庶民の楽しみを奪う権力者たち

今夜はビールを飲む気がしない。

明日から酒税法が変わるということで、朝からいろいろなニュースで報じられています。
中には、「あなたはどうしますか?」などとインタビューしているシーンも見られましたが、箱単位で第3のビールを買っている人たちを見ると悲しくなりますね。
権力者たちはなんでこんな人たちの小さな楽しみを奪うのかと。

申し上げておきますが、権力者というのは国会議員の先生たちでもなければ総理大臣でもないですよ。国だけじゃなくて県や市などの行政には税金を徴収する権利と分配する権利が与えられているわけですから、つまりは国、県、市や町の公務員の皆さんたちが権力者だと私は考えています。
多分縦割りで働くご本人たちにはその自覚はないでしょうけどね。

今回は全国一律の酒税の話ですから国でしょうけど、そもそも論としてなぜ発泡酒が誕生したか。
それはビールの税金が高すぎるからです。
だから、麦芽の分量を調節してビールの税金がかからないところでビールを作ったわけで、それがビールと区別するために発泡酒と呼ばれるようになった。

当然、庶民は安いものを好みますから発泡酒が売れるようになる。
売れるようになれば作る側は切磋琢磨するから、最初は大したことがなかった発泡酒の味がどんどん磨かれていく。
そうなると発泡酒の売れ行きがさらに伸びる。

で、どうなりましたか?

権力者たちは発泡酒に掛ける税金を上げたのです。

すると、誕生したのは第3のビールという麦芽以外の大豆などの材料を主原料とするお酒です。
そして、それがまた人気になってどんどん売り上げを伸ばす。
売り上げを伸ばすと作る方は切磋琢磨しますからどんどんおいしくなる。

で、今回です。

第3のビールの税金が上がるのです。

ワインも同じ。

どんどん人気が出てシェアを伸ばす。
すると税率が上がる。

上がるのではなくて権力者である公務員が税率を上げるのです。

これがこの国の構造です。

で、民間の活力でどんどん磨かれておいしくなってきた発泡酒や第3のビールに押されて売り上げが落ちてきている本来のビールと日本酒の税率を下げるという。
いやいや、これって売り上げが落ちてきているんじゃなくて、力ずくで売り上げを落としてきたんでしょう、あなたたちが。

で、思い出したんです。
前職に就任した時のこと。
もう11年も前のことですが。

就任直後会議に呼ばれまして、第3セクターですから周りは公務員とJRの出身者ばかり。JRは公務員よりも公務員的と言われていますから推して知るべしですが、そういう会議に私が出た。
一つだけ誤解のないように申し上げておくとすれば、皆さんそれなりに優秀で、仕事熱心な方々ばかりでしたが、その会議の席上で「どうしたら売り上げが上がるか。」という話になりました。
最初の会議だから私は黙って聞いていたんですが、実に面白い方向に話が動いていきました。

売り上げを上げるための会議ですよ。
その席上で、ある出席者がこう発言しました。
「1日乗車券というのが数字を伸ばしています。これを値上げしましょう。そうすれば増収になります。」
すると別の出席者が、
「良いですね。確かに1日乗車券は安い。だから値上げしてもよいでしょう。」
みんなでそういう方向に話を持っていくんです。
私は唖然としました。

ややしばらくして、座長が私の方を見て、
「社長はどう思われますか?」
と聞きますので、私はこう答えました。

「あのね、1日乗車券が売れているということは、そこにビジネスチャンスがあるということです。それを安易に値上げをしたらビジネスチャンスをつぶすということになるのがわかりませんか?」

今度は皆さん逆に唖然とした表情になりました。

そこで私ははっきりと申し上げました。

「せっかく売れている1日乗車券を値上げするのではなくて、1日乗車券を買っていただけるお客様の数そのものを増やしましょう。」と。

これ、公務員の方々の特徴なんです。
どこにビジネスがあるのかわからない。
どうやって魅力的な商品を作って、あるいは今ある商品を魅力的なものにして、今よりももっと売れるようにするか。あるいは新しくお客様になっていただくか。
こういう当たり前のことを考える能力が全くないのが公務員という人たちなのです。
その理由は税金を徴収する権利と分配する権利を持っているから。

で、日本全国の自治体をはじめ県や国がどうしても抜けられない閉塞感に包まれている今の現状というのもここからきているんです。
人口減少で税金を払ってくれる人たちが減っている。
不景気で企業から税金が取れない。
その割には高齢者医療等で支出はどんどん伸びていく。

ふつうだったらどうやったら売り上げが上がるか考えますね。
でも、権利として税金を徴収することが彼らの売り上げですから、お客様を探して商品やサービスを買っていただいて、お金を払っていただくという発想がない。
自分たちで商品を作って、お客様に買っていただくことで売り上げを伸ばし、収入を上げるという発想がゼロなのです。
だから、今回の酒税法の改正も全く同じで、売れているものに課税をする。
庶民の皆様方がささやかな楽しみにしている第3のビールを増税するという方法を選択するんですね。

こういうことをする神経というのが私には理解できない。
でも、彼らにとっては私のことが理解できないと思いますよ。

でもどっちが権力を持っているかと言えば向こうですからね。
だから、私はもう二度と公務員とは仕事はしたくないと思っていたのですが、どういうわけかまたご一緒させていただいているというのが現在の状況。
なんだか人生は面白いなあと思うのですが、お互いに相手が何を考えているかわからない状況でしょうけど、少なくとも私と仕事でご一緒してくれている公務員の人たちは、学生時代には私なんかよりずっとずっと優秀だった人たちであることは確かでありますから、私は相手を尊敬していますし、そういう人たちが一番売れ筋の商品を値上げしてビジネスをつぶそうと気づかぬうちに行動してしまう思考はどういうとこから生まれるのか、大変興味をもって接しさせていただいております。

前職の時と今とが違うのは、前職の時は、もうだめだと言われているローカル線を「俺にやらせてくれ!」と言ったのはお前の方なんだから、そこのところ、よく解かっているだろうなあ的な言われ方をことあるごとにされてきましたが、今の立場としては、皆で何とかこの鉄道を運営していくためにお前の力が必要なんだ的に接していただいておりますので、私はそういう意味では頑張ろうという気になるのですが、それでも相手が公務員となると、戦わなければならない局面が今後出てくるんだろうなあと、漠然としたところですが、闘志がわいてくるのです。

もう二度と公務員と仕事はしないと考えていた私がなぜまた自分から進んでやっているか。
それは、私が彼らとともに仕事をして、時として戦うことで、鉄道をご利用いただくお客様はもちろんですが、新潟県や、ひいては日本の国全体にプラスになるということが、今、はっきりとわかるからであります。

つまり、石橋を叩いても渡らない人たちが、安易に取れるところから取るようなことを黙って見過ごすようなことは民間の発展を阻害することになるのですから、私が戦うのはそこの部分だろうなあと、酒税改正のニュースを見て感じたのでありました。

まぁ、需要の開拓だとか潜在需要の顕在化などということは、大したことではないという前提に立ってのことではありますが。

だから、今夜はビールを飲む気にならない。
しかるに液体ポテトを飲んでいるのであります。

明日あたり偉い人から電話がかかってくるかもしれませんが、だとすれば痛いところを突いたということになりますから、私は間違っていないと確信することになるでしょう。

嫌な奴なんだろうね。
きっと。

でも、お互いに目指すゴールは共通ですから進むしかないのです。