30年前の今日の出来事。

30年前の今日。

昭和62年3月31日。

皆様は何をされていましたか?

 

私は当時26歳ですでに2人の子持ちになっていて、鉄道会社にも入れず、航空会社にも入れず、食べていくために何ができるだろうかと考えて、一応勉強は得意だったものですから、学習塾の先生として教壇に立っていました。

私が勤めていた学習塾は、「先生なんだから中学3年生までだったら一人で5教科教えられて当然だろう。」という方針で、小学校4年生から中学3年生までの、国、数、英、理、社の5科目を一人で教えておりましたので、なかなか自己研鑽が必要で、つまりは食べていくために勉学にいそしんでいたわけです。

中でも私が大変興味を持ったのは小学生の算数で、特に文章題が実に面白い。何しろX(エックス)を使ってはいけないわけで、Xを使わずに線分図や棒グラフで解答を導き出す魔術に惚れ込んでいました。特に食塩水の問題などは、魔法のように答えが出るのです。自分が子供の頃、こういう算数の解き方に出会っていたら、もっと勉強に夢中になっていたら、絶対に人生変わっていただろうなあと、都内難関中学に合格した教え子を見て思っていたものでした。

 

当時は日本全体がバブルへ向かってまっしぐらの状態でしたから、どういうことが起こるかというと、ひと言でいえば物価高。インフレです。

物の値段がどんどん上がっていくわけで、特に不動産がすごかった。

もちろん生活にアップアップでしたから、不動産を買うなんてことは夢のまた夢でしたが、東京の小岩で駅から歩いて15分以上かかるところの2DKのアパートが家賃75000円。学習塾の先生は、もちろん残業や休日出勤などたっぷりありましたが、当時としては給料が良くて手取りで20万円弱ぐらいだったと思いますが、それでも75000円の家賃は大きくて、カミさんは近所の縫製工場の内職の仕事をしていて、生活費の足しにしていました。

 

そんな時、昭和62年3月31日を迎えたわけです。

 

そう、日本国有鉄道最後の日。

 

国鉄が分割民営化されて、解体されて無くなってしまう最後の日。

 

テレビでいろいろなところからの中継を特集していましたが、国鉄がなくなるって、いったいどういうことなのか、はっきりと理解できていた人は少なかったんじゃないかと思います。だって、電車は今まで通りに明日からも走るっていうのですから。

今でこそ「民営化」っていうのがどういうことなのか、国民の皆さんもふつうに理解できると思いますが、国鉄の民営化は、大きな組織としては日本で初めての民営化でしたから、なんだかよく理解できなかったわけです。

 

 

あれから30年が経過して、今日昭和92年3月31日。

私は56歳になって、今、その国鉄の遺物のようなローカル鉄道を活性化させるお仕事をさせていただいているわけですが、国鉄からJRになった経緯をすべて知っている人間がだいぶ少なくなってきて、それと同時に、JRになった時のお約束もだんだんと忘れ去られて、経緯を知らない人間が増えてきたのをいいことに、お約束も平気で反故にされていくような気がします。

 

株式会社なんだから、儲かるところだけをやっていればよい。

自分たちの敷地の中の仕事は、すべて自分たちの関連会社を通さなければ許可しない。

儲からないところに列車を走らせてやるんだから、それ相応の費用負担をしろ。

 

何だかこういう話をまことしやかに切り出すようになってきましたね。

でも、そうではなくて、株式会社という形態であっても、地域に公的なサービスを提供する会社のあり方が、今、問われているのです。

 

ふつうの大企業は、創業者がいて、企業理念があって、それに基づいて成長して大企業になるところがほとんどです。

ところが国鉄の民営化は、きちんとした企業理念もないまま素人集団が30年前に始めた民間会社ですから、その民間会社のやり方のおかしさに、ふつうの民間会社に勤める国民はみな気づき始めていて、それも全国的に同時に利用者は「おかしいのではないか?」と気づき始めていることが、この数年ではっきりしてきました。

つまり全国のJRに同じDNAが流れているということがはっきりしてきたわけですが、当時の経緯を知らない人たちまでがおかしいと感じているのですから、やはりそうなのでしょう。

 

「インフラ系は安定しているし楽でいいよね。」

 

そう言って就職希望の学生が殺到する人気企業になっているようですが、鉄道会社はインフラ系ではなくて、オペレーション会社なんです。

きちんとしたオペレーションを常に求められる企業なのです。

オペレーション会社なのにインフラ系だと勘違いして、大きな事故を起こした電力会社のことを忘れてはいけないと思います。

 

これから40年目、50年目に向かって、利用者からそっぽを向かれないような会社。他に選択肢がないから仕方なしに利用されるような会社からはきちんと脱皮していただかないと、民営化の完成形にはならないと感じています。

利用者からそっぽを向かれ、他に選択肢がないから仕方なく利用されていたのが、国鉄なんですから、30年も40年も経って同じでは阿呆の集団と言われてしまうからです。

 

日本は鉄道の国です。

 

明日からも国民みんなで鉄道を盛り上げていきましょう。