「ねえ、あなた。マスクしてくださらない?」
隣りの美女がそう言った。
夕方のラッシュが始まった大都会の駅のエスカレーター。
地上階から地下3階まで、一気に下る長いエスカレーター。
2本のエスカレーターが並行して下へ向かっている。
「振り向かないでね。隣のエスカレーターの人、あなたのことじっと見てる。」
私は彼女の言う通りポケットからマスクを取り出した。
無言の二人はやがてエスカレーターから降りると一呼吸おいてから改札口へ向かった。
私のことを見ていたという人は、先へ行ったようだ。
「どうしたの?」
「だってあの人、背中のカバンに電車のアクセサリーつけていたわ」
「・・・・」
「きっとあなたのこと、知っていると思う。」
「・・・・」
駅から電車を乗り換えて、やがて二人は予約していたホテルに着いた。
するとチェックインカウンターの手前で彼女は言った。
「あたしはここで待ってるから、あなた一人で手続してきて。」
「わかった。」
彼女はロビーのソファにこちらに背を向けて腰掛ける。
今夜はどうも神経質になっているようだ。
私はフロントで部屋のカギをもらうと、一緒にエレベーターに乗った。
部屋に着くと荷物を置いてコートを脱ぐ。
レストランの予約時刻が迫っていた。
「もうこんな時間だ。ご飯を食べに行こうか。」
「そうね」
2人はまたエレベーターに乗る。
私は55階のボタンを押した。
「どうしたんだ?」
席に案内されて周りをキョロキョロ見る彼女に声をかけた。
「さっきもそうだけど、どうかしてるぜ。」
「だって、あなたは有名人なんですから。」
「どうして?」
「あなたは知らなくても、あなたのことを知っている人はたくさんいるわ」
「別にいいじゃないか。堂々としていれば。」
「だって、私、落ち着かないもの。」
「どうして? 別に怪しい関係でもないじゃないか。人に見られても気にする必要もないだろ。」
「まぁ、それはそうだけど。」
高層ホテルの展望レストラン。
日常から離れて二人きりでデートを楽しむことなどめったにない。
このレストランを予約するときに座席の希望を聞かれた。
たいていの人たちは窓側の席を希望するようで、見ると窓側は多くのカップルでにぎわっていた。
私は敢えて壁際の奥の席を選んだ。
混んでいる窓側の席よりも、奥の席の方が彼女が落ち着くと思ったからだ。
今では田舎暮らしだけど、2人はもともと都会の人間だから別に夜景も珍しくないし、夜景ならあとで部屋からいくらでも見れる。
それよりも料理を楽しみたい。
「さっきの人ね、あなたの方を見てたのよ。」
「エスカレーターの時?」
「そう。あなたの方を見て、あなただってことわかったと思うの。」
「まぁ、それならそれでいいじゃないか」
「そうだけど、私、何だかイヤなのよ。いつも見られてるようで。」
確かに彼女の言うこともわかる。
いつどこから誰に見られているかもしれないというのは、ある種の恐怖かもしれない。
だから、最近では2人で食事をするときは私は壁に向かって座り、彼女は壁を背にして座るようにしている。
そうすれば気が付かれないから。
ところがこのレストランは対面で座らずに90度横の位置で座るスタイル。
つまり、2人で壁を背にして窓の方を向いて食事をする。
私は眼鏡を変えることにした。
ポケットから取り出したリーディンググラス。
この眼鏡をかけると人相が変わる。
「これでいいかな。これならわからないだろう。」
「そうね。ありがとう。」
実はこの眼鏡をかけると遠くが見えなくなる。
でも、まぁ、彼女の笑顔とおいしいお料理に集中出来ればそれでよしとしよう。
「ワインでも頼もうか。」
彼女は別人となった私に満足したのか、微笑みながらグラスを傾けた。
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と、ここまでは連休恒例のプラトニックな官能小説風のお話でした。
ということで、私は昨日今日と食堂車「オハシ」に乗務しました。
雪月花もそうでしたが、大井川鐵道のオハシもカップルでいらっしゃる方が多い。
だから、イベントの時のように私のスマホで皆さんの姿を写すことはよしておきましょう。
ご夫婦もいらっしゃいますし、ご夫婦のような方もいらっしゃるでしょう。
今の世の中、多様性の時代ですからね。
車内で皆様からカメラをお借りして記念撮影のお手伝いをしていますが、私のスマホで写すのはとりあえず差しさわりの無い人。
先週もいらっしゃました。
「ブログには絶対に載せないでください。」
というわけあり風なお二人。
まぁ、いいんですけど。
皆様それぞれお楽しみいただければ、それでよいのでございます。



ご乗車ありがとうございます。
東京と大阪から友達がやって来てくれました。

近鉄が故障しましたので、けいはん電車はSLに変更してご乗車いただきました。

神奈川県からのお友達です。



こちらは北海道からのお友達。
静岡空港に降り立って直行していただきました。
なんだかんだで楽しい2日間でしたが、私がオハシに乗務したのは友達が来るからではありません。
実は、大井川鐵道はもうすでに春の観光シーズンが始まっていて、たいへん忙しいのであります。


▲昨日の家山駅

▲こちらは今日の家山駅
昨日今日と、こんな状況ですので各所で人が足らず、「社長はオハシに乗ってください。」となるのであります。

SLの運転席も女子に囲まれております。
まぁ、去年までの新潟とは大違いで、春の観光シーズンはすでにスタートしておりまして、そういえば房総半島もこの時期はすでに勝浦のひな祭りで大賑わいしていたことを思い出しました。
5年間新潟にいて、少し春観光の感覚が鈍っていたようなので、やばいやばい、と焦っております。
今日来てくれたお友達も、
「あれ? 社長居たの? オンラインサロンのスケジュールでは出張ってなってたけど。」
と言われました。
私はオンラインサロンで会員の皆様向けに特別に自分のスケジュールをお知らせしていますが、先月末の段階でのスケジュールから大きく変わっているのです。
とはいえ、2月からこれだけのお客様にいらしていただくのはありがたいことですよね。
てなわけで、私は今度の土日、3月1日にオハシに乗務の後、その晩の夜行対応。そして翌2日のオハシ乗務と、なかなか激務なのであります。
ていうか、お昼の食堂車に乗務して、その晩の夜行列車、そして翌日のお昼の食堂車って、すごくない?
だって、食堂車も夜行列車も私が言い出しっぺですから。
皆さんが喜ばれている表情を見るのが、私にとっては一番の安らぎになるのです。
去年までこの時期は閑散期でしたが、今年は完全に旅行需要も回復していますので、一生懸命お仕事をさせていただきます。
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そうそう、このブログの読者のうち、特に女性の読者の方にご好評をいただいているプラトニックな官能小説。
連休の時に掲載しようと思っているのですが、フィクションですからね。皆様誤解のないようにお願いいたします。
まぁ、全国出張で飛び歩いている身でありますから、ときどきはきれいな女性や、それなりの女性と一緒に食事をしたり、お茶を飲んだりすることもありますが、私は基本的にはプライベートは公開しない主義でございまして、まして、〇〇な関係の女性とデートするときは絶対に人目を避けて行動する主義でございます。
だから、皆様方が私がきれいな女性や、それなりの女性と一緒に居る姿を見かけたとしても、それは〇〇な関係のお相手ではございませんので、どうぞご安心ください。
と、申し上げておきましょうね。
明日は1日だけお休みをいただいて、あとはしばらくの間ぶっ続けでお仕事でございます。
ご乗車いただきました皆様、ありがとうございました。
▼今夜はこの曲で締めくくりましょうか。
ミッシェル・ポルナレフMichel Polnareff/哀しみの終るときCa N’Arrive Qu’aux Autres (1972年)
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