航空会社の倒産

ヨーロッパでは、この数日で2つの航空会社が倒産(無期限運航停止)状態になっています。
1つはスペインのスパンエア、もう1つはハンガリーのマレブ航空
オフィシャルサイトはどちらもすでに機能しない状態になっています。
スパンエアは新興航空会社ですが、マレブ航空は50年以上の歴史があるハンガリー国営航空で、日本にもチャーター便などでよく飛んできていましたので、東ヨーロッパを旅行された方でしたら、乗られた方もいらっしゃると思います。
予約して、航空券を購入した航空会社が運航できない状態になると、お客様はどうなるのでしょうか。
答えは簡単。
持っている航空券は紙切れ同然になり、他の航空会社に乗る場合は、再度お金を払って航空券を購入しなければなりません。
昨年末にアメリカン航空が事実上倒産し、チャプター11を申請しましたが、アメリカではこのチャプター11が通れば、つまり、これからも必要な会社であると公的に認められれば、政府が当面の資金を援助し、運航を継続することができます。
でも、ヨーロッパにはこのような制度はありませんから、キャッシュフローが底をつき、資金手当てができなくなれば、即、倒産ということになります。
お客様が持つ航空券は発行した会社が支払いを保証するので、他の会社も振り替え輸送等に応じるわけですから、その発行会社が倒産すれば、他の航空会社も輸送を引き受けることはありません。
乗務で外地に滞在しているクルーも、帰る飛行機が無くなるわけですし、滞在ホテルも会社からの支払いが見込めない以上、延長滞在を認めてくれるとは思えませんから、各自でなんとかするか、労働組合がレスキューするしかなくなります。
私が成田空港に勤務していた時にも、いくつかの航空会社が倒産しました。
そういう場合は本国から「○○航空の航空券を所持する乗客を受けてはならん!」という指示がすぐに回ってきますから、チェックインカウンターで、倒産した航空会社の航空券を所持するお客様の搭乗手続きをお断りすることになりました。
ところが、お客様の方は、お金を支払っているのですから、乗せてもらえないとなると激怒しますし、人によっては自分が航空券を買った航空会社が倒産したことすら知らない人もいますから、お客様はとても困惑して途方に暮れてしまうのです。
このような時は、我々が持っている情報を開示して、本社が救済のための特別運賃を提示している場合は、その運賃で新しく航空券を買っていただくか、お客様に航空券を買われた航空会社の窓口に行くか(成田空港に就航している会社の場合)、あるいは大使館に行って相談することを進めることになります。
日本では考えられないことですが、これが世界の現実です。
ではなぜ急に2つの航空会社が倒産したのかというと、それは経済危機の影響もあるでしょうし、航空自由化の影響もあるでしょう。
例えば、日本航空が2年前に経営破たんして、本来であればその日から全面運航停止に陥るところでしたが、事実上のチャプター11のように政府が当面の資金を援助し、運航を継続することができました。
ところが、航空自由化が浸透しているヨーロッパでは、政府が自国の航空会社を保護する目的であっても、このように資金を援助して手を差し伸べること自体が「フェア(公平)でない」とされ、EU本部から「資金援助をやめること。」「援助してもらった資金を返還すること」と命令を受けることになるのです。
今後、日本でも格安航空会社が海外から続々と入ってくる。運賃の価格競争が起きますから、それ自体はお客様にとっては良く見えるかもしれませんが、それで大手が経営危機に陥ったとしても、アジア圏の航空自由化を標榜する以上、政府が国内の航空会社を援助し、助けることは国際的には違法行為に匹敵することになるかもしれません。
JALやANAが倒産して、日本の空を飛ぶのは東南アジアの格安航空会社の飛行機ばかり、ということだって可能性としてはゼロではないわけです。
私たち日本人はこういったことにはまったく疎い人種ですから、ふだんの生活で世界情勢について考えることなく過ごしている方がほとんどだと思います。
だから、そういう国民に対して、将来の国家デフォルトの可能性や、増税論を展開してもアレルギー状態になるだけだと思いますが、この2つの航空会社の倒産を見ても、ギリシャに端を発したEUの危機は、着実に進んでいる(悪化している)ことは確かなようです。