「eチケット控え」って何ですか?

 昨日ご紹介させていただきました森田さんの「ネコメシCEOのブログ」、航空会社のサイトはどうして乗り方を説明していないのか、の中に、こういう文章がありました。

まず「eチケット控え」って何なんすか。もうこれがわからない。深く読み解けば、「eチケット」てのはたぶん物理的な航空券の電子版で、それの複製を印刷してるから、eチケット控えなんですかね。わからんけど。しかし最後まで控えだけでやり過ごせるんで、これはもう控えじゃなくて本物といってもいいのではないか。登記簿謄本を法務局へとりにいっても実際に持って帰ってくるのはその控えだ、っていうくらいの控えなのだろうか。「eチケット控え」じゃなくて「eチケット」って言い切ってはどうですか。eチケットを印刷した紙を持ち歩いてる、ていうほうがもう少し腑に落ちると思う。なんで「控え」がついてるの? 控えがついてるだけでわからなさがアップしてる気がする。

本当にごもっともで、私たち航空会社職員も紙の航空券に代わってこのeチケットというのが出てきたときには実に戸惑いました。
昔は航空券という紙の券が冊子のように閉じられていて、飛行機に乗るときにチェックインカウンターで1枚ずつもぎって使っていました。例えば、東京―香港―ロンドン―ニューヨーク―ロサンゼルス―東京というルートだと、5枚の航空券が束ねてあって、それを1枚ずつ切り離して使っていきます。
国内線も同じで、単一区間や往復区間などによって枚数が違うものの、チェックインカウンターで搭乗手続きをする際に、1枚ずつもぎられていました。
もぎった航空券は、カウンター裏の事務所で束ねて、乗客名簿と一緒にして本社の収入管理部門へ送るわけですが、例えばもぎり忘れなどがあると乗客名簿に100名のお客様が載っているのに航空券は99枚しかないわけですから、1人タダ乗りさせたことになります。中には色々なお客がいますから、有効期限が切れた航空券を持って来たり、他の区間の航空券をもぎってしまったり、とにかくトラブルが毎日のように発生していて、旅客運航部としては頭が痛いわけです。なぜならば乗客人数分の航空券が無ければ、その分その支店にペナルティーがかかるわけで、「こんなトラブルのもとになる航空券などというものはなくなってしまえば良いのに。」と私はいつも思っていました。
おそらくお客さんの方も同じで、ローカル線の公募社長さんの中には旅行会社出身の方もいて、添乗に出かけた先でお客様30名分の帰りの航空券をなくしてしまった、などという武勇伝をお持ちの方もいらっしゃるようですが、とにかく物理的な「航空券」というものがある限り、「紛失」はつきもので、「再発行」とか「再購入」というリスクが常にあるのです。
そんなことを考えていたのが30代半ばのころでしたが、ある時、予約部の部長さんとお酒を飲んでいた時のことです。
「空港は航空券の管理が大変で、間違えたとか、もぎり忘れたとか、頭が痛くなりますよ。」
私がそういうと、その部長さんは私をじっと見つめながら、
「鳥塚、お前さん、航空券がなくなったら良いと思ってるだろう。」と聞きますから、私は、
「そりゃそうですよ。何しろNonendo No Refund Valid FLT Date shown onlyの切符ばかりですからね。」と答えました。
Nonendo No Refund Valid FIT Date shown only.
これの意味するところは、「他社便への変更不可、払い戻し不可、記載された便名、日付のみに有効」ということで、乗り遅れたり自分の都合で乗らなかったときは、変更も払い戻しもできず、ただの紙切れになってしまうというのが当時の航空券のほとんどでした。
つまり、予約された通りの旅程で旅行している限りは、いちいち航空券など要らないし、予約された旅程から自分の都合で変更するときは、払い戻しも変更もできませんから、やはり航空券など要らないわけです。
こんな私の見解を聞いていた予約の部長は「ニヤリ」と笑いました。そしてこう言うのです。
「実はな、本社もお前と同じことを考えているようでね、そのうち航空券なんてものがなくなる日が来るよ。それも意外と近い将来にな。」
今から20年ぐらい前の話ですが、今思えば、つまり、これがeチケットの始まりだったのです。
航空会社が持っている個人データは3つあります。
1つは予約のデータ。
(誰が何日のどの便を予約しているかという記録。)
もう1つは発券のデータ。
(その人がどこでいくらの切符を買って、どうやって支払ったか。そしてその切符の各種制約や条件。)
そしてもう1つはチェックインのデータ
(何時に空港に来てチェックインし、どこの席に座って、荷物をいくつ預けたか等。)
です。
当時は予約のデータとチェックインのデータはつながっていて、予約のデータと発券データはつながっていましたが、発券データとチェックインデータはつながっていませんでした。
だから、予約された人が空港に来ると、その人の航空券を確認して、切り離してこちら側に頂き、その代わりに搭乗券を渡すということをやっていたのです。
当時、会社の幹部は、この航空券の発券データをチェックインのデータにリンクさせようと考えていて、それが可能になれば、紙に印刷した航空券を旅行中にお客様が常に持ち歩いて、それを提示することで飛行機に乗るなどというリスキーなことをやる必要はなくなるわけです。
当時の時代背景としては会社の事務所や家庭にデスクトップパソコンは普及し始めていましたし、携帯電話もありましたが、携帯の端末で予約や買い物などさまざまな使い道があるわけでもなく、JRに乗るときはオレンジカード、携帯のない人は公衆電話でテレフォンカードというのが当たり前の時代でした。
そんな時代に、eチケットとか言われて、「もう航空券は不要です。大丈夫です。」と言われたところで、お客様は「本当に大丈夫なのか?」となります。対する航空会社の職員の側も、もしコンピューターが止まったらどうするんだ、とか、お客様が「俺は絶対に切符を買ったんだ。」と言ってもそのデータが見つからなかったらどうするんだ、というような、いろいろな不安なことが数え上げるときりがないほど次から次へ疑問がわいてくる状態でした。
その時、ロンドンの本社の偉い人は何て言ったと思いますか。
私たちが業務上考えられる様々な問題を提起すると、ロンドン本社の偉い人は、ニッコリ笑って、
「そうだよね。そういう時、お客様はもっと不安ですよね。だから、そういう時は黙って飛行機に乗せてあげなさい。」
そう言ったのです。
航空券情報が確認できないのに飛行機に乗せてあげろとはどういうことなのでしょうか。
だったら、今、航空券をもぎり忘れたぐらいのことでガタガタいうのはおかしなことです。
航空券など最初から持っていなくても、喚き散らせば乗れてしまうことになります。
それとも人間性善説で、相手を信用しなさいということなのでしょうか。
でも、そんなことをしていたら会社がつぶれてしまいます。
すると彼は、「新しいことを始めるんだから、リスクはあります。そのリスクはお客様に追わせるべきではありませんし、従業員が背負うものでもありません。会社が、そのリスクを承知の上で、それでも新しいことをやるべきだと考えるから、eチケットを始めるのです。だから、安心して大丈夫ですよ。」
こう言うのです。
私は外人の考え方のすごいところは、こういうところだと思います。
新しいことを始めるということは、それだけのリスクを背負い込む覚悟が必要ですが、そのリスクを考えたうえで、それでもやるべきことだから、実行するのです。
こう言われたら、職員としてはNoとは言えません。
そして、欧米の会社からeチケットというものがスタートして、最初はいろいろなトラブルがありましたが、トラブルそのものは未知のもので、一つ一つ克服していかなければなりませんでしたが、未知のトラブルがあるだろうということは「想定内」でしたから、eチケットというものがどんどん普及して、今では国内線のどこでも航空券などというものを見ることはなくなりましたし、それでも自分は不安だから紙に印刷された航空券が欲しいというお客様は、発券手数料を徴収されるような状況になっているのです。
ですから、eチケットというのは、コンピューターの中に入っている航空券の個人データのことであって、それだとお客様には見えませんので、必要な部分をプリントしてお渡しするのが「控え」なのです。
ちなみにeチケットの個人データというのは、お客様の氏名、年齢、出発地国(日本)の連絡先、滞在国連絡先、その連絡先との関係、リンクする予約データの6ケタ記号番号、航空券料金、燃油料金、税金、施設使用料、合計金額、支払い方法(クレジットカード番号)、承認番号、発券代理店データ、発券担当者、日付、適用条件などなど、さまざまなことが記載されていますし、国際航空運送約款をお客様がご理解いただいたということも入っています。そういうのがeチケットですから、それを印刷してお客様にお渡しすることは無用であって、お客様のご案内として必要な氏名、日付、便名、区間、注意事項など、必要なところ抜粋した要点だけをお渡ししているのが「eチケット控え」なのであります。
さてさて、これで森田さん的には「eチケット控え」についてはご理解いただけたとは思いますが、このように、昔の航空券が進化して今はeチケットになりました、ということは物事の経緯であり、コンピューターが発達し、ネット社会になった今では、いろいろなものがそれぞれの経緯で発展してきています。
でも、日常生活は歴史の勉強ではありませんから、私は、そんな経緯などはどうでもよいと私は思います。
eチケットなるものが登場してかれこれ15年ぐらいになると思いますが、例えば15歳で飛行機に乗り始めた方にしてみれば、30歳になった今現在、航空券などというものは知らないわけです。
そういう人たちがこれからどんどん増えていくのが世の中ですから、航空券という概念の延長線上にあるeチケット、つまり「チケット」という考え方そのものが不要だと私は考えます。
年間数十回以上も飛行機を利用する私のような飛行機ベテランおじさんたちにとっては、会員カードというものがあって、その中に個人データも航空券データも全部入っているわけですから、今更eチケットという感覚もありませんし、「控え」も不要です。自分の端末ですべて管理できる時代です。
でも、本当は、そういうシステムって、頻繁に利用するおじさん達の特権ではなくて、「どうやって飛行機に乗ったらよいかわからない」という人たちこそ必要なのではないかと私は思います。
本当に航空会社がやるべきことは、初めて飛行機に乗る人たちを積極的にメンバーに取り入れて、「何も心配しなくても大丈夫ですよ。このカード1枚あれば、すべて解決します。」というようなシステムを作るべきだと思いますし、そうすることで、初心者から見たらかなりハードルが高く見える航空旅行というものが、もっと魅力的に見えるようになるのではないでしょうか。
今の会員制度は上顧客の囲い込みですが、新規顧客の開拓をメンバー制にするようなことを考えないと、いつまでたっても運賃競争になってしまうでしょうね。
最近ではスイカ1枚持っていれば、どこへ行っても「これ1枚」で用が足りますね。
普通乗車券、発売当日限り有効、途中下車前途無効とかいう概念は、おそらく今の利用者にはないはずです。
だから、航空会社がeチケットなどという言葉を使うこと自体が時代遅れなんだと、eチケット導入に絡んだ私としては、このごろ切に思うのです。
そういう意味では、JR東日本のような会社が、ペンギンのマークを付けた飛行機を飛ばすぐらいあっても良いはずですし、そのぐらいじゃないと、鉄道会社も広い視野を身につけることはできないのではないでしょうか。
森田さんのネコメシブログ、本当に勉強させていただきました。
森田さん、2日間ネタにしてしまいましたが、ありがとうございました。
【昭和50年5月 全日空時刻表】
昨日日本航空の時刻表を掲載しましたところ、ご好評をいただきましたので、本日は全日空の時刻表をご紹介します。
中学3年生、悲しい受験生だった私が、唯一息抜きになったのは、塾の行き帰りに池袋駅の旅行センターによって、タダでもらえるパンフレットや時刻表をもらってくること。
今でもこうして残っているのが大切にしていた証拠です。
ご興味のある方はご覧ください。

▲当時は漫画家のおおば比呂志さんのシリーズで、5月号はトライスターですね。
ちょうど沖縄海洋博が開催されたときです。

▲東京―札幌はすでに1時間に1本の便数でした。
1日に2本だけB727の便がありましたが、あとはワイドボディーのトライスター。
日本航空も同じ程度の本数がありました。
ということは、北海道への旅はすでに国鉄が主役の座は終わっていたのです。

▲秋田、山形はYS路線。東京―仙台間にもジェット便が就航していました。

▲特筆すべきは福井空港。
小松―福井―名古屋という便がYSで飛んでいました。
小松―福井間は区間所要時間20分。運賃は1400円。
スカイメイトだと700円で乗れる区間として、とても魅力的な存在でした。
「金沢に住んでいれば、700円で飛行機に乗れるんだ。」と金沢の人をうらやましく思いました。
こうしてみると、キミマロさんではありませんが、「あれから40年。」
昭和は遠くなりましたねえ。