真実はどこまで知るべきなのか?

ハワイに行く飛行機が機体のトラブルを起こし羽田空港に引き返して滑走路に擱座して動けなくなりました。

そのあおりで国内線の飛行機の多数が運休となり、予約していたお客様が乗れない事態になりました。

滑走路で飛行機が擱座して動けなくなるということは不可抗力の事故ですから、航空会社としては輸送の責任を負うことはできませんし、お客様が被る不利益を保証することもできません。

テレビのニュースを見ていたら乗客のおばさんが、「何とかしてください。困るわ。連れて行ってよ。乗り継ぎでも何でもよいから。」と答えていました。

それを見て、私は、「ああ、今の時代はこういう人も一人で飛行機に乗って旅行する時代なんだなあ。」と思いました。

一昔前なら、誰かに連れて行ってもらっていたような人が、一人で飛行機に乗って出かける時代は歓迎すべきことではありますが、でも、不可抗力で飛行機が飛ばないなんてことが起きたら、こういう人はとても大変な目にあいますね。

自分の判断で、自分の身の振り方を考えられる人じゃないと、いざという時は厳しいかもしれません。

 

通勤途中の電車が人身事故で止まってしまうなんてことも、今では日常茶飯事です。

そんな時、若い人たちはどうしているかというと、スマホのアプリを立ち上げて、自分の前の電車がどこでつっかえているかをチェックして、線路がふさがっているようなら、さっさと電車を降りて、自分で経路変更して目的地に向かいます。

「ただいま、この電車の前に電車がつかえている関係で、この電車は当駅でしばらく止まります。」

車掌さんがそんなアナウンスをする前に、気の早い人たちはみんなさっさと行動に移します。

車掌さんは乗務中にスマホのアプリで自分の電車の状況を確認するなんてことはしませんから。運転指令所に無線で連絡し、運転司令員から状況を聞いて、お客様へのご案内を出すように指示されて初めて車内アナウンスで、「この電車は当駅でしばらく停車します。」とやるわけですが、その時にはその情報はすでに古い情報となっていて、我先にと急ぐお客様は乗務員からの伝達など信じて待っているなんてことは、今の時代はやりません。

 

飛行機もそうですね。

機内Wifiサービスなんてのがありますから、私だっていつも自分が乗っている飛行機の飛行状況を機内で確認しています。

ハワイに向かっていた飛行機が羽田空港に引き返してくる状況だって、このように誰でもが見ることができるのです。

(クリックすると拡大します。)

 

 

私は業界の人間ですから、こういうのも見て、「ああ、やはり緊急着陸だから勝浦から木更津を通ってまっすぐに34Rに降りたな。」とか思うわけですが、実際に飛行機の中にいる人たちだって、こういうのを見ることができるわけです。

実際に今飛んでいる飛行機を見てみましょうか。

 

大阪から羽田に向かう全日空の40便です。

 

機体はB777-200.

登録番号はJA707A。

今、431ノットで飛行しています。時速に直すと約865KMです。

そうこうしている間に千葉市上空まで来てしまいました。

そして東京湾上空から羽田空港に着陸です。

このコースだと滑走路は22ですね。

 

とまあ、この飛行機に乗っているお客さまだって、これと同じ画面を見ることができるのが今の時代です。

 

でも、はたしてこういうことって便利なことなのでしょうか?

 

実際に機内で見ていると、まあこんな感じでそろそろ富士山が見えるかなあ、などと思ってカメラを取り出して待っていると、

ほらね、と実に便利なツールなんですが、でも例えば昨日のように羽田空港で何かが発生するとどうなるか。

機長さんがアナウンスで

「ただいま羽田空港でトラブルが発生し、着陸できない状況です。当機は管制塔からの指示でしばらく上空で待機します。」

と、まあこのような情報を得られるわけです。

でも、この情報を信じてよいのかどうか、と疑問に思う人もいるわけで、そういう人は、機内Wifiに接続して自分の状況を知ろうとするのです。

で、そうするとこういう画面になるのです。

 

「なるほど。佐倉VORでホールドして、次は御宿で2周ホールドか。確かに現時点で羽田への進入機はいないな。」

そして

「このヘディングだと羽田は再開したからもう降りるな。」

ということが分かります。

私は業界人ですから、まあこんな感じで知り得る情報は知りたいと思いますが、昨日テレビのインタビューに出ていたおばさんのような、何の知識もない人が、いきなりこういうのも見せられたらどうなるか。

おばさんじゃなくても、若いお兄さんやお姉さんだって、「おいおい、いったいどうなるんだ。」と不安になるのではないでしょうか。

 

だから、私は思うのです。

人間知らなくてよいことは知らなくてよいのだと。

知らなくてよいことを知ろうとすると、意外と不幸になるのです。

だって、飛行機の中で、こういう情報を乗客が知ったところで何になりますか?

どうにもならないでしょう。

だから、そういうことは知らなくてもよいのです。

 

現代は情報化時代。

インターネットの発達で、人々がいろいろなことを知ることができるようになりました。

でもね、本当は知らない方が幸せなことってたくさんあると思うのです。

 

だから、政治の世界でも、医学の世界でも、知らなくてもよいことは、知らなくてもよいのだ。

 

と、私は考えることにしているのです。