよね。
上の写真で、ホームの先に黄色と黒の警戒色に塗られた木の台がありますよね。あれが30数年の年月を経て、今、朽ち果てた状態でまだ残っているのがわかります。これが「Tourism」なのです。
こちらはさらにさかのぼって昭和43年の国吉駅の同じ場所。
やはり警戒色に塗られた台がありますよね。
この台は長い編成の列車がホームを飛び出して停車した時に、駅長さんが運転士さんにタブレット(通票)を渡すための台なんです。
私がいすみ鉄道の社長をしていた時に、昔の写真をいろいろな方が寄せてくれましたが、そういう写真があるとないとでは大違いですね。何しろそういう写真が1枚あるだけで、こうやって「Tourism」ができるわけで、今の時代は「こんなところダメだよ」と思っているところが、いくらでも観光地になるチャンスがあるのです。
▲ 昭和43年
▲ 昭和62年
▲ そして先週です。
こうしてみるとこの50年の変遷が分かりますね。
これは「Sightseeing」ではありませんが、「Tourism」なのです。
そして、おじいさん、おばあさんにはご理解いただけないかもしれませんが、今の時代はこういうことが観光になる時代ですから、私は「何でも観光になる」と考えています。要は演出の仕方であり、見せ方次第だということです。
私が航空会社の管理職を捨てて、いすみ鉄道の社長としてやってきたのは、こういうことを考えていたからなのです。
あれからひと昔の時間が経過しましたから、今度の社長さんは私よりもさらに進化した方が就任されることを期待しております。
おっと、その前にその社長さんを選ばれる選考委員が昭和のおじいさん達であることが気になるといえば気になるのですが、まあ、地域の皆様方の民意で選ばれた地域の代表の方々ですから、きっと正しい判断をしていただけると思いますが。
なにしろ、今の時代は「何でも観光になる時代」でありますから、400年前に2年しか居なかったおじさんを引きずっているばかりでは、時代に取り残されることだけは確かなのであります。
敬老の日、おめでとうございました。
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