上下分離という考え方

いすみ鉄道が存続するための大きな要因の一つは、県をはじめとする地元自治体からの補助が継続されることが前提となっていることです。
「今後も継続して赤字を補助する」という報道がされると 「けしからん」 と思われる方もいらっしゃると思いますが、これは上下分離という考え方に基づいています。
上下分離とは 「下」 の部分である線路設備と、 「上」 の部分である列車の運行を分離して経営を行うこと。
英語で言うと
The Separation of Infrastructure and Operation in the Railway System.
インフラには車両も含まれますから、線路や鉄橋、トンネルなどの建設費や保守費と車両の修繕費を「下」として考え、この部分を自治体が負担するということになります。
この上下分離方式は日本でもいくつかの鉄道がすでに取り入れておりますが、海外ではもっと一般的になっていて、イギリスやフランスでも国鉄を民営化した際に上下分離し、鉄道会社は「上」の部分を運営する存在になっていますし、皆様方が良くご存じのアメリカのアムトラックも、貨物会社の線路を借りて特急列車が走る上下分離方式で運転されています。
最近では、「○○ホールディングス」なんていう会社名もよく聞くようになりましたが、これなども所有と経営を分離して運営していくという点では、鉄道会社の上下分離と似ているかもしれません。
ですから、各社の報道に見られるように、ただ単に「赤字を補てんしてもらう」ということではないのです。
バス会社やトラック会社と同じように、県や自治体が作った路盤の上を、会社は輸送ビジネスを運営するということで、そうしないと、世界的に見て鉄道ビジネスは成り立たなくなってきているのです。
特に、いすみ鉄道のような第3セクター鉄道は、国鉄がJRになる時に、おいしいところだけをJRが取って、採算が合わない部分だけを別会社の第3セクター鉄道にしたわけですから、ドル箱と言われる新幹線や特急列車もなく、首都圏の高密度輸送区間もありません。
JRなどはさらにその利用客を相手に「駅ナカ」のビジネスを展開していますし、
大手私鉄のようなバス、タクシー、百貨店、スーパー、不動産などの多角経営も、第3セクター鉄道ではできないのです。
簡単な例を言えば、いすみ鉄道がスーパーマーケットを作ったら、どうなりますか?
会社は儲かるかもしれませんが、地域の商店街などから猛反発を受けるでしょう。
補助を受けながら、地域の人たちを困らせることはできませんね。
いすみ鉄道のような第3セクターができることといえば、鉄道グッズやお土産品を利用者に販売することぐらいでしょうか。
あとは、旅行業の免許を持っていますから、地元の皆さんをお連れしたバス旅行などを企画していく(先日の大井川鉄道視察ツアー)などといったビジネスになりますが、旅行業というのは金額は大きいですが、ほとんど利益が出ないビジネスですから、とても厳しい状況にあるのです。
私が社長として求められているのは、先ほどから言うところの 「上部」の運営で、安全、正確な輸送を提供することを第一として、さらに、その上で、お客様を増やし、売り上げを増やしていくことです。
何しろ、30人からのスタッフがいますから、一人年収400万円としても、人件費だけで1億2000万円が必要になりますし、その部分は「上部」に当たりますから、補助対象にはなりません。
その資金を確保し、会社の運営を行っていかなければならないわけで、逆に言うと、上部の運営をする会社の資金が枯渇したら、存続できないということになるのです。
ですから皆さん、「ゴールではなく、スタート」 なのです。
これから、いすみ鉄道は、自治体の広告塔として、夷隅郡市の名前を全国区にするとともに、お客様に観光目的でいらしていただくこと。そこから得られる収入で、地元の足を確保することを目標に再スタートを切ることになります。
今後とも、いすみ鉄道をどうぞよろしくお願い申し上げます。