FRAGILE と PERISHABLE

「アキラ、日本にはおせんべいという食べ物があるだろう。おせんべいは受託手荷物に入れてはいけないのを知ってるか?」
かれこれ20年以上も前の話になりますが、ロンドン本社で航空の規則や取扱いの教習を受けていたときに、イギリス人の教官が私に言った言葉です。
航空会社ではFRAGILEな(フラジャイル・こわれやすい)品物は受託手荷物に入れてはいけませんよという規則があります。
預けた手荷物の中に入れたものが、目的地で引き渡されたときに中身に破損があっても航空会社は責任をとりませんし、お客様はクレームをすることもできないのですが、その「FRAGILE」な品物の一つにおせんべいを挙げたのは、イギリス人のジョークだったのだと思います。
なぜかって?
だっておせんべいはすぐに割れるじゃないですか。
壊れやすい品物なんですから。
現金、貴重品などは預ける手荷物に入れてはいけませんということはたいていの人は知っていると思いますが、壊れやすいものの他に、腐りやすいものや傷みやすいもの(PERISHABLE・ペリシャブル)も預ける手荷物に入れてはいけません。
では、腐りやすいものとはどういうものかというと、すぐに思い浮かぶのは肉や魚などの生鮮食料品などで、通常は手荷物で預けることはないと思いますが、例えば北海道で毛ガニを買ってチェックインカウンターで預けて、その飛行機が遅れたり、誤送などで荷物が遅延したりして中の毛ガニがダメになっても航空会社は責任をとりませんし、壊れやすいものと同様に、そういうものを入れた荷物を預けたお客様の方に責任があるわけですから、クレーム自体も受け付けないのです。
では、そういう生鮮食品はどうやって運ぶかというと、受託手荷物ではなくて、通常は航空貨物として運びます。
ヨーロッパやカナダからのサーモンや、オーストラリアからのマグロ、アメリカからの野菜などがそれで、航空貨物にそういうPERISHABLEな品物が入っている場合は、地上の搭載責任者は貨物室の決められたポジションに搭載するのはもちろんですが、そういう品物が積んであるということを出発前に機長に伝え、確認のサインをもらわなければなりません。
生鮮食料品は温度管理をしなければなりませんし、野菜などは呼吸をしています。
だから、密閉された貨物室内で新鮮な野菜からガスが発生し、火災報知機を誤作動させる可能性もありますし、犬や猫など生きた動物などと混載すると衛生上の問題が出ますから、航空貨物としても注意が必要なんです。
そういう教育を受けていた時に教官が生徒に向かって、「PERISHABLE」な航空貨物にはどんなものがあるか? と尋ねます。
各国から集まった生徒たちは、魚、肉、野菜、花、フルーツなどと思いつく品物を挙げていきますが、そのうち、もう思いつく品物がなくなったころを見計らって、教官がこう言いました。
「新聞もPERISHABLEだからね。」
当時はインターネットなどない時代ですから、ある地域では新聞を飛行機で運んでいました。
そういうフライトでは、出発前の機長に「今日は新聞を積んでいるから腐りやすいので気を付けてください。」と報告しなければならないと言うのです。
生徒たちは皆、???????
新聞は紙ですから生ものではないので、1日2日で腐るようなことはありませんし、温度管理なども必要ありません。
だから生徒は皆、「?????」となりましたが、その生徒たちの不思議そうな顔を見た教官はにやりと笑って
「考えてごらん。新聞は翌日になったらもう商品価値がなくなるだろう。だから、腐りやすい品物なんだよ。」
こう言いました。
中に書かれている情報が翌日になったら使い物にならなくなるという意味なんですね。
そこで本日の朝日新聞のお話です。
本日は朝日新聞の土曜版でいすみ鉄道の社長の話を大きく取り上げていただきました。
とてもありがたいことです。
お願いしたってきてくれないのに、こんなに大きく取り上げられるのですから。

でも、残念なことに、新聞はPERISHABLEですから、明日になったらもう価値がありません。
今日はたくさんのお客様や地元の人々、昔からの友人たちから、「新聞見たよ。」とお声をおかけいただきありがとうございました。
でも、私は、本当はこういうのって恥ずかしくてあまり好きではありませんから、できるだけ目立ちたくないんです。
だから、今、改めて思うんです。
新聞は「PERISHABLE」で良かったなあって。
だって、明日になったら誰も今日の新聞は見ませんからね。
本日の朝日新聞をお読みいただきました皆様、ありがとうございました。
今日も私はいすみ鉄道で奮闘しております。
これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。
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