航空会社の危機管理

先週末、川の水から浄水した水道水から毒物が検出されたということで、千葉県の松戸市や野田市で水道が止まるという事態が発生しました。
お年寄りや小さな子供を抱っこした住民の皆様方が給水に長蛇の列をなしているニュースを見て、とても気の毒に思いました。
このニュースを聞いた時に私は「そうか、こういうことだったのか。」と思い出したことがあります。
それは、私が航空会社に勤務していた時に危機管理の一環として、あらゆる事態を想定した緊急対応マニュアルを担当していた時のことです。
BCP呼ばれる、BUSINESS CONTINUITY PLANで、事故や災害が発生した時などでも事業が継続できるようにするための計画をあらかじめ立てておくこと、緊急事態を想定して対策を立てることが私の仕事の一つでした。
緊急事態というのは、例えば、「空港ターミナルが火災になり使用できなくなった場合」という事態を想定し、別ターミナルで業務ができるように空港会社と契約を結んでおいたり、「コンピューターが使用できない場合」に備えて、手作業でチェックインや重量計算ができるように白紙の搭乗券や荷物タグ、手書きのフライトプラン用紙などをまとめて確保しておいたりと、その空港周辺で考えられる事態をいろいろと想定して、そういう事態が発生しても航空機を安全に運航できるようにするわけです。
この想定する緊急事態は本社から「今年のテーマ」というのが送られてきて、ある年は「鳥インフルエンザの大流行で職員が半数しか出勤できない事態」であったり、「発電所が攻撃を受けて電源が使えない場合」など、「えっ?」ということが含まれていましたが、そのテーマの1つに「水源地が汚染された場合」というのがあったのです。
英語ではCONTAMINATED WATERというのですが、何者かが水源地に毒物を投入して水道水が使用できなくなった事態を想定して、それでも航空機を安全に運航できるように考えろという訳です。
飛行機には法律で水は必ず搭載しなくてはなりません。トイレ用の水もそうですし飲料水も必要です。機内食の調理用水も確保しなければなりません。
水道が断水したら飛行機は飛べなくなってしまうのです。
そこでいろいろ調べた結果、契約している機内食会社が工場を2か所持っていて、空港から少し離れたところにある別の工場には緊急時に備えて井戸があることがわかり、それを利用できることになりました。
そうすると、次の問題として、その井戸水は飲食調理に適しているのかという問題が起きます。
緊急事態用であってふだんは使用していなくても、一旦緊急時に使用するとして本社のデータに登録すると水質検査を毎年受けなくてはならなくなります。
そしてその報告を本社へするわけです。
「そんなことありえないよ。」というようなことも航空会社では想定内として考えなければならないのです。
もちろん発電所が事故や攻撃を受けた場合ということも想定されていましたし、大地震に襲われた場合というのも想定内の訳です。
成田をよく知る本社の偉い人から、「百数十キロのところに原発があるだろ。考えておけよ。」と言われたことがあります。
「考えるったって、それはBCPの範囲じゃカバーできないよ。」
と答えると、
「そうだ。だからどこまでが対応可能で、どうなったら対応できないか、どの時点で逃げるか、職員やクルーを避難させるかを考えておくんだ。」と笑い話のような会話があったことも記憶しています。
そのぐらいの大事故になると、一つの空港事務所の単位では対応しきれなくなりますので、「逃げろ!」ということになるわけです。
つまり、発生している事態の大きさを見極めることも、私たち管理者に求められることなのです。
航空会社では、想定できる様々な事態を「想定内」として準備しておかなければならないのです。