いろいろな見解 つづき

(澤田敬光さんの見解の続きです。)
■医者じゃない人が手術しても助からない
私は何時もこう言います、「最愛の人が病気になったらどうします?」と。
当然、病院に連れて行って医者という専門家に見てもらいます。
どんなに「助けたい」と思っても、医学の知識がない家族が助ける事は出来ないんです。
しかし、ローカル線の活性化というのはまるで家で手術するような事が起きます。
麻酔の仕方も、消毒の仕方も知らない家族が台所から包丁持ってきて腹を切り裂いても助かりっこないんです。
でも、それをやってしまうのがローカル線の活性化や町おこしなんです。
例えば、上記のパンフレットのケースも、何をしていいのか全く分からないままにやってしまった結果なんです。
まず、ターゲットイメージは何か?
全く考えていないんです。
商品やサービスを開発する場合、ターゲットイメージというのは極めて重要です。
男か女かと言っても子供から老人までいるわけですし、二十代女性といっても、結婚している人と、結婚していない人でもまた違います。
それによって発信の仕方が変わるわけです。
例えば二十代でも未婚の女性であれば、少し小金を持っている可能性があり、女子同士で旅行をする、その目的は自分へのご褒美やリフレッシュが目的と言う人であれば、ちょっと贅沢な旅をしたいのではないでしょうか?
一方、二十代女性といっても主婦の方なら、家計のやりくりの中で主婦同士が旅行に行くのなら、コストパファーマンス的な物も求められるでしょう。
このように「二十代女性」と言っただけでも、全くターゲットイメージが異なります。
こう言った事が分からないまま思い付きでやっても良い方向には向かわないどころか、かえって状況が悪化します。
これは医者の話と同じで、どんなに助けたいと思っても医学と言う知識も経験もないのに家で手術しても助かりっこないのです。
本来、お客様誘致や宣伝、プロモーションは広告代理店が何億円もの費用で受託する専門職です。
もちろんこんなローカル線に宣伝費何億円もありませんから、広告代理店に頼むのは無理としても、そういう勉強を何もせず知識もないままに勢いだけでやっても助かりっこないんです。
しかし、「住民は何もするな」と言っているわけではありません。
そこも医者の話と同じです。
医者でなくては手術はできませんが、入院中の看病や世話は家族がする物ですし、友人などが「がんばれよ」とお見舞いに来ることも大切です。
そういった役割分担をしっかりすればいいのです。
■自己満足に終始した長野電鉄屋代線存続運動
2012年に長野電鉄の屋代線が廃止となっています。
私はここの路線は残ろうと思えば残れた路線だったと思います。
しかし、残ることができなかったのは、住民はまさに自分たちが何をしたいのかという方向だけで動いたことです。
「廃止阻止、存続」という目標を立ててそのを実現するためには何をしなければならないのかという方向ではなく、自分たちがやりたいことを自分たちのペースでしかやらなかったのです。
また、行政が何度も活性化シンポジュウムを開催し、いすみ鉄道の鳥塚社長も講演し、「廃止論議が出る路線は人間に例えるのなら言わば末期がん。その末期がんの人に『体に良い物食べましょう』とか言っても何の意味も無い。直ちに緊急手術が必要。」と言われています。
つまり、廃止論議が始まっている時に「乗って残そう」とか「花壇の手入れしましょう」とかそんなレベルの事をやっていても残れないですよという意味ではないでしょうか。
具体的には、年間数億円赤字が出ているというのなら、その赤字を誰が負担するのかとか、誰が運行主体になるのかとか、住民が残せというのなら住民がその費用の一部負担するとかそういう具体的な論議が必要な段階です。
鳥塚社長も、残せというみなさんで募金募ったらどうかと、一人一万円でも沿線三千人いれば、3000万円になりますよと。
いすみ鉄道も実際に沿線住民の募金が経営の一部になっているんだと紹介しました。
「乗って残そう運動なんてやって残ったためしがない」「残したって皆さんどうせ乗らないんでしょ。でも乗らないけど残したいというのなら乗らないけど残そう運動をしましょう」と提言しました。
その提言を受けて住民の人は何をやったのか?
http://szh-449901.cocolog-nifty.com/…/03/01/dsc03148_640.jpg
乗って残そう運動をやりました。
それをやって残ったためしがないぞと言われても、やるんですよこういう所って。
つまり、残るために何をしなければならないのかではなく、自分たちのペースで自分たちの思い通りの事をして、結果が付いて来てくれないかなぁと思っているだけなんです。
残るために必要な事は何もしてないんです。
全く残るためには程遠い事をして、「俺たちはこんなに頑張っているのに」とイデオロギー論と精神論に終始するばかりなんです。
こんな状態にある公募社長もこう言われていました。
「ここは残れないと思いましたよ」
とかく住民の人は「俺たちはこんなに頑張っているのに」と言いますが、本当に修羅場を潜り抜け生き延びる活動をしてきた人たちからすれば、廃止論議が出ているのに「乗って残そう」とか言っているのは、「ほぼゼロ」という状況なのです。
■残ったところは残るために必要な事をした
一方、廃止を阻止したのが「えちぜん鉄道」です。
ここは元々「京福電気鉄道」でしたが、ここも廃止論議が1992年に始まります。
そんな中、設備の老朽化も一因として2000年と2001年に立て続けに衝突事故を起こし国土交通省からも運行停止命令を受けるも、運行継続は困難として廃止届が提出されます。
しかし、「えちぜん鉄道」は通称「第四セクター」と言われるように、自治体、企業のみならず、沿線住民も約5千万円出資しています。
あるいは「万葉線」、元の「加越能鉄道」の存続に当たっても、住民などが組織した団体が1億円を集めて、開業資金として寄付しています。
つまり、生き残ってきたところは、ただ「乗って残そう」と叫んだり、誰にでもできる様なイベントを開催して「こんなに頑張っているんだ」などのイデオロギー論と精神論に終始しておらず、自分たちもリスクを負って費用を出し、そこまでしてでも残したいぞというアピールと実際の行動をしています。
「交通弱者の事を考えろ」「将来の町に発展に」とはいう物の、誰もリスクを負わない、費用も出そうとしない、ただ「頑張っている」というイデオロギーと精神論に終始しただ叫んでいるだけという所は結局残れないのです。
■しかし、求めているのは「改革者」ではなく「お友達」
今までも、こういう問題点を色々と指摘しましたが、これをやると大体妬み嫌われるんです。
「俺たちにイチャモンつけやがった」になってしまうんです。
今も沿線の役所にお勤めの方にFacebook上で何度かコメントしていますが、完全に無視されている状態です。
でも、この問題って地方創生の各地で起きている問題のようです。
そのため東洋経済の「地方創生のリアル」という特集記事でも指摘が出ています。
「地方は「好き嫌い」で物事を決めすぎる」
http://toyokeizai.net/articles/-/80783
「ここが問題ですよ、ここを改善しないと」と行くと、「気に入らねー」になるんです。
要するにこういう所は改革をして発展したいんじゃないんです。
みんなと楽しくやってくれるお友達を探しているわけです。
結果、どうなるかというとその東洋経済にもあるような、「ごますりコンサルタント」が採用されてしまうわけです。
「皆さんのご意見を尊重し、皆様と共に・・・」みたいなまるで選挙みたいな事をやる人が採用されてしまうんです。
でもこんなことやった結果どうなったか?
鉄道会社でも公募社長と言うのが一時は流行りましたが、あれから数年・・・
私が思うに公募社長は半分は成功して半分は失敗したのではないでしょうか?
全く話題がない所や、何の改革もできず解任になったところまで出ています。
すでに社長公募していたことすら忘れられているような所も出ています。
以前、社長公募に落選者した方たちが集まって意見交換したことがありますが、みなさん素晴らしいアイデアや高度な経営分析をしている方々がみんな落とされていました。
結果、これといって何もできない人が採用されている事例があります。
私も実はある公募社長に応募して、再生案として特別何もない所だけど国鉄時代の風情が残っているので、JR西日本で廃車になりつつあるキハ28を引き取って、国鉄時代を彷彿させてる路線にすべきだと提言しましたが不採用になり、そのキハ28がいすみ鉄道で引き取られて、大きな話題になっているという、なんとも皮肉な事が起きています。
秋田内陸縦貫鉄道でも、採用された公募社長は結局何もできず任期途中で解任になり、現在色々な運動をしているのは公募で落とされた大穂さんと言う方と言うなんとも皮肉な状況が起きています。
採用された方が何もできず、落とされた方が改革する・・・
これ、他でもこの現象が起きているんです。
こう言った事があちこちで起きていているのです。
結局改革できる人を求めているのではなく、みんなと仲良くやってくれる人を求めているだけなんです。
もちろん、頭ごなしに怒鳴りつける様なのも気分悪いのも分かるので、組織論としてはいきなりそれは間違っているでしょうが、現実を見ない運動は日の目を見ないのです。
残る所と残らない所には明確に違いがあるというわけです。
■三江線は今後どうすればいいのか?
結論から言えば私は廃止を免れないと思います。
ただし、廃止=線路を剥がすという意味ではありません。
つまり、JR西日本としては経営できないだろうということです。
ですから、沿線住民、自治体が本当に「必要だ」「残してくれ」というのなら、「残してくれ」という人たちがリスクを追う必要があるのではないでしょうか?
それはJRから設備を譲渡してもらい、自分たちで運行をするということです。
具体的には、設備を行政が引き取り新たな運行会社を設立して行う、上下分離方式です。
第三セクターというのもありますが、赤字になると行政が負担する第三セクターは言い変えれば経営努力しなくても赤字にならないという方式のため、グダグダとやって赤字が積み重なる傾向があります。
そのため、最低限インフラは行政が責任をもって所有維持するけど、運行は運行会社の経営努力で責任を負うという方式が望ましいでしょう。
また、私個人としても三江線はJR西日本から経営分離して独自性を持った方が良いと思います。
ですから「三江線にトワイライトエクスプレスを走らせよう」という企画でも、「すべてJR次第」だったわけです。
ですからJR西日本が車両貸さないというのですべてお手上げです。
それでも北斗星とかカシオペアの車両持ってこようと言う案もあったのですが、こちらも走らせるかどうかはJR西日本次第なんです。
ですから、いっそ切り離して、独自性をもってやった方が私は良いと思います。
ここの風景は絶景ですから、何もしないのはもったいないです。
特に今は海外からの観光客が大勢押し寄せているわけですから、そういった人たちを取りこむ要素は多数あるはずです。
そういった部分をよりやりやすくするためにも、ただ「廃止反対」と叫ぶよりJR西日本の提案はポジティブに考えて、「廃止で結構です。ただし設備は無償譲渡してください。あと、トワイライトの車両もタダでください。」くらいの方向に持って行く方が私は良いと思います。
■最後に
決して、住民や沿線の人を批判しているわけではありません。
三江線と言えば石見川本鉄道研究会の沖田さんという方、三江線の愛で自費で色々な活動をしているんです。
そこは皆さん評価してあげてほしいと思うんです。
そういう人たちが沿線に少なからずいるということは忘れないでほしいんです。
あるいは沿線の方々も色々な提案をしても何も動かなかったという現実はあるのですが、決して悪い人たちではないと思うんです。
皆さん本当いい人たちですよ。
けど、ちょっとお人好しすぎるというのはあると思うんです。
貪欲さとか打算的なところが無い、皆さん素直な人たちばかりなんです。
それが結果的に、大きな行動につながらないという原因の一つだと思うのです。
今後どれだけ存続の機運が高まって、現実味のある運動に発展するのかが、存続のカギではないでしょうか?
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相当長いですが、澤田さんの見解を全文記載させていただきました。
日本全国津々浦々、地域にはいろいろと異なる事情があります。
地形であったり、気候であったり、歴史であったり、しがらみであったり。
そういう事情を考慮しなければ地方創生とか、地域活性化はうまくいきません。
でも、うまくいっている地域と、うまくいっていない地域を比べてみると、うまくいった原因とか、うまくいかない原因とかいうものは、地域特性によるものではなくて、意外と全国共通の原因があるということが、澤田さんのように、全国の地域を見て歩いている人にはよくわかると思います。
大きな船を外洋に出て航海させるためには、船を操縦できるスキルを持っている人が一人いればよいのです。
そのスキルがないのに、「ああでもない、こうでもない」という人が何人集まったところで、船は目的地に到着することはできません。
ただこれだけのことだと思います。
船の操縦の話であれば、誰もが理解できることでしょうが、地域活性化や地方創生の話になると、こういう基本的なことが理解できていない。
これが勝敗の分かれ目でしょうね。
でも、スキルがない人でも「何としてでも残したい。」という気持ちがあるのであれば、病人の手術はできなくても、看病をしたり、励ましたりすることはできる。
いすみ鉄道の場合は、地元の人たちが、看病や励まし役に徹してくれて、一生懸命活動してくれているわけで、決して自分たちのスキルのないことに口出しをしてこなかったというのが、ここ6年で、いすみ鉄道がここまで来ることができた原因だと思います。
だから、私は、そういう人たちの気持ちや活動に感謝をして、鉄道が観光客を呼んできて、地域にお金が落ちる仕組みを作る努力をしているのです。
私は、こういうことが、ローカル線を使った持続可能なシステム作りだと考えています。
ちなみに、三江線についてですが、只見線に匹敵するようなとてもよい路線ですので、やり方はあると思います。
JR西日本から分離して、西日本という強みを生かして中国資本を入れて、春秋航空とタイアップして、観光鉄道としていくらでも使い方はあると思いますし、地域においしい食べ物やお酒、観光名所もありますから、そうすれば地元にお金が落ちる仕組みができると思いますし、結果として地域の足が確保できるのではないでしょうか。
まあ、私にやらせていただければの話ですが。
今日は、澤田さんの見解を「2つ」連載いたしましたので、明日のブログはお休みさせていただこうと思います。
皆様、どうぞよい週末をお過ごしください。