パイロットが飲酒したというニュースが後を絶ちませんね。
どうしてなんでしょうか?
パイロットという職業の人は自分自身をコントロールすることができる人だと誰もが思っています。
そういう人がなぜ皆さん乗務前に飲酒をして、アルコール検査で引っかかったり、アルコール検査をごまかそうとしたりするのでしょうか。
検査で引っかかれば懲戒解雇されるわけで、つまり、自分の職をかけてまでお酒を飲みたがる。
皆さん、どうしてなんだろうと思いませんか?
昨日のニュースでは貨物機の機長がアルコール検査をごまかそうとしたとありますが、その会社では乗務12時間前から飲酒が禁止になっているようです。
私が学生だった頃は、やはりパイロットは操縦前の12時間は禁酒でした。
ところが、同じ時期にアメリカの法律では8時間前禁酒でした。
アメリカ人の教官に
「日本では12時間前禁酒なのに、どうしてアメリカでは8時間前なのか?」
そう聞いたら教官はニヤリとして、
「お前と俺の体の違いだよ。アメリカ人はでかいだろう。」
そう答えたことを覚えています。
つまり、アメリカ人は体が大きい。日本人は体が小さい。
だからアルコールの許容量も、分解能力も違うんだ。
そういうことでしたが、私は今でも納得はしていません。
でも、納得していないと言えば、12時間以前に軽く飲んだとしても乗務前のアルコール検査で引っかかればアウト。
10時間前に飲んでても、アルコール検査に引っかからなければセーフ。
つまり、何時間前というのも根拠は無いということになります。
個人差やその時の体調によってどうにでもなりますから、基本的には乗務前日は飲まないようにするというのが勤務に臨む姿勢ではないかと思います。
では、なぜ飲むのか。
基本的には「眠るため」だと私は考えます。
昨日のニュースの機長さんは貨物機の機長です。
貨物機は夜間飛ぶのが仕事です。
ニュースによれば出勤点呼時刻は午前0時15分。
深夜0時が出勤時刻です。
ということは、日中時間帯が休養時間帯となります。
どのようなシフトで勤務していたかはわかりませんが、例えば朝乗務が終わり、10数時間後の深夜に乗務が始まる。
こういう時はホテルで休養です。
国際線のパイロットもそうですね。
長時間フライトして朝到着する。
次の乗務は翌日の朝。
乗務が終わったらホテルへ直行します。
ホテルに入るのが午前中。
そしてレストですね。
でも、ホテルの日中ってどうでしょうか。
クリーニングが入り、廊下はごった返してたりします。
そういう時に狭い部屋でぐっすり眠るのは困難ですよね。
パイロットが飲酒で引っかかる時って、ステイ先か、あるいは不規則勤務時が多いようですが、私の経験からすると、たぶん、眠るためにお酒を飲んでいるのでしょう。
ステイ先のホテルには様々な条件があります。
部屋の広さや設備はもちろんですが、ジムが無ければならないとか、プールが無ければならないとか。
みんな体調管理のために必要とされています。
私がいた会社では、クルーがステイするホテルは必ずクルーフロアがあることというのが前提でした。
どういうことかというと、クルーが宿泊する専用のフロアを作れということです。
その理由は昼間静かだから。
クルーフロアであれば日中時間帯に掃除をする必要がありません。
チェックインやチェックアウトの人たちがガヤガヤしたりすることもありません。
そういう配慮がクルーのステイ先には必要で、ここで寝ろと部屋を確保すればそれでいいというものではないのです。
国内線も国際線も皆さんドサ回りの旅芸人のように毎日いろいろな場所に泊まり歩く生活です。
国際線だとそれに時差が加わります。
私もそうですが、旅から旅への三度笠。
出張が日常の人って、行った先でおいしいものを食べ歩くなどと言うことは基本的にはしません。
若いうちは楽しいかもしれませんが、何度も同じところへ行く生活を何年も続けていると、世のサラリーマン諸君のように
「今日は羽を伸ばすぞ」
なんてことはしませんからね。
そういう人が飲酒問題を起こすということはどういうことか。
バックグラウンドを考えて対策を取らないと、イタチごっこだと私は思います。

そういえば、いつだったか某ホテルに泊まったらこんなものがありました。
「おっ!」
と思いました。
懐かしいロゴです。
あぁ、このホテル、クルーの滞在ホテルになってるんだな。
そう思いました。
そして、これはクルー用の朝食でしょう。
パン類とコーヒー紅茶。
クルーの皆さん、ご自由にどうぞ。
ということでしょう。
何しろ、このホテル、朝食を2人で取っただけで1万円近くしますから。
朝食ですよ。
それもなんのことはないバフェスタイルで、せいぜいシェフが目の前で好みのオムレツを焼いてくれる程度の朝食です。
そんなホテルでクルーにホテルのお客様と同じ朝食をセットするなどできません。
なぜなら会社がオファーするのは休息の場所であって、高級な朝食ではありませんからね。
つまり、2人で1万円近くする朝食を出すような、そんなホテルを航空会社はクルーのために用意しているのです。
なぜか?
休息のためです。
そこいら辺のホテルでは、クルーは十分に休息できない。
つまりはそういうことなのです。
今の時代は昭和と違ってお酒に対する考え方が厳しくなってきています。
また、最近の若い人は飲酒率も下がっていると聞きます。
時代とともにお酒に対する考え方も変わってきていますが、「眠るため」のお酒がダメだとすれば薬になってしまいます。
でも薬はもちろんNG。
ならば最後の方法として、飛行中の居眠りはどうでしょうか。
離陸して自動操縦に切り替えたら居眠り。
実は、長距離路線などでは飛行中に居眠りすることが認められています。
10数時間の長時間フライトでは操縦室の後方に休息用のベッドが備えられていますが、そういう路線以外でも副操縦士に見張りを頼んで機長さんが10分15分操縦席で居眠りをする。
そうすることで着陸に向けた集中力を養うということも、やってできないことではありません。
一番簡単なのは折り返し地点での休養時間を増やすこと。
1泊じゃなくて2泊とかね。
そうするとコストが上がるばかりでなく、ただでさえ不足しているパイロットがさらに不足しますから、現実的ではありません。
私の知り合いの機長は目的地に到着したら軽くジョギングや散歩をしてひと汗かいてからベッドに入る人もいましたし、最近ネット動画でアメリカ人の機長たちがいろいろな情報発信をしているのを見ると、よく眠るためには自分用のお気に入りの枕をカバンに入れてフライトしているなどという人もいます。
皆さん、眠るためにはどうしたらよいか。
それぞれ葛藤があると思います。
それも仕事のうちだ。
そう言ってしまえば、確かにそうなんですけど、それじゃあこの問題は解決しないのであります。
スプリング・ジャパン、貨物機機長が飲酒逸脱検査 “栄養ドリンク”と虚偽、自主検査繰り返す(Aviation Wire) – Yahoo!ニュース
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